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9話 出奔

相変わらずの遅い進行です。

 朝日も昇らない、まだ薄暗い中でエリーヌが目を覚ますと自分の体に違和感を覚える。後頭部に若干の痛みがあるのと、身体を動かすことができないのだ。確認するとそこには布団をグルグルに巻かれて縛られている自分の身体があった。――何が起こったのか理解ができない。


 視線には、もう一つの二段ベッドの下段で寝ているベルティーユが寝ているのを見ることができるので、寮の部屋だというのは理解できる。


 しかし、自分の置かれている状況がまったく理解できなかった。



「サトウさん起きてます?」



 宝石に宿っているであろう、自分の身体の同居人に声をかけてみるが、いつものような返事はない。


 現在の状況は、その慶太がエリーヌの身体を使い、好き勝手暴れたことににより起こった状態なのだが…そんなことを知らない


 彼女は誰かが起きるのを待つしかなかった。


――朝日の昇る頃、ベルティーユが起きたようで小さな欠伸をしながら目を擦っている。エリーヌは、彼女がベッドから起き上がるまで待ってから声をかけた。



「おはようございますベルティーユ。あの…私の、この状態はどういうことなんでしょうか?」


「えっ、お、おはようございます。…エリーヌさんの状態?」


「えっと、縛られているようで身体が動かせないのですが…。」



 そう、エリーヌは身体を布団に包まれて縛られている――簀巻き状態なのだ。


 エリーヌの言葉にベルティーユは困った顔をする。



「昨日のことは覚えていません?」


「えっと…魔宝技の練習に疲れて、早々に就寝したことは覚えていますけど…。」


「それは一昨日ですわ。」



 自分が知らぬうちに一日過ぎていたのだろうかとエリーヌは驚いてしまう。



「そうですね。昨日は朝から何やら様子がおかしかった気がしましたの…。わたくしの知る限りでも、魔宝技をわたくし達に披露したあと…男子生徒に…その……む、胸を見せびらかしたり、……入浴中にフレデリークさんの…身体を…さ、触って…いやらしい…表情を…していましたわ。」



 言い辛そうにベルティーユは顔を赤くしながらも説明してくれる。しかし、エリーヌには一切思い当たらない。何が起こったのか分からないのだ。



「でも、今のエリーヌさんを見ると普段の状態のようですし、縄を解いても良さそうですわね。」



 そう告げて、ベルティーユは布団をぐるぐる巻きにされて身体の動きを制限されていたエリーヌを開放する。



「ベルティーユありがとう。でも、言われたことは全然記憶にないですね。」


「そうですの?何か悪いものでも食べたとか…。そういえば、昨日は話し方も普段と違っておりましたわね。…まるで、何かが乗り移っているような感じでしたわ。」



 そう言われてエリーヌが思い当たるのは慶太のことなのだが、彼は未だに返答を寄越さない。憶測で決め付けるのも良くないと考えたエリーヌは、慶太の返答があるまでその考えを保留することにした。


 エリーヌとベルティーユの二人は話しても進展がみられないと考えて支度を始める。



「おはよう…。」



 エリーヌが髪を整えているとリーズが起きたのかベッドから降りて挨拶をしてきた。



「あ…痴女ーヌ。」


「えっ…?」



 リーズがこちらを見てから変な名前で自分を呼ぶので、エリーヌは挨拶も忘れて驚いてしまう。



「おはようございますリーズさん。今日のエリーヌさんは先日のようではないので安心して結構ですわよ。」



 続けてリーズに挨拶をするベルティーユが、リーズを安心させるように言葉を添えていた。



「そう…。」



 エリーヌは昨日はそんなに酷いことをしていたのかと気になってしまう。そんなことを考えている内にリーズは洗面所へ行く為なのか居なくなっていた。



『おはようエリー…。何か気絶してたみたい。それにしても頭が若干痛いね。』



 リーズが起きてすぐに、原因かもしれない彼が声をかけてきた。何か知っているだろうと考えていたエリーヌは昨日何があったのか彼に尋ねた。



『あ~、うん。昨日か…エリーの意識がなくってさ…それで、身体を俺が動かせたから…そのエリーが起きるまで授業を受けていたわけだけど…。全然エリーが起きないから心配したよ。』



 エリーヌの予測は当たっており、原因は慶太だったようなのだ。


 原因は分かった…では、次は何をしていたのか慶太を問いただす。



『…うん。目の前に美味しい果実があったら食べたくなるでしょ?…そんな感じです。はい!ごめんなさい。』



 慶太は言い訳を多少して一目散に謝ってしまう。詳細を知りたかっただけなので、もっと詳細を教えて欲しいと彼に懇願する。



『…お、怒らない?』



 エリーヌは慶太の言葉に頷く。



『じゃ、じゃあ言うけど。昨日は朝から下着を着けないで授業に出たんだ。』



 その言葉だけでエリーヌは頭がクラクラしてきた。



『それで男子生徒や指導員が面白くて…生のおっぱいやお尻を見せたりしてたんだ。だって…男子たちが羨望の眼差しでこちらを見るんだもの!』



 怒りを通り越して現実逃避したくなるエリーヌ。



『それからリーズたち5人に魔宝石の披露もしておいたよ。あーそれから、フレデリークをお風呂で全身を撫でまわしながら洗って可愛がってあげてたら意識がなくなりました。』



 エリーヌは判決を出した。有罪(ギルティ)――今回は絶対に許さない!


 彼女は怒りの矛先を宝石に定めて、思い切り叩くが腕輪を付けている腕と叩いた手の方が痛かったかもしれない。それでもいいのだ…この怒りが少しでも解消されるのであれば…。



『ちょっ…エリー!怒らないって言ったから正直に話したのに!酷いよ!』



 勿論酷いのは慶太である。エリーヌの身体を使い欲望の限りを尽くしたのだ。そんなことを自分の身体でされてしまったエリーヌは、どんな顔をしてこれからの学校生活をしていけばいいのか分からない。


 とりあえず友人だけには謝ってもらわないと気が済まなかった。



「直接謝ってもらいます…。」



 何を考えているのか、慶太に冷たい言葉を放つエリーヌ。



「黙っていることは許しませんからね。」



 そう告げるとエリーヌは腕輪を外す、同時に慶太の全身の感覚が失われ、辺りは闇の世界になってしまう。


 しばらくすると視界が暗闇から一転して、正面にエリーヌが見える。慶太は混乱してしまう。


(何があったんだ…?)



「この腕輪をつけると何があるんですの?」



 ベルティーユの声が響く、どうやら腕輪を彼女につけさせているのかもしれない。


(直接謝れというのはこういうことか…。)


 エリーヌの考えをなんとなくで察した慶太は、彼女に挨拶から始めようと声をかけた。



『や、やあ。はじめましてベルティーユ…さん。』



 驚いたのか視界から身体がビクッと動いているのを感じる。



「えっ!あ、頭の中から男性の声が聞こえましたわ!これは何なのですの!?」



 ベルティーユの反応は最初に見た女性と同様のものであった。



「昨日悪事を働いたのは、その声の人です。」



 エリーヌさんがさらっと追い討ちをかけてくる。


(怒らないって言ったのに、金剛力士像のような形相になってる…。怖い…。)



『はい。悪事を働きました…ごめんなさい。で、でも…たまにはおっぱい見せてね。』


「えっと、昨日はこの方にエリーヌさんが乗っ取られていたのですか?」



 慶太の声を無視して、ベルティーユはエリーヌに尋ねた。



「そうです。先程、本人からそう聞きました。」


「わ、わたくしも乗っ取られたりしません?」



 ベルティーユは少し怖くなったのか声を震わせている。



『法則は分からないけど、多分それはないよ。昨日はエリーの意識がなかったからできたんだろうし…。』


「その可能性もあるかもしれませんね…。」



 慶太とエリーヌは真逆の事を口にする。



「二人…何か…あったの?」



 会話している中、顔を洗い終えたリーズがやってくる。リーズに対してもエリーヌは慶太のことを説明する。



「面白そう…。私も…話してみたい。」



 そうリーズが告げるとベルティーユは腕輪を外してリーズに手渡す。視界がリーズのものになり、覗き込むエリーヌとベルティーユを見ることが出来る。


(何かオモチャにされてるぞ俺。まあ、リーズにも謝っておこう。エリーが怖いし…。)



『えっと、はじめまして佐藤慶太です。昨日の朝はおっぱいを揉んでごめんなさい。普段は自分で何もできないから興奮してしまったんだ。』



 リーズは前もって聞いていたためなのか、一切の動揺がみられなかった。



「そんなに…おっぱいに触りたかったの?」



 リーズが直球で俺に対して口にするものだから、エリーヌとベルティーユが驚いて目を点にしている。



『はい。とっても触りたいです。吸いたいです。挟まれたいです。』



 慶太もリーズに釣られたのか欲望を素直に口にしてしまう。



「…そんなに?」


『はい。』


「しょうがない……いいよ。」



 リーズの承諾を貰ってしまった。外野の二人は、というと何を話しているのか分からず困惑していた。



「でも、自分だと…おっぱい…吸えない。」



 その言葉を聞くと何やら察したのか外野に徹していた二人は吹き出してしまう。



「そ、そんなことしたら駄目です!」


「ちょっ!何を話してるんですの!」



 声を上げてリーズを止めようとする二人だが、リーズは二人に口にする。



「自分で…何も…できないのは…可哀想だよ。」



 リーズは優しい子だった。エリーヌとベルティーユはそれを聞いて自分の立場として考えたのか口を閉じてしまう。

 リーズの優しさに癒された俺は、彼女のちっぱいは守備範囲外であったのだが、エリーヌから鞍替えしていい?とか考えて…。



『俺、リーズちゃん所の子になる。エリー怖いし。』


「じゃあ…そうする?」


『そうしたい。』



 即断した俺にリーズも了承してくれた。



「エリーヌ。この腕輪…私に頂戴。代わりに…私の杖…あげるよ。」



 リーズが急に言うものだから、エリーヌは驚いた顔をしていた。



「だ、だめですよ!お爺様にいただいた物なんですから。」



 エリーヌは咄嗟にリーズの要求を拒否するが、リーズも引くことをしない。



「じゃあ…数日だけでもいい…貸して欲しい。」


「そのくらいであれば…」



 渋々であったが、エリーヌはリーズの要求に了承し、暫くお互いの魔宝石を交換することとなった。


 会話がまとまると三人はフラヴィを起こし、エリーヌは再度慶太に謝罪するよう要求をする。



「まだ眠いのに~。それで何だっけ…腕輪が話すって~?」


「はい。フラヴィにもこの腕輪を付けて欲しいんです。」



 エリーヌはそう告げてリーズの腕にある腕輪を指差す。



「面倒だにゃ~。腕輪に触れたら話せるんじゃないのー。」



 フラヴィはそう口にするとリーズの腕輪にある宝石に触る。慶太はフラヴィの提案を試してみる価値を感じたので触れるタイミングを合わせて話しかけてみる。



『おはようフラヴィ。相変わらず、朝は辛そうだね。』



 驚いたのかフラヴィは眠そうな目を擦り、腕輪を見ながら目を大きく見開いている。



「おー声が聞こえる~。腕輪に触れていればいいのかも~?」



 どうやら慶太の声は届いたようだ。エリーヌとベルティーユも驚いたのか腕輪に触れてくる。



『俺様モテモテ?…エリー見直したかい?俺はモテる男に生まれ変わったんだ!』


「き、聞こえますわ。」


「ええ、声が聞こえますね。今迄のまま隠していたら、分からない会話方法でしたね。」



 慶太の声が聞こえるかどうかで、彼の話している内容など気にしていない様子の二人に慶太は少し落ち込む。



「では、会話できると分かりましたから、フラヴィに早速謝ってください。」


『え…?昨日、フラヴィには一切手を出してないよ。』



 俺の言葉に顔をしかめるエリーヌ。



「そういうことではありません。手を出したかではなく、迷惑をかけたかどうかです。」


『あ…はい。フラヴィごめんなさい。』



 怖いエリーヌさんの追及を逃れるためにさっさとフラヴィに謝罪しておく。



「んー。フレちゃんに謝っておけばいいんじゃないの~?私は風呂で蹴りいれちゃったしー。」



 風呂場で意識が飛んだのは、彼女の蹴りだったという事実を知ることになった。謝罪したのに、こちらが謝って欲しくなったが、ややこしくなるので置いておこう…今は痛くないし。



『ああ、そうさせてもらうよ。』



 その後、食堂へ向かいフレデリークにも謝罪したのだが、何故か顔を真っ赤にして小声でまたマッサージをして欲しいなどと言われてしまった。子供の頃から鍛えたマッサージの腕前だけは伊達ではなかったようだ。


 そして本日はリーズと感覚を共有しているわけなのだが、食事はいつもより薄味に感じるわ、何かを触る感覚――触覚がないなど、エリーヌの身体の頃と比べて、多少の不自由を感じていた。



 授業では、エリーヌの怒りから庇ってもらった恩返しをしようとリーズの役に立とうとする慶太なのだが、生憎と1、2時限目は騎士道と刑法学で、この世界に疎い慶太には何もすることができなかった。


 3時限目は武術訓練。リーズは武具の訓練が不得意らしく、何か助言できることがあればいいなと考えていた。



「では、ペアを作って訓練を始めよう。」



 指導員の言葉を受けてリーズはエリーヌと組もうとしていたのだが、エリーヌは昨日の影響なのか男子生徒に囲まれてあたふたしていた。



『こりゃエリーは駄目だね。誰か他の人を誘おうか。』


「うん…そうする。」



 クラスの女子とペアを組んで訓練に励むことにしたようだ。


 訓練を始めるとリーズは長めの木の棒を槍のように構えているのだが、両手をくっ付けて棒を握っている。少し振りにくそうなので助言してみる。



『もう少し手と手の間隔を空けて棒を握った方が武器を扱い扱い易いと思うよ。あと両足も少し幅を広げて、腰を落ち着けるようにするといいかも。』



 中学の時に剣道部だったので、そこで学んだ知識を適当に独自の解釈で伝えていく。だが、自分の知っている剣道と実践寄りなこの世界の武術では差があると考えたため、過度に指導することは禁物かもしれない。



「こう…?」


『そう。そんな感じがいいだろうね。後は脇を閉めた方が力が入り易いかもしれない。』


「ケータ…色々…知ってるね。」



 可愛い子に褒められるというのは非常に良い気分だ。



『どうだい。惚れたかい?』


「それは…まだ。」



 冗談気味に言ってみたのだが、真剣(マジ)に返されてしまった。


 指導員の合図と共に訓練が開始される。各々が練習試合形式なのか各所で打ち合いの音が聞こえてくる。リーズも相手の女子の打ち込みを防ごうと動くのだが、棒が重いのか動きが鈍く頭に一撃食らってしまう。



「だ、大丈夫?まともに入っちゃったけど…。」



 心配そうな顔をしてその女子生徒が声をかけてくる。それにしても、先程のリーズの動きをみた慶太は木製とは言え得物の重さがリーズに合っていないと感じた。



『リーズ。武器を変えた方がいいかもしれない。』


「うん…そうする。」



 リーズは女子生徒に断わりを入れて武器を交換しにいく。倉庫らしき場所にいくと沢山の木製武器が置かれていた。見回すと小太刀くらいの木剣を見つける。



『これがいいかもしれないね。リーズ。片手で振ってみてくれるかい?』



 リーズが頷くとやや短い木剣を手に取る。



「これ…?短いと…不利だって…ベルが言ってた。」



 その通りであるのだが、武器を上手く扱えないのであれば、リーチの有利不利の考えを捨てて扱い易さを取るべきであろう。

 リーズは慶太に言われた通り片手で木剣を振ってみる。素早く振れて咄嗟の行動も取れそうな軽さである。



『いい感じだね。これにしよう。』


「わかった。待たせると…悪いから…いこう。」



 女子生徒の下へ戻ると、リーズは先程の様に木剣を脇に構える。



『あー、剣だし臍の前で構えていいよ。柄の先を左手でぎゅっと握って、右手はそこから上に拳一個程度空けて軽く握って。それができたら脇もさっきと同じようにしめてね。』



 リーズは頷き俺の言う通りにしてくれる。上半身だけ剣道の構えに近い。



『足は左右じゃなくて、少し前後に開いてみて。…そう。それでいい。』



 構えが終わるとリーズは女子生徒に戦闘準備が出来たと伝える。


 訓練が始まると女子生徒が攻めてくる。まずは先程と同じ上段攻撃のようだ。



『上だ!頭上に剣を横に構えて受ける。武器に慣れるまでは攻撃を流そうと思わないで受け止めて!』



パァン!と硬い木同士が当る音が響く。



「へえ。さっきより動きが良くなったね。次行くわよ!」



 攻撃を受けると女子生徒が挑発するかのように告げた。


 今度はリーズから見て左横から横薙ぎに武器を振ってくる。



『左から来る!剣を縦にして左側に構えて!』



 またも先程と同じような高い音をたてて攻撃を受け止める。続けて女子生徒は身体を回転させて、その力を利用して逆側から力いっぱい振ってくる。



『右だ!同じ様に剣は縦に。今度は強そうな一撃だから、足を開いて腰を落として受けて!』



 バシィン!と直撃を受けたら気絶しそうな音が響く。衝撃に備えたというのにリーズの小さい身体は若干動いてしまったほどだ。その隙を突いてか女子生徒は脇に棒を構えると突きの体勢を取っていた。



『今度はまっすぐの突きが来るよ!受けるのは難しいだろうから左か右に避けることに専念して。』



透かさず突きが来るとリーズは右側へ体を動かして避ける。



『よし!そのまま一歩前に出て攻撃だ!』



 リーズが突きを避ける瞬間に慶太は叫ぶ。透かさずに攻撃に転じたリーズに対し、女子生徒は突きにより身体が伸びきっていて、長物のため即座の対応ができないと思われたのだが、女子生徒の動きは予測よりも早く、武器を急いで引くと長い柄の部分でリーズの攻撃を防いでいた。



「へえ。やるじゃない。このクラスでリーチの短い武器を使って私に攻撃できたのは貴女がはじめてよ。」


『えっ!?…大振りだし…割と隙だらけじゃん…。』



 慶太は思わず感想を漏らす。エリーヌやリーズの在籍しているクラスって…弱いのではと考えてしまう。



「ふふ、楽しくなってきたわね。じゃあ続けていくわよ!」



 女子生徒がそう告げて戦闘が再開されると、訓練の時間が終わるまで慶太は剣術ナビマシーンと化してリーズに奮戦させたのだった。

 途中、予想外の攻撃により二箇所ほど痣ができてしまったが…。



「ケータ…ありがとう。いつもより…戦えたよ。」



 息を荒くしているリーズに感謝されてしまった。次があれば、無傷で勝たせてあげるように努力しよう。



「リーズちゃんだっけ?また貴女とは戦いたいわね。楽しかったわよ。」



 女子生徒が笑顔で告げると訓練場から出て行った。


 エリーヌは…といえば爽やかな男子生徒とイチャコラしておった。非常にけしからん。



『エリー置いてく?』


「ううん…待つよ。」



 5分程度待つとエリーヌがこちらに気付いてやってくる。



「リーズ待たせてごめんなさい。」


『待たせすぎ。おっぱいモミモミの刑だね。』


「…分かった。」


 リーズは慶太の言ったことを実行してくれる。光景は素晴らしいのだが感触がないというのが何ともいえない。先程エリーヌと会話していた爽やかな男子生徒は、揉まれる胸を見るなり目を見開いて涎を垂らしていた。



「ちょっと!リーズ!」


「おっぱいモミモミの刑…だって。」



 リーズの台詞を聞くとエリーヌの顔が強張った。リーズは気圧されて胸を掴んでいた手を離してしまう。



「サトウさんの言葉を信じてはいけません。」



(酷い。酷すぎる。)


 慶太は女の子に貶されたことは多くとも、これまでの人生でソレに慣れることなどできなかったのだ。



「でも…ケータのおかげで…上手く戦えたよ。」



(リーズはなんと可愛い娘なのだろう。惚れてまうやろ!)



「それとこれとは話は別です!」



 この後、食堂につくまでリーズと慶太はエリーヌにガミガミと説教されるのだった。


 食堂に着くとフラヴィ、フレデリーク、ベルティーユの三人が座って待っていた。フラヴィについては普段通りなのか先に食事を食べていたが、フレデリークとベルティーユに関しては律儀に待っていて申し訳ない気持ちになる。これもエリーヌが男子とイチャイチャしていたせいなのだ!と心の中で慶太は責任を押し付ける。



「随分、遅かったですわね。」



 ため息交じりにベルティーユが言う。それもそのはず、普段よりも10分は遅いのである。



「まったく…人を待たせて何をしていたんだか…。」



 ジト目でこちらを見ているフレデリーク。



『はい。エリーヌが男子とイケナイ関係になろうとしていました。』



 現在、慶太の言葉はリーズにしか聞こえない。



「エリーヌが…男子と…駆け落ちしそうだった。」



 俺の言葉を曲解して翻訳してくれたのだろう。リーズの言葉にエリーヌとベルティーユとフレデリークが驚き。フラヴィは食べかけていたものを吹いていた。ちょっと汚い。



「え、エリーヌさん。人の恋路に何か言いたくありませんが…その…いえ、いいですわ。」


「へぇ…結構やるじゃない。でも、駆け落ちするにしても、こうして貴女を待っている人くらいには連絡して欲しいものだわ。」


「違います!駆け落ちなんてしません!濡れ衣です!」



 三人の様子にリーズは俺に向けてだろうか…右手の親指を立てていた。それを見た慶太はリーズとなら上手くやっていける気がしていた。



「ちょっと!五月蝿いわよ。」



 騒いでいたので迷惑をかけてしまったのか、見知らぬ女生徒に怒られてしまう。



「あ…すみません。」



 咄嗟にエリーヌが謝罪するが、エリーヌの顔を確認すると女生徒は考えるような仕草をして、エリーヌの全身を観察している。



「貴女、エリーヌ・ジェスタね?最近調子に乗っているっていう。」



 女生徒の言葉にエリーヌは驚く。



「えっ!確かに私はエリーヌ・ジェスタですが、調子に乗るようなことなどしていません。」



 確信を得た女生徒はエリーヌに噛み付くように告げる。



「猫を被っているような子は皆そう言うのよ。確か貴女、ゴールドの訓練許可証も貰ったんですって?」


「はい。確かにゴールドの許可証(バッジ)はいただきましたが…。」



 エリーヌは金色のバッジを女生徒に見せると、彼女の目に火が灯ったような気がした。



「同じ三年生でもSクラスの私がもらえないのに、Fクラスの貴女がソレをもらえるっておかしくありません?何かのコネでもあったのかしら?…いえ、コネなど士爵程度では無理でしょうか。」



 これだけ言われたらエリーヌも因縁をつけられているのは理解できるだろう。しかし、怒るというよりも困った顔をしていた。



「あの、それで…私はどうすれば良いのでしょうか?」



 お腹が減っているため、早くなんとかしたいのであろう。エリーヌは控えめに言葉を選んでいた。



「そうね。じゃあ、そのバッジを私に下さらない?簡単なことでしょう。」



 突然出てきてお前のものを寄越せと言うなんて、なんと我侭な女性であろう…お前のものは俺のものという考えでこれまで生きて来たのだろうか。



「そ、それは出来ません。学長先生にいただいたものですし…。」



 エリーヌは再び困った顔になってしまう。



「じゃあ、魔宝技で決闘をしましょう!そうすれば、勝者がそのバッジに相応しい人物ということがはっきりしますわ。」



 女生徒がそう告げると、周りを見てしたり顔をしていた。慶太(リーズ)が周りを見渡すと辺りは野次馬で溢れており騒ぎになっていたのだった。



『これはハメられたかな…。』

次話は少し遅れるかもしれません。

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