三
留緒に見送られながら、色吉は玄関を出かかって立ちどまり、門の陰から目だけ覗かせた。
表では怪しい風体の人物がちょうど通り過ぎていき、その先に目をやると数十間のところに理縫がちょこまかと駆けていた。
その人物を怪しい、と色吉が目したのは、その派手ないでたちからだった。裃の上下は金銀織りに赤や青の原色を織り込み、まるで傾奇者だが、背格好と歩き方からすると年寄り……少なくとも若者ではない。角頭巾も同様に派手なのはいいとして、その下の顔に手拭いを頬っかむりしているのはどうみてもやりすぎだ。
どこのコソ泥ですかい、ご隠居……
色吉が目すどころか、だれが見ても怪しかった。
すこしのあいだを置いて、色吉は怪しい隠居をつけた。その先に理縫がちょこちょこと見え隠れしている。
理縫は一所懸命駆けて、子供の足、とあなどれないほど速い。ご隠居はついていけるだろうかと心配になるほどだった。しかし元同心の歩兵衛もさすがの健脚で、静かに歩いているようでかなりの早足だった。
ぐるりとそのへんをひと廻りすれば満足して屋敷に戻るだろう、と思っていたのに、理縫は日本橋の目抜き通りに出ると、人波を縫うように神田方面に向かう。
てけてけと駆けていき、それを早足に怪しい老傾奇者が追い、それをまた色吉が追う。色吉は気後れしていた。しかし隠居があそこまで凝った格好をしているとは……おれも少しは変装すりゃよかったかな。これでは振り返って見られたら、すぐに自分がつけているのがわかってしまう。
幸いなことに、理縫が思いもよらず早く駆けているのを追うのに精いっぱいのようで、歩兵衛が振り返ることはなかった。子供の理縫は日本橋神田通りのごった返す人ひと人のなかにともすれば隠れ埋もれそうになるから、目が離せないのだ。理縫は休みもせず足を緩めることもなく駆けつづけ、いつも色吉が自分の長屋に向かう道を、とうとう八辻が原までやってきた。そしてそこを右に折れると、こんどは両国のほうへと向かった。
柳原土堤沿いの馴染みの小料理屋のまえも過ぎて、理縫はとうとう浅草橋を渡った。浅草の通りに出ても衰えぬ理縫の足に、さすがの歩兵衛も疲れてきたのか、遅れ気味になる。色吉ははらはらしながらついていったが、ふと顔を回したとき、馬道のなんとかいう親分と目が合った。




