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呪われた令嬢の婚約者探し  作者: 高木一
第二章 新たな出会い
15/52

08

 太陽に代わり月が顔を見せ始めた頃。ソフィーはこれから自室となる寮の部屋で、食後の休憩をしていた。

 あのあとリキャルドとは多少ぎくしゃくしたが、自習室や図書室、研究室や教員たちの部屋など大まか場所を案内してもらった。


(闇の塔だけでもかなりの広さがあるわよね)


 散策が趣味だとはいえ、足がパンパンだ。ソフィーは、はしたないと思いながらもブーツを脱ぐ。そして仔狼のぬいぐるみを腹の上に乗せた。


「お嬢さま、学園はいかがでしたか?」


 カミラから紅茶を渡される。湯気の立つカップから爽やかな香りが顔いっぱいに広がった。


「闇の塔にフィーナ様がいらっしゃったわ」

「まあ、それはなんと運命的な出会いでございましょう。ヨセフィーナ様が男性でしたらお嬢さまの運命のお相手だったかもしれませんね」


 銀盆を胸に抱え、カミラがうっとりとした表情をする。たしかにフィーナとの出会いは、物語でよくある展開だ。しかし残念ながら彼女は女性なので婚約者になれない。


「いいえ、カミラ。もしかしたらわたくしの夫となる方が見つかったかもしれないわ」


 寮に戻ったらすぐに報告しようと思っていたことがやっと実行できた。果たして侍女はどんな反応をするだろうか。ソフィーはカミラの驚く様を想像し顔を緩める。案の定彼女の瞳が飛び出るほど大きく見開かれた。


「えぇ! 私がいない間にですか? どういうことなのですかお嬢さま!」


 カミラが鼻息を荒く、詰め寄ってくる。ソフィーは内心で苦笑しながらも、ゆったりした動作で紅茶を口に含んだ。飲み慣れたさっぱりとした味わいを堪能している間に、彼女も落ち着きを取り戻したみたいだ。ソフィーはソーサーにカップを戻し、ニコリと笑いかける。


「学園を案内してくださった方が、わたくしを助けてくださったのよ」

「え? それだけでございますか?」


 カミラがきょとんとした顔を向けてきた。普段ならすぐに察してくれるはずの彼女が今日に限ってなぜか気づいてくれない。ソフィーはムッとした。


「それだけって何よ。カミラだって窮地を救ってくれた男性と恋に落ちた女性を何人も見てきたでしょう。あれと同じ状況になったのよ! わたくしの運命の相手かもしれないじゃない」

「た、たしかに見てきましけど……お嬢さまはいつもと変わりがないように見受けられますし」

「ただねぇ、その方片思い中かもしれないのよねぇ。でも失恋を忘れるには新しい恋がいいって言うでしょう。だからわたくしがって、ちょっとカミラ聞いているの?」


 慌てふためいていたカミラが急に背を向け、ぼそぼそと言い始める。言いたいことがあるのなら面と向かって言ってもらわないと聞こえないではないか。しかしカミラはこちらの声が聞こえなかったのか、まだ一人でぶつぶつと言っていた。


(まったくなんなのかしらね)


 ソフィーは八つあたり気味に、紅茶を口に含む。まだ十分に熱さを残している紅茶が喉に沁み、顔をしかめた。

 ふいにノック音が聞こえ、足をおろしブーツを履く。ぬいぐるみを腿の上に置き入室の許可を出すと、フィンが軽やかな足さばきで入ってくる。


「失礼します」

「フィン。手紙は届いていた?」


 夕食を終え、部屋に戻る際に別れた侍従が頭を下げた。


「はい。ヨセフィーナ・シェルマン様からお手紙を預かってまいりました」

「明日の招待状ね! ありがとう」

「明日? どちらかいかれるのですか?」


 カップ類を片づけていたカミラが訊いてくる。ソフィーはフィンから受け取った手紙を読みながら侍女の質問に応えた。


「フィーナ様のお宅へご招待されたのよ。そちらで占いをしてくださるんですって」

「占いですか?」

「ええ。今日は急に予定を思い出したとかで、話もそこそこに別れてしまったの……でもあれってリキャルド様とお顔を合わせたくなかっただけだと思うのよね」


 俯いていた顔をあげ、教室でのことを思い出す。


「なぜそうお思いに?」

「初めは怪我が痛むのかと思ったのだけど、リキャルド様に遭遇してしまったときの二人の態度がね」


 ソフィーはフィンの問いに思ったままを伝えた。すると、一人だけ話についていけていないカミラが口を挟んでくる。


「リキャルドさまという男性がお嬢さまの運命の相手ではないのですか?」

「どういうことですか?」


 フィンが険しい表情で詰め寄ってきた。ソフィーは侍従の態度が理解できず首をかしげる。


「どういうことも何も言葉通りの意味よ?」

「お嬢様はリキャルド・メリーン様に恋をなさったのですか!」

「そ、そこまではまだわからないけど……」


 語気を強めるフィンに圧倒されソフィーは後ろへ下がった。だが、背もたれが邪魔で離れることができない。なんとか仰け反って侍従との距離を開こうとするが、同じ分だけフィンに詰め寄られる。ソフィーは顔を熱くした。


「フィン、ちょっと近づきすぎよ!」


 仔狼のぬいぐるみを前に出し牽制していると、カミラが間に入ってくる。


「そうですよ! フィンさん不敬です! お嬢さまから離れてください!」


 侍女のおかげでフィンが元の位置に戻り、ソフィーは胸をなでおろした。すると、今度はカミラが腰に手をあて侍従を責め立てる。


「それにお嬢さまがリキャルドさまに恋をなさった方がいいではないですか」

「それは、そうですが……ですがメリーン様は……」


 たじろぎながらも言い返す侍従に、ソフィーはぴくりと眉をあげた。


「リキャルド様がフィーナ様をまだ諦められずにいるって言うのでしょう」


 わかっているわよ。言外に告げるが、カミラは頓狂な声をあげた。




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