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第三章 作戦開始
翌日の昼どき。ソフィーはさっそくフィーナとリキャルドの気持ちを訊くために学園へ向かった。学園自体は今日も休みだが彼らのことだ。きっと研究室で個人研究をしていることだろう。
(それでも空腹には勝てないわよね)
ソフィーは食堂のある塔へと向かう。
「昨日のお茶会でフィーナ様の研究室の場所を訊いておけばよかったわ」
ソフィーは、一階にある案内板を凝視しならが愚痴を吐いた。七階まであるこの塔は、一階から三階に教職員たちの執務室や事務室があり、四階以降が食堂にあてられている。いくら学生や教職員たちすべてが使用するとはいえ、さすがに場所を取りすぎてはいないだろうか。ソフィーが眉間に皺を寄せ訝しんでいると、横から腕が伸びてきた。
「カフェや売店などもあるようですが、とりあえず四階の食堂から参りましょうか」
フィンの指摘にソフィーは再度案内板を注視する。よく見るとひとくくりに食堂と記載されている下にいくつかの分岐があった。
「休憩室なんてものもあるのね」
塔の半分以上が食堂にあてられている理由がわかり、ソフィーはスッキリした気分で四階を目指す。
「この階にフィーナ様かリキャルド様がいるといいのだけど」
階段を上り、食堂と示された表示の前へ立つ。眼前に広がった光景にソフィーは目を瞠った。壁や廊下が一切なく、いくつもの白いテーブルと、その周りに同色の四脚の椅子が置かれている。オルソンから話には聞いてはいたが、本当にフロア全体が食堂になっていた。
「この中から捜すの?」
あまりの広さにソフィーは愕然とした。だが幸いにも人はそれほど入っていない。一周するように歩けば見つかるだろう。ソフィーは気を取り直し、とめていた足を進めた。
「給仕がいないようだけど、どうやって料理を頼むかしら?」
「侍女や侍従に持ってこさせるか、そういう者がいない場合は自分で注文するようですよ」
あちらで頼むようです、とフィンが指し示す。そこには幾人か人が集まっていた。一人一人四角いお盆を持ち、カウンターに並んでいる。仕切り壁があるため見えないが、カウンターの向こう側で料理を作っているのだろうか。物珍しく眺めていると、フィンの動きがとまる。
「お嬢様、この階にはいらっしゃらないようですね。上の階へ参りましょう。そちらにシェルマン様がいらっしゃるかもしれません」
「え、トールヴァルド様が?」
ソフィーがシェルマンという名に反応すると、フィンの眉がぴくりとあがる。
「違います。ヨセフィーナ様のことです」
「もう紛らわしいわね」
ソフィーはフィンからの否定に唇を尖らせた。トールヴァルドに会えるかもしれないと期待してしまった分、きつい口調になってしまったが、言ってから気づく。
(いやだわ。フィーナ様を捜しているのだから、フィーナ様のことに決まっているじゃない)
フィンに悪いことをしてしまった。しかし、こちらが謝罪を口にする前に侍従が頭を下げてきた。
「……申しわけありません」
「わたくしの方こそ勘違いしちゃってごめんなさいね。えっと、たしか上の階にはカフェがあるのよね?」
ソフィーはばつが悪くなり、顔を逸らした。それに対しフィンは何事もなかったかのように歩き出す。
「はい。こちらです」
「フィーナ様かリキャルド様のどちらかを見つけたら、フィンは見つからなかった方を連れてきて欲しいのだけど、できる?」
黙っているのもなんだか気まずい。ソフィーは先導する侍従の背中へ話しかけた。
「もちろんでございます。僕にお任せください」
フィンが自信あり気に微笑む。もし彼に尻尾があったら、激しく揺れているのではないだろうか。そんなことを考えたからだろうか。前を歩く侍従の後ろ姿にあるはずのない尻尾が見えた気がした。
階段を上り切りまず目にしたのは、まっすぐに伸びた廊下だった。間仕切りのなかった四階とは違い、この階はいくつかに区画されているらしい。
「お嬢様、カフェはあちらのようです」
ソフィーは案内をするフィンのあとをついていく。
「結構、賑わっているのね」
すでに昼を少しすぎた時間だが、それなりに人が入っていた。下の食堂よりも人が多く感じるのは、広さのせいだろうか。とはいっても狭いわけではない。寛ぐことを目的としているのだろう。ところどころに観葉植物があった。高さの異なるテーブルや椅子を置くことで、ゆったりとした空間をつくり出しているのかもしれない。
ここでも各自が料理や飲み物を頼み、好きな席に座る方式を取っているようだ。入口近くにあるカウンターに人が並んでいる。
「お嬢様、ヨセフィーナ・シェルマン様がいらっしゃいました」
ソフィーはフィンが見ている方へ顔を向けた。明り取りのためなのかと思っていたが、大きな窓の向こう側にはオープンテラスがあった。大きくて白い日傘が丸いテーブルの上に影を作っている。そのいくつかあるテーブルの一つにフィーナはいた。
「フィーナ様。昨日はありがとうございました」
「まあ、ソフィー様。おかけになってください」
ランチの途中だったフィーナがナイフとフォークを置き、手を差し伸べてきた。
「ありがとうございます。フィン、よろしくね」
ソフィーは、窓に背中を向けて座るフィーナの正面へ腰をかけ、フィンへ目配せをした。それを合図にフィンは恭しく頭を下げ去っていく。




