02
「おすすめはブルーベリータルトですよ」
フィーナがフィンへ向かって声をかけた。注文を取りにいったと思ったのだろう。本当はリキャルドをここへ連れてきてほしいという命令だったのだが。ソフィーはフィーナの勘違いをそのままにして、話に乗った。
「ブルーベリータルトがおすすめなんですね」
「はい。今日のわたくしのメニューはオープンサンドイッチですけど、よく頼むんですよ」
皿の上にはサーモンやクリームチーズ、スライスされたゆで卵やレタスがパンの上から溢れんばかりに乗っていた。どれも瑞々しく美味しそうだ。
「フィーナ様は自主研究ですか?」
「部屋にいてもやることがないものですから。ソフィー様は見学ですか?」
「明日から講義が始まりますから使われる教室などを確かめておこうかと思いまして」
ソフィーはフィーナに話を合わせた。実際はフィーナとリキャルドをくっつけるためにきたのだが、リキャルドと引き合わせるための時間稼ぎをする必要がある。
「広いですものね。わたくしは通い始めた頃はよく迷いました。ですがすぐに慣れますよ。そういえば、商店街へはいきましたか?」
「商店街ですか?」
ソフィーが首をかしげると、フィーナは微笑みながら首肯する。
「我が家と学園を繋いでいる大通りの真ん中辺りにあるんです。ただ脇道へ入らないといけない場所なので初めての方はよく迷われてしまうみたいで」
フィーナの耳が上下に弾み金色の髪が揺れた。
「フィーナ様はよくいかれるのですか?」
肯定されると思っていた予想に反して、彼女は顔を横に振る。
「わたくしはあまりいきません。商店街には色々なものが売ってはいますが、文具はもちろん、生活用品など大抵のものが学園で揃ってしまいますからね。ですけど兄はお気に入りのパン屋があるようで時間を見つけては訪れているみたいですよ」
「そうなのですか。トールヴァルド様が……。では侍従たちといってみたいと思います」
トールヴァルドとのデートに商店街が使えるかもしれない。その前にまずは下調べだ。今後の予定の中のどこへ組み込めばいいだろうか。ソフィーは脳内で素早く計算した。
「ぜひ。……そういえばフィン様は少し遅いですね。混んでいるのでしょうか?」
フィーナがカウンターへ顔を向けようと振り返る。ソフィーはそれを慌てて引きとめた。
「なにぶん初めて訪れた場所ですからね。どういったものがあるのか一通り見ているのだと思いますわ。そ、それよりブルーベリータルトの他におすすめのものはありますか?」
「タルトの他ですか? うーん、色々ありますが……」
フィーナが、こちらの問いかけに動きをとめ考え込む。ソフィーは、フィンがいないことがばれずに済み、胸をなでおろした。
店内の様子は、外からだと観葉植物があるため見えにくい。とはいってもまったく見えないわけではない。
「やはりシナモンロールですかね?」
(まだリキャルド様は見つからないのかしら?)
ソフィーはフィーナの言葉を聞くともなしに聞きながら、入り口へちらちらと目線を送った。
「素朴な味ですけどやっぱり外せません。あの、ソフィー様?」
名前を呼ばれ、ハッとする。
「え? あ、そうですね。シナモンロール美味しいですよね。我が家ではブルノストをシナモンと一緒に練り込ませるのですが、ここでもそうなのでしょうか?」
「まぁ、それは美味しそうですね。ここではブルノストが一緒に添えられてきますよ」
なんとか誤魔化せたようだ。フィーナが瞳を輝かせながら相槌を打つ。ソフィーは強張った表情筋をほぐすように笑みを作った。
「お嬢様、お待たせいたしました」
「フィン!」
待ち望んでいた侍従の帰りに、ソフィーは声を弾ませる。自分が思っていた以上に不安だったのかもしれない。フィンの顔を見ただけで、安堵のため息が出た。
「申しわけありません。ブルーベリータルトは品切れだったようで、困っておりましたところメリーン様に助言をいただきまして代わりにシナモンロールをお持ちしました」
フィンが告げながら横へずれた。侍従の後ろから笑みを浮かべたリキャルドが現れる。
「まあ、リキャルド様。ありがとうございます。どうぞおかけになって」
「ありがとう。ダール嬢」
ソフィーが手を差し出すと、リキャルドはなんの躊躇もなくフィーナの隣へ腰をおろした。
「フィーナ様よろしいですよね?」
フィーナへ事後報告すると、彼女は困り顔で席を立とうとする。
「あ、あの、それでしたらわたくしは」
「あら、まだ食べ終わってないではありませんか。それにお二人から学園のことをお訊きしたいわ。明日からの参考にさせてください」
ソフィーはわからない振りをしてフィーナを引きとめる。
「……わかりました」
フィーナが渋々といった感じで頷いた。ソフィーは内心でほくそ笑みながら、無邪気に聞こえるように声を張る。
「まぁ! 美味しそうなシナモンロール! あら、リキャルド様はオープンサンドイッチですか?」
「好物なんだ。特にサーモンが好きでね」
リキャルドはナイフで一口大に切り分け、サーモンをパンに包み込むようにフォークで刺し、口に入れた。
「うん、美味い」
心の底からの感想に、ソフィーは自然と頬を緩ませた。ちらりとフィーナを見る。早くこの場から立ち去りたいのだろう。話に加わろうともせず黙々と食事を進めていた。わかりやすいフィーナの反応にいたずら心が疼く。




