09
誤字報告ありがとうございました。
助かります。
「え? 諦められずにいるってどういうことですか、お嬢さま!」
「さっき言ったじゃない。片思いしているかもしれないって」
あなたは聞いてなかったみたいだけどね。口を尖らせ嫌味を言うが、カミラは思い出さないのか、きょとんとした顔で首をかしげていた。
「まあ、いいわ。それで? 片思いしている相手に恋をしちゃいけないってわけでもないでしょう」
ソフィーはカミラに説明するのが面倒になり、話を進めた。だが、今度はフィンが訝しげに見てくる。
「片思い? 違いますよ。メリーン様とシェルマン様は両思いですよ」
「え?」
ソフィーは目を瞠った。二の句が継げずにいるとカミラがじろりと疑わしげな眼差しをフィンへ向ける。
「フィンさん、適当なことを言っているのではないでしょうね?」
「カミラさんいくらなんでもそれは失礼じゃないですか? ぼくはきちんと自分で調べたことを精査し報告しています」
フィンが目を細め侍女を睨んだ。
「調べたってもうリキャルド様とフィーナ様のことを調べたの?」
「はい」
ソフィーは目を瞠る。
「さすが仕事が早いわね。それで? お二人について何がわかったの?」
恭しくお辞儀をする侍従へ感心しながら、続きを促した。
「お嬢様はユグドラシルを世話している一族をご存知ですか?」
「詳しくは知らないけどオルソン先生が、リキャルド様がその一族の方だとおっしゃっていたわ」
ソフィーはリキャルドを紹介する際に言っていたオルソンの話を回想した。しかし、ユグドラシルを世話している一族はメリーン家以外にもあるようだ。他には、と訊いてくるフィンへソフィーは首を左右に振る。
「オルソン先生からは聞いていないわ」
「ユグドラシルの世話は主にメリーン家、ユーホルト家そしてシェルマン家の三家で行われています」
「シェルマン家? それって……」
侍従の口から出た聞き覚えのある名前にソフィーは瞬きをした。脳裏にリキャルドよりも前に知り合った兄妹たちが浮かぶ。
「はい。ヨセフィーナ・シェルマン様の家名です。ですがかの二家はユグドラシルの世話を巡ってことあるごとに対立されているようで、ユーホルト家がその調整にあたっているとのことです」
「まあ」
驚きの声をあげるカミラを横目にソフィーは眉間に皺を寄せた。
「リキャルド様の家とフィーナ様の家が対立?」
想定外の話に戸惑う。ソフィーは信じきれず、素直な気持ちをフィンへぶつけた。
「だって、リキャルド様は正義感の強そうな方だったし、フィーナ様やトールヴァルド様は争い事が苦手そうなお優しい方だったじゃない。そんな彼らの生まれた家が争っているなんて信じられないわ」
「個々として性格はとても優れていたとしても、家というしがらみに囚われてしまっているのではないですか? マルデル王国でもよくある話ではないですか」
「それはそうだけど……」
フィンに正論を言われ、ソフィーは言葉に詰まった。それでも納得できず悪足掻きする。
「でも二人の様子からは対立している家同士には見えなかったわ」
「はい。ですからぼくは、お二方が家には内緒でおつき合いをなさっている。あるいは互いが、お相手への気持ちを胸に秘めているのではないかと考えたのです」
「そんな……リキャルド様の片思いじゃなかったなんて……」
ソフィーは目を見開いた。身体を震わして感極まっていると、カミラが見当違いな慰めをかけてくる。
「お、お嬢さま。お気をたしかに!」
「これが本当ならすごいことよ、カミラ!」
ソフィーは両手を胸の前で組み、侍女へ詰め寄った。
「へ? あ、のお嬢さま? リキャルドさまのお相手がいてショックだったのでは?」
カミラが声を上擦らせ、まばたきを繰り返えしている。ソフィーは、首を横へ倒した。
「ショック? こんな感動的で物語のような展開になぜショックを受けなくてはいけないの?」
「いえ、お嬢さまがそれでよろしいのなら私は何も……」
ソフィーは、肩を落とし俯くカミラを横目にフィンを見た。
「明日、フィーナ様に訊いても大丈夫かしら?」
「問題ありません。なぜなら、お二方のお力になれるのはお嬢様しかおりませんから!」
侍従がいつも以上にやる気を漲らせ、断言してきた。その気迫にソフィーは圧倒する。
「そ、そう、かしら?」
「もちろんです!」
フィンが満面の笑みで頷く。侍従の自信ありげな顔に、だんだんとその気になってくる。
「わたくしがお二方のお力になるわ!」
ソフィーは家のために引き裂かれそうになっているフィーナとリキャルドを想像し、闘志を燃やした。




