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呪われた令嬢の婚約者探し  作者: 高木一
第三章 作戦開始
23/52

03

「フィーナ様と一緒ですね」

「ソ、ソフィー様、何を」


 フィーナがギョッと目を瞠り、声をあげた。しかし最後までは言わず、咽せ始める。


「だ、大丈夫か、フィーナ?」

「ごほっ、あ、ありがとう」


 リキャルドが水を差し出しフィーナの背中を優しくなでた。フィーナはそれを拒むでもなく素直に受け入れている。二人の動きはまったく違和感がなかった。これが彼らの自然体なのかもしれない。


「お二人は仲がよろしいのですね」

「「え?」」


 ソフィーがにんまりと笑みを深め告げると、二人の動きがとまった。目を丸くし、互いの顔を見合わせている。


「違います」

「そうなんだ」


 悲しげに瞳を伏せるフィーナに対し、リキャルドは嬉しそうに胸を反らす。


「違わない。俺たちは何も悪いことはしていないじゃないか。ただお互いを好きになっただけだ。そうだろうフィーナ」


 リキャルドが熱のこもった眼差しを彼女へ向けた。俯いていたフィーナが顔をあげる。


「リッキー……」

「それともそれは俺の勝手な思い込みだったのか?」

「違うわ。わたくしだって。でも」


 フィーナが切なげにリキャルドを見つめ、口を噤んだ。


(いいわぁ。これが相思相愛ってやつよね)


 本音を言えば、このあと二人がどうなるのか見続けたい。だが、その前に彼らから話を聞き出さないといけない。ソフィーはあえて空気を壊すようにはしゃいで見せた。


「やはりお二方は好き合っていらっしゃるのですね!」

「ソ、ソフィー様、何を」


 声を上擦らせるフィーナを無視してソフィーは話を続ける。


「両家の仲違いなど、お二方の愛の前では些末なことですわ」

「どうしてそのことを?」


 怪訝な顔をするフィーナを無視してソフィーは話を進める。


「そんなことはどうでもいいことですわ! フィーナ様。わたくしがお二方のお力になります!」


 ソフィーが断言するや、リキャルドがガバリと座ったままで頭を下げた。


「ダール嬢、ありがとう。フィーナ、俺たちで両家を和解させよう。同じ使命を持った家同士が仲違いしていること自体がおかしかったんだよ」

「その通りですわ。リキャルド様」

「そんなこと無理よ!」


 強い否定とともにフィーナが首を横に振る。じっと見つめるこちらの視線にたえられなくなったのだろうか。顔を俯かせ、滔々(とうとう)と語り始めた。


「お父様たちが占いしかできないわたくしの言い分に耳を傾けるはずないわ。リッキーのご両親だってそうよ」

「そんなの話してみなければわからないじゃないか」


 リキャルドがフィーナを説得しようと、身体ごとフィーナへ向けた。しかし、フィーナは聞く耳を持たぬ勢いで反発する。


「わかるわよ! だって現にシェルマン家とメリーン家は今も仲違いしているじゃない」

「だからそれを俺たちが話して」

「話したからって反対されるだけよ。ううん。それだけじゃない。学園を退学しないといけなくなるわ」

「そんな大げさな」

「大げさじゃないわ。今だって同じ塔にいることをあまりよく思っていないのよ。きっとわたくしは学園を辞めると同時にお父様たちが決めた相手へ嫁ぐことになるわ」

「そんなっ」


 二人の言い合いはフィーナに軍配があがる。フィーナを説き伏せるはずだったリキャルドは、悔しそうな顔で押し黙ってしまった。ソフィーは落ち込んだ様子の二人を見て、口を開く。


「フィーナ様はそれでよいのですか? せっかく好きな方と両思いだというのに、好きでもないお相手に嫁ぐのですよ?」

「それは……」

「何よりフィーナ様のお考えはお相手の方にとても失礼です!」


 ソフィーは口ごもるフィーナの言葉を遮り、言い切った。彼女の碧色の瞳が微かに吊り上る。


「あなたに何がわかるといいのですか! わたくしだって……」

「フィーナ様の気持ちはフィーナ様にしかわかりません。ですが、思い悩んでいることは、わたくしにもわかります。だからお助けしたいのです」


 ソフィーは、若干怒りをにじませたフィーナの物言いを受け流しつつ、彼女へ優しく語りかけた。

 彼女が言った『お父様が決めた相手』は、王国にいたときの自分と同じだ。これまで呪いを解くために幾度となくお見合いをしてきた。だが、こちらが受け入れようとするたびに、相手にはすでに好意を寄せている相手がいる。それがどんなに悲しいことか。フィーナにはわからないのだろう。だがそれは無理もない。彼女もまた自分の気持ちを押し殺し傷ついているのだ。


(幸せになるはずの結婚が不幸を生み出すキッカケになってしまうなんて駄目よ)


 想い合っている両親を見ているから余計にそう考えてしまう。だからこそフィーナには諦めて欲しくない。


「でもどうやって」

「フィーナ様とリキャルド様のご両親にお二人の関係を認めてもらうのです」


 ソフィーはリキャルドの問いに自信を持って応えた。フィーナが、埒が明かないとばかりに顔を左右に振る。


「だからそれは無理だと」

「問題ありません。わたくしに策があります」


 ソフィーは人差し指を立て、フィーナとリキャルドの顔を順番に見た。リキャルドの唾を飲む音が聞こえてくる。ソフィーはにんまりと口角をあげ、二人のための策戦を披露することにした。



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