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第七章 両親からの手紙(完)
「お嬢さま、旦那さまと奥さまからお手紙です」
仔狼のぬいぐるみをなで、まどろんでいたところへカミラがやってきた。
先日、巨人族とわかったフィンと婚約をしたいと両親に手紙を送ったから、その返事だろう。イーヴァルたちがお詫びを兼ね、最速で届くように手配してくれたのだ。ソフィーはカミラから手紙を受け取り、中身を読み始める。
「ありがとう、カミラ」
「旦那さまと奥さまはなんと?」
カミラが心配そうに窺い見てきた。
「フィンとわたくしの婚約を認めるですって」
「まぁ! おめでとうございます、お嬢さま」
「ありがとう。……まあ! フィンったら王国を出る前にお父様にわたくしとの婚約を申し込んでいたみたい」
驚いた。さすが何事もそつなくこなす侍従だ、といえばいいのか。ソフィーが呆れ半分に苦笑すると、カミラが頓狂な声をあげる。
「そうだったんですか?」
「わたくしの意思が絶対条件だったみたいだけどね」
「なるほど。だからフィンさんは留学が決まってから急にお嬢さまを口説くような素振りをなさっていたんですね」
しみじみ語るカミラの言葉にソフィーはこれまでの日々を思い出す。
巨人族の『婚約の儀』の真似事だといって小指を絡めてきたことやリキャルドに恋をしたと思い込んでいたときに顔を近づけて迫ってきたこと。そして『婚約の儀』と称して、フィンが小指に口づけをしたときのこと。走馬灯のようにフィンの侍従のときとは違う顔が脳裏をよぎる。ソフィーは訳もわからず叫びたくなる衝動を抑えるため、仔狼のぬいぐるみに顔を埋めた。
「そういえば旦那さまたちには、フィンさんの正体などお伝えしたのですか?」
カミラが何事もなかったかのように話を変えた。ソフィーはそれに便乗する形で、居ずまいを正す。
「さすがに手紙では書けなかったわ。フィンのことやわたくしの『祝福の儀』の真実をお父様たちが知ったら留学どころではなくなってしまうもの」
「ですがお嬢さまはそれほど留学に拘っていなかったではありませんか」
「そうなんだけど、ちょっと調べてみたいことができたの」
婚約者を探すためだけにホーン国に留学したことをカミラは知っている。だから侍女が疑問に思うのも当然だ。ついこの間まで自分もカミラと同じだった。だからこそ心境の変化を打ち明けるのが少しだけ照れくさい。ソフィーは膝の上に置いた仔狼の耳をいじりながらもじもじした。
「何をお調べになるのですか?」
「……巨人族について」
フィンが巨人族だとわかってから、今まで噂や本の中でしか知り得なかった巨人族について知りたくなった。それと同時に巨人族に対しての悪い印象を払拭したいと思うようになったのだ。だがマルデル国へ戻ったところで、ホーン国のような研究施設があるわけではない。それらをすべて伝えきると、合点がいったとばかりにカミラが頷いた。だがその一瞬後、声の調子を落とし忠告をしてくる。
「ですが、いずれは伝えなくてはなりませんよ」
「わかっているわよ。でも伝えるなら手紙なんかじゃなくて、お父様とお母様に直接言うわ」
「そうですね。では、そのときはぜひホーン国でもお嬢さまがお力を発揮して二つの家を救ったとご報告してくださいね」
「二つの家を救ったなんて大げさよ」
「ずっと仲違いしていた両家の諍いをなくしたのですから大げさではありませんよ」
鼻息を荒くして語るカミラに、ソフィーは首をかしげた。
「そうかしら?」
「もちろんです。しかもオルソン先生とシェルマン家、そしてメリーン家の仲も取り持ったのですから」
「オルソン先生といえば、この間五人で集まってユグドラシルについて話し合ったって、おっしゃっていたわ」
授業が終わったあと嬉しそうに報告してきたオルソンの顔を思い出し、ソフィーはくすりと笑った。カミラが驚いた様子で見てくる。
「人の話をあまり聞かない方々が話し合い、ですか?」
「あの一件以来きちんと話を聞いてくれるようになったんですって。フィーナ様とリキャルド様がおっしゃっていたわ」
「まさに、お嬢様のお力添えのおかげですね」
「フィーナ様たちの努力の結果よ。まあ、たまにいいように解釈して暴走してしまうみたいだけどね」
ソフィーは苦笑しながら肩を竦めた。
「ですが正式にリキャルド様とフィーナ様のご婚約も発表なさいましたし。これでまた、お嬢さまが関わって結ばれた男女が増えましたね」
「そうね。次はトールヴァルド様かしら?」
「あの方はすでにお相手がいらっしゃるのですか?」
カミラが目を丸くする。ソフィーはパン屋で女性店員と親しげに話していたトールヴァルドの姿を脳裏に浮かべた。




