七
いくつかある客間のうち、隣りあったふたつのあいだの仕切り襖を取っ払って大広間として、そこに三人の女中とふたりの丁稚、手代と元手代、番頭と当主、締めて九人が押し込められていた。それににらみを利かしている岡っ引の太助を加えれば十人がそこにいた。
むっつりと黙りこんでいた太助が、いきなり口を開いたので一同は驚いた。
「ご検視が終わったんで、まずはご当主、ご同道願いますぜ」
岡っ引は立ちあがると、忠兵衛を部屋の外につれだし、自分はすぐに戻ってきた。
またしばらくして、今度は番頭の文造が指名された。
廊下に出ると、色吉が待っていた。
「こちらへ、どうぞ」
と、自分の屋敷きどりで案内する。遺体の安置されている広間に戻り、まずは千代に手を合わせる。その顔には白布がかけられていた。
それから色吉は懐から帳面と筆立てを取りだすと、昨日の夜はどこでなにをしていたか、被害者との関係、そして元手代の新吉のことなどを訊いた。
「いつものように帳簿を片づけてから、旦那様にあいさつして、自分の座敷にいって寝ました。
「千代とは再来月には夫婦になるはずの仲でございました。もちろん旦那様もご同意、というより旦那様のご意向がそもそもでございます。昨日も結納と祝言のときの着物を撰んで、千代はたいへん喜んで、式を楽しみにしておりました。
「新吉とは手代と番頭のあいだがらで、それ以上でも以下でもございません。いや、ございませんでした。やつが千代に岡惚れしていたことはついさっき知ったばかりです。親分もいらした、あのときのことでございます。だからやつを馘首にしたのは、千代の件とは係りあいのないことでございます。
「ええ、前々からやつの不出来っぷりには苦労させられていたのです。だから昨日、帳尻が合わないことを指摘すると口ごたえをしてきたので、とうとう堪忍袋の緒を切らしたような次第でございます」
「ところで、番頭さん、あんたは煙草は喫みますかえ」
「いいえ。この店で煙草をやるのは、新吉ただひとりでございます。いえ、ということはつまり、もはや煙草喫みはいなくなりましたな」
つい、にやりとしてしまった。が、色吉に見られた気がして文造はあわてて笑いを引っ込めた。千代のなきがらのまえで不謹慎だったか。
そっと上目を使うと、しかし色吉は目を帳面に落としていた。
「お千代さんはどうです。煙草は喫みましたかえ」
「いえ、あいつはむしろ煙を嫌ってました」
「ご当主の言ってたことと合いやすね、結構」
「それで、そいつがなにか関係あるんですか」
岡っ引はうまいこと、煙草の葉を見つけたようだ。訊かずにはいられなかった。
「へえ、こいつをご覧になっておくんなさい」
色吉は布団のしたから千代の手を出して、文造に示した。掌に煙草の葉が乗って、ほんの少しだがはらはらと畳のうえに落ちた。
「こいつは、手代の新吉の喫んでいた煙草ですかい」
「もと手代です。いや、わたしはやらないので、どうも煙草にはうとくて、まあそうだと言われれば新吉の煙草のような気がいたしますねえ」
「お千代さんをここまで運んだのは、お女中頭のお登和さんと、番頭さん、あんただと聞きましたが」
文造はうなずいた。
「じゃあ、ちいとお手間ですが、お千代さんが亡くなっていたという自室に案内してもらいたい」
廊下を先に立って歩きながら、
「親分さん、千代が亡くなっていた、とおっしゃったが、そのときはわからなかったのですよ。倒れていたので介抱するために広い部屋に運んで、医者を呼びにやったのです」
と言っておく。




