六
しばらくして当主と番頭が広間を出ると、入れ替わりに医者だけでなく、岡っ引まで広間に入っていこうとしたので、文造はとがめた。
「お医者の先生だけではないのですか。亡くなったとはいえ、若い娘のこと――」
「先生だけだとなにかとたいへんなのでね、あっしは雑用のためでさあ。さあさ、みなさんの面倒は太助親分が見ますんで、心配ご無用です」
岡っ引の色吉は見当違いのことを言って番頭を部屋の外へ追いやると、襖をびたり、閉めてしまった。
ひとの店で好き勝手しやがって、どうしたものか、もいっぺん襖を開けて文句のひとつも言ってやろうか、と引手に手をかけたところに背後から声がかかった。
「この大店だ、もひとつくらい広間はあるでやしょう。そこに店のもんを集めてくんな」
太助とかいう、もうひとりの岡っ引だった。
女の体のあちこちを探っている医者のそばで、色吉は女の首をためつすがめつしていた。
「女はもちろん縊り殺されたんでしょうねえ、先生。ところで指の跡が二重に見えるんでやすがね。小さな指の跡が目立つが、その回りに大きな跡がぼんやり薄くついてるでしょう」
と女の首を指さす。
「うん、あまり不確かなことは言いたくないが、いったんは女の首をつかんでこう……起きたままでこう、絞めたが、なかなかやりづらいのでこう、両手の親指を重ねて輪っかを作って、それで首を包んでのしかかって、目方を乗せたんだろう」
「なるほど。でもなんで薄い指の跡とわりとはっきりした指の跡で大きさが違いやしょうか」
薄い指の跡は色吉の指より大きく、わりとはっきりしたほうは色吉の指より小さかった。
「ふむ、つまり、こりゃあ指で絞めたあとですぐに輪っかで絞めなおしたのでなく、指で絞めて死んだと思って指を離したところ、生き返ったんじゃな。それで血が通って指の跡が薄くなった、と。そこであらためて縊り直した跡がはっきり残ったが、最初の跡は血が通ったときに、うっすらと広がったということなのではないかな」
「うーん、なるほど」と言いつつ色吉は納得のいかない顔をしていた。
「ところでこの娘、片方の手に煙草がついておる」
日茂庵がそう言って、娘の右の手を持ちあげた。はらはらと煙草の葉が布団のうえに落ちる。刻みの粗さからして、それほど高級なものではない。
「娘がそいつを握ってたんで?」
「握ってたかもしれんが、しかし……」
日茂庵は腕を組み、首をひねった。




