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383話 離島研修 ⑨ 〜報告書

 日も暮れたので家に入り、夕食の準備をする事にした。今夜はオスカルにシャリを食べさせてやるつもりだ。


 米を水に浸している間に宰相と約束した一日一回の報告をしておこうと思う。


 宰相には、日報みたいなものを書いてタイガーに運ばせようと思っているのだが・・・たった一日で色々な事があった。

 これを全部報告しようと思うと、結構長い文章になるのでちょっと面倒だ。だからと言って直接話しに行ったりすれば長く捕まりそうな気がするので、絶対行かない!



「アシュリー、それは?」

「宰相様への報告書です」

「報告書・・・それが?」

「あんまり報告になってないよね?」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 色々ありましたが、全員無事です。

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 私が書いた報告書を皆が覗き込んでダメ出しをして来る。


「無事なのが分かれば良いのではありませんか?」

「そりゃそうだけどなぁ、宰相様はもっとこう…その『色々』ってのを知りたいんじゃないのか?」


 まぁ、そうだろうな。

 仕方ない、書き直すか…。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 家を建て、綿の木畑を作り、

 魔物狩りと魔物討伐をしました。

 全員無事です。

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 うん、良いのではないか?

 簡潔ですぐ読める。


「すごい簡潔だね・・・。何か色々あったけど、一言で言うとこれだけなんだ」

「俺、生まれて初めての経験ばかりだったんだけどなぁ、ちょっと虚しいな・・・」

「僕も初めてだよ。家を建てたのもハブムカデなんて魔物も!」


「シュマン王国へ行った事は報告しておいた方がいいんじゃないか?父上も知っておくべきだろう」


 くっ・・・それがあったか!

 また書き直しだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 家を建て、綿の木畑を作り、

 魔物狩りと魔物討伐をし、

 シュマン王国へ行った。

 スルホ侍従長は一命を取り留めた。

 全員無事です。

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 よし!完璧だ。


「「「・・・・・・」」」


「余計に疑問が増える報告書だよな」

「うん」

「父上と宰相がやきもきと心配している様子が目に浮かぶぞ」

「お嬢様、面倒くさがらずに課題だと思ってきちんと書いてください」


 うっ・・・またダメ出しか。


「アシュリーは訓練以外は面倒くさがりなんだな」


 ギクッ!


「そういえば、刺繍とかも面倒くさそうだもんな」


 ギクギクッ!


「そ、そんな事はありません!」

「そうか?面倒くさいなら私が代わりに書いてやろうかと思ったんだけど・・・」


 なんと!?


「こういうのは必要だからって、スルホが教えてくれたから。アシュリーの報告書よりはちゃんと出来るよ」


「はい!すごく面倒くさいです!!」


「「「アシュリー・・・」」」

「アシュリー様・・・」

「お嬢様・・・」


「では私は美味しい夕食を作って来ます!」



 報告書はオスカルに任せ、クラリッサと共に夕食作りに専念した。



 簡単に食べられるおにぎりにする為、米を炊いている間に具を作った。

 ザーモンを塩焼きにしたもの、つまり塩鮭。

 プローンを茹でてマヨネーズと和えたエビマヨ。

 そしてクラリッサが作ってくれた、ワイルドボアのしぐれ煮の3種である。


 米や魚に調味料まで持ち歩いているのは自給自足とは言えず、ちょっとズルをしているような気もするが・・・まぁ今日だけは良い事にしよう。



「熱っ!熱っ!」

「アシュリー様、一度器に出した方がいいですよ」


 ご飯が炊けたので、せっせとおにぎりを握っていると・・・


「アシュリー!書けたよー!」


 オスカルに呼ばれたのでいそいそと見に行った。




 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目①

 午前8時:到着


 挨拶の後、二班に分かれ作業にかかる。

 〇一班

 綿の木植林

  オスカル、アシュリー、

  ローレンティア、クラリッサ、獣人二人

 収穫と糸紡ぎ

  ローレンティア、クラリッサ、獣人数人

 〇二班

 家の建築材料確保

  ギルフォード、ムハンマド、

  デヴィッド、ヘクター、獣人二人

  後にオスカルとアシュリーが合流

 家の建築作業

  獣人の手伝い増える


 午前11時15分:家が完成


 主な材料はサイプレス

 竈の周辺のみ土壁、石材等を使用

 土台には鉄材と石材使用

 土壁、鉄材、石材は全てアシュリーの魔法による

 大きさは15タント×20タントほどと思われる

 3部屋に区切られている


 その後、一班は家の中で糸紡ぎの指導

 獣人は興味深く指導を受ける


【特1】アシュリーの地魔法と緑魔法により種から一瞬で綿の木畑が完成した

【特2】アシュリーの地魔法により材質の不明な石材が出来た

【特3】デヴィッドの魔法指導は厳しい

【特4】クラリッサの糸紡ぎ指導は優しく分かりやすい

【特5】獣人の手は獣に酷似しているが、器用に動く


 午前11時30分:二班は食材確保の為森へ狩りに出発


 4頭のワイルドボアと遭遇。


 〜②へ続く〜

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 こ、細かい・・・。

 これ、何枚あるのだ?


 1、2、3・・・は、8枚!?


「これこそ報告書だな」

「すごい細かいね♪アシュリーの報告書見た後だから余計にすごい細かく見えるよ」

「なぁ、この【特1】とか【特2】って何だ?」


「それは【特記すべき事がら】の略さ」


「何これ!僕の指導は厳しいとか、クラリッサが優しいとか必要ないでしょ!」

「必要ある!私が感じた事なんだから」



 パラ…


 どれもこれくらい細かいのか?


 パラ…


 こ、細かい・・・全ページビッシリだ!


 行動や状況の詳細だけでない、この特記すべき事がらは1枚につき5項目ずつ書いているようだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目②


 〜〜〜〜〜


【特6】獣人は人間一人担いでも素早く走れる。かなりの力と身体能力を持つ。岩場やちょっとした崖も移動速度は全く変わらない

【特7】アシュリーの魔法の発動はかなり早い

【特8】アシュリーの障壁魔法は攻撃だけでなく汚れからも守る

【特9】獣人と護衛の騎士とムハンマドは解体に慣れているが、オスカルとギルフォードとデヴィッドは少々手こずっていた

【特10】アシュリーの剣は魔物の骨まで切れる


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ふむ・・・やっぱり5項目書かれている。

 オスカルが気になった事がこれって事だな。


 そういえば、自分が気絶していた魔物狩りの情報は無い…まぁ、書けないか。


 パラ…


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目③


 〜〜〜〜〜


【特11】アシュリーはいつも金属製の竈を持ち歩いている

【特12】アシュリーはどこかに巨大なクラーケンを生きたまま隠し持っていた。何故生きているのか大変疑問である

【特13】クラーケン焼きは獣人にも大陸の人間にも好まれる料理だった

【特14】魔物の肉にアシュリー持参の『焼肉のたれ』という名の調味料を使って焼いた所、大変美味になった

【特15】アシュリーはルートゥが苦手と言っていたがそうでもない


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ふむ・・・

 ほとんど食い物の事だな。

 余程BBQが気に入ったらしい。


 パラ…


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目④


 〜〜〜〜〜


【特16】踊る土人形と共に音楽が聞こえるアシュリーの魔法に不可解さが深まる

【特17】獣人の音感の良さには驚く。しっぽは自由自在に動かせるらしい

【特18】アシュリーは酒にかなり強く、まるで水のように飲み干す

【特19】アシュリーのダンスがかなり衝撃的で、ギルフォードが撃沈。しばらく黙りこくる

【特20】アシュリーはクラリッサに「はしたない」と怒られる


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだこれはっ!

 王子撃沈ってなんなんなんだ!!


 全く・・・私の事ばかりで、王子の報告がやっと出たと思ったらこれか。この報告書を誰が見ると思っているのだ、王様と宰相だぞ!



「あはははは!ギルフォード撃沈だって♪」

「わはははは!確かに黙りこくってたよな!」

「な、なんだ!オスカル!こんな事書かなくていいだろう!」

「事実しか書いてないよっ!」


 あちらでも揉めているようだ。



 パラ…


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目⑤


 〜〜〜〜〜


 〇ハブムカデの生体について

 大きさ:約2タント

 ムカデによく似た魔物でムカデより頭部の比率が高く、牙が大きい

 色:体は黒く光沢あり、無数の足は橙

 昆虫の魔物らしく殻は硬く、熱に強い

 同化能力、分裂能力、鋭い嗅覚を持ち毒を吐く

 毒の効果は不明

 苦手な香草があり、所持するだけで襲って来ない


 〜〜〜〜〜


【特21】酒を飲んだアシュリーは感覚が何倍にも鋭くなる。魔物の能力により気配も察知不可能な状態の時、襲われる『感覚』だけでハブムカデの存在を当てた

【特22】アシュリーとヘクターはかなり戦闘に慣れている

【特23】獣人の戦闘力はかなり高く、目視が難しいほどだった。力はアシュリーよりもあると思われる

【特24】アシュリーの障壁は防御力を落とすことなく匂いのみを外に出す事が出来る

【特25】集団で襲って来る魔物に対して、集団で対処する方法が的確だった。こういった戦法をすぐに思いつくアシュリーはやはり戦いに慣れていると思われる


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ふむ・・・。


 怖がっていた割にはよく見ているではないか。気絶しなければ魔物の観察力も大したものだと思う。


 気絶しなければ・・・。


 これは要訓練だな。

 今度、魔の森にでも行って、たくさんの魔物に会わせてやろう。


 徐々に大きな魔物に遭遇していけば耐性が出来るのではないか?

 ケルベロス様なら触らせてくれるかもしれない!


 最後はヒュドラーで締めだな・・・うん。


 パラ…


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目⑥


 〜〜〜〜〜


【特26】アシュリーはかなり広い広場の解毒をほんの一瞬で完了した

【特27】ギルフォードとムハンマドは地魔法が少々苦手であると言っていたが、予想以上の威力があった。デヴィッドはそれに加え早く的確に終わらせていたので二人よりも得意だと思われる

【特28】宴会の後片付けというものは、少人数では大変な作業だ

【特29】洗浄魔法ではなく川で器を洗ったが、数枚の皿が流れて行った。効率が悪い作業と思われる

【特30】竈の掃除は、アシュリーの障壁を纏っていなければかなり汚れる作業である。特に顔を覆う道具が必要だと思われる


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ぷはっ!

 余程後片付けが嫌だったのだろうな。

 文句を言いたいが言えないのを「大変だ」とか「効率が悪い」という言い方で誤魔化しているようだ。


 まぁ、一週間ほど片付けをし続ければ慣れるだろう。



 パラ…


 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 離島研修報告書 第一日目⑦


 〜〜〜〜〜


【特31】ただ魔法の話をしていただけなのに、アシュリーがスルホの現状に気付いてくれて良かった。

【特32】スルホの罪を簡単に許そうとするアシュリーには驚いた

【特33】外務大臣はスルホを亡き者にしようしていたとは許せない。娘が積極的だったのも父親の差し金だろうか。分かって良かった。

【特34】信頼出来る人とはどのように見極めるのか疑問だ。スルホも自分を騙していたのだろうか

【特35】アシュリーは『努力家が好き』だと言ったから、ギルフォードは努力家なのだろうか



【まとめ】へ続く


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ふむ・・・。


 私がシュマンへ行った事が報告されたこのページの特記は、報告書っぽくないオスカルの気持ちが前面に出ているな。


 うーん・・・あの大臣の娘はやめた方が良い!


 本人には言えないが、オスカルのことを『馬鹿王子なんて私の思うがままよ』と言っていたのだ。それほど長い時間思考を読んでいたわけではないのでその程度だが、あの女が悪女だと分かるには十分だ。



「オスカル。スルホはオスカルを『騙した』のではない」

「え・・・?」


「スルホは自分が思う良い方へ導こうとしただけだ。それが間違った方向だった、それだけだ」


「それを騙したって言うんじゃ・・・」


 そうとも言う。


「スルホが騙した気ではないのだから、それは裏切りでも何でもないと思わないか?」

「う・・・ん」


「まぁ、気にするな」


 おや、もう一枚あるな。

 まとめか・・・。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー


【まとめ】


 アシュリーの行動は無謀な事が多いが、周囲の人間はアシュリーを信用し、彼女の判断に従っている。また、アシュリー自身は毎回その期待に応え結果を残していると思われる。

 獣人ですら既に信頼しているようなので、これまでに信頼に足る出来事があったのだろうか。


 アシュリーがいきなりシュマンヘ行くと言っても誰も止める事はなく、ギルフォードやデヴィッドが、アシュリーが心置きなく出発出来るようにしたのも、そういった信頼によるものだと理解した。


 アシュリーは思いもよらない大仕事を成し遂げて来たというのに、それを自慢する事も、自分に礼を強要する事もない。

 ギルフォードの言葉を借りるなら「アシュリーにとっては当たり前の事だから」ということのようだが、決して当たり前の事ではないと私にも分かった。


 スルホの命を救ってくれたこと、私は心より感謝する。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー



 ・・・・・・オスカル。



 オスカルの方を見ると、スッと目を逸らした。

 感謝の気持ちを文章にしたのが照れくさいようだ。


 ははっ!


 素直なのかそうではないのか分からんな。






「オスカル!身分などないこの離島で学べる事はたくさんあるぞ!後片付けも家を建てるのも何でもできる、頼りになる王太子になるのだ!きっとスルホも喜んでくれる」


「ちょっと違うような・・・」


「苦労は買ってでもしろと言うだろう?タダで経験出来るのだこんな良い機会はない」


「知らないよそんな言葉!」


 おっと、前世の言葉だったか?

 まあいい。



「タイガー!」

「ピィー!」


「これを宰相に渡して来てくれ。宰相は探し難いかもしれないが、まずは国王を探してみるといい」

「ピッ!」


 よし!


『クロベェ頼んだ』


 ブォーーーーーン!!


『ピッ!』



「皆さん、夕食が出来ましたよ」


 クラリッサがおにぎりを運んで来てくれた。


「うわぁ♪おにぎりだ!」

「今日の中身はなんだ?」


「食べてからのお楽しみです」


「クラリッサ、これはなんというものだ?」

「おにぎりです。アシュリー様が開発した『シャリ』という新種の穀物で作ったもので、とっても美味しいのですよ」


「おにぎり・・・」


「こうやって手に持ってかぶりつくのだ!」


「うん、美味し〜い♡」

「はい、今日のおにぎりも美味しいですね!」

「この肉のおにぎりは初めて食べたぞ!美味いな!」

「あぁ、私も気に入った!」


 皆の嬉しそうな顔を見ながら、オスカルも恐る恐るおにぎりにかぶりついた。



「美味しい・・・」



 そうだろ、そうだろ!



 また、明日もがんばろうな。






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― 新着の感想 ―
我が社にもオスカル君欲しい トップとしてはまだまだだけど秘書官としては優秀じゃない?、頑張れオスカル君! クラリッサさんのおにぎり、私も食べたい で…アシュリー様?文系も頑張りましょうね?
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