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8話 回想

短めです。

 その少女はとてもお転婆で、いつも川や森を駆け巡っては家族を困らせていた。


 どこに隠れていてもお爺ちゃんやお兄ちゃん、たまにお母さんが迎えに来てくれるということは、構って欲しい年頃の少女にはたまらぬ魅力であった。


 最近、少女には妹ができた。それから家族の感心は妹に向くようになってしまったからだ。そのため、お転婆と言われるようになるまでに家族の気を引こうと少女なりに必死になっていたのだ。


 少女は今日も森を駆ける。いつものように。


 森の中に流れる小川を見つけると眺めてみる。とても澄んだ水をしており、眺めているだけでも時間が流れてしまう。


 少女は山菜の種類なども覚えた。食べられるものを採っておけば、褒めて貰えたからだ。普段は構ってもらえなくとも、その時だけ振り向いて貰えればよかった。今日も道すがらに見つけた山菜を背中に背負ったバッグに詰め込んでいる。


 「きょうはいっぱい山菜がとれた。」


 少女は満足気に笑顔を浮かべている。家族に褒められる自分でも想像しているのであろうか。


 それからは森を散策して遊ぶ。木から伸びた蔓をブランコにして遊んだり、小さな虫や動物を観察するだけでも楽しかった。


 遊んでは駆けての繰り返しだが、幼い少女にはそれが楽しいのだ。


 森にいけば、毎日が新しい発見との出会いがある。それは少女の探究心まで刺激してくれる。


 ふと一羽の綺麗な鳥を見つける。少女はそっと近寄り観察しようとしていたのだが、木を少し揺らしたため逃げてしまう。


 少し不貞腐れてしまうが、少女はまた別の場所へ歩んでいくと大きな沢へ出る。そこは以前、少女がお爺ちゃんと釣りをした場所だ。現在は釣竿を持っていないため川を眺めて魚が泳いでいる姿を観察する。


 魚を見るのも飽きた頃に、また森を進んで行く。どんどん進んでいく。そして夕日が照らす時刻になると森の中は早くも暗くなり視界は閉ざされていく。


 いつもならこの時刻に家族が向かえにくるのだが、一向にやってくる気配はない。それから少女は自分から戻ることはせずに森の奥地でじっとしていた、


 やがて夜になるが、迎えは来ない。


 家で何かあったのだろうか。少女は少し心配になる。しかし、辺りは深い闇に包まれて視界は殆どない。

薄っすらと森を照らす月明かりも頼りにすることができなかった。


 夜が深まるとお腹が空いてきた。昼から何も食べていなかったからだ。バッグに詰め込んだ山菜は調理しないとアクが凄くて食べれるものではない。


 少女はお腹が鳴ると一層に空腹感が増す。


「おなか…減ったな…。」


 少女は呟くが、誰もその言葉を聞き届けることはなかった。


 月が真上に見える頃、少女は家に戻ろうと決断して暗い森の中をゆっくりと進んでいく。


 しかし、来た方へ戻っているはずなのに一向に知っている場所に出ることができなかった。ほぼ毎日と言っていいほど通っていたのだが、この森は深く険しかった。


 最近は葡萄畑を増やすために、森の木々を伐採して森の面積は減っているのだが、それでも森の木を刈り尽くすには十年以上はかかるだろう。


 やがて少女は空腹のため立ち止まってしまう。


 小さな体で飢餓状態というのは辛いものなのだ。


 これ以上動けないと判断した少女は、その場へ蹲り迎えを待とうと他力本願かもしれないが考えていた。


 それから長い時間が経ち、森の中では獣の遠吠えなども聴こえてくる。


 獣に襲われては一溜りもないと考えた少女は、物陰に隠れるように身を寄せる。


 ザッザッザッ…と獣の足音が近づいてくる音が聞こえると少女は鳥肌が立つ感覚を味わっていた。


 少女は何やら複数の小さい光が近づいて来るのを見つける。それは獣の眼だった。


 ザザッ…足音は近く大きい。月明かりは薄暗く、獣の姿を見ることはできない。


 少女はさらに体を小さくして縮こまる。近所の子供が獣に食べられたという話を聞いていたために、恐ろしくなってしまったのだ。


 体を震わせて隠れていると少女の近くで足音が止まる。


 顔を上げて正面を見ると獣の眼が10メートルほどの先からこちらを伺っているのが分かった。咄嗟にまずいと感じた少女は獣のいる反対方向へ走リ出す。


 しかし、幼い少女と獣の速さは比べるまでもなく追いつかれてしまう。


 目の前にいる獣はとても大きな狼だった。小さな家程は在ろうかと感じるほどの体格だ。


 巨大な狼は少女に向かって前足を突き出し、少女の体を地面に押し付けて動きを封じる。地面にうつ伏せになった少女は狼に食われるのを待つしかなかった。


 暖かい涎が後頭部から背中にかけて垂れてくると少女は力一杯叫んだ。


「助けてぇぇー!!!」


 その声は森の中に響くだけで、誰かが聞きつけてやってくる気配など感じない。自分の人生がここで終わることを少女は悟った。


 次の瞬間、脇腹から背中にかけて獣の牙がゆっくりと食い込む痛みを感じる。


 このまま食べられちゃうんだ…と少女が考えていた。そのとき突然と狼の噛み付く力が弱まったのだ。


「大丈夫か。」


 突如、声が聴こえたので、少女は地面を見ていた顔を上げて声の主を確認する。そこに立っていたのは少女の祖父だ。 


「おじいちゃん!」


 少女は震えている。まだ狼の牙が刺さったままなのだ。


「少し待っていなさい。」


 祖父がそう告げるとゆっくりと少女に刺さった牙を抜いて、狼の体を力任せに横倒しにする。とても老けている人間とは思えない力だ。


 狼の姿を見ると、胴を真っ二つに切り裂かれており息絶えていた。


「もう大丈夫だ。怖かっただろう。群れていたから少し時間がかかってしまった…すまんな。」


 祖父はあやす様に少女の頭を抱えて撫でている。祖父の言葉からあの狼は複数いたらしい。


「体の傷は綺麗に消えないかもしれないな…。」


 少女の傷を確認すると祖父は苦々しく語るが、少女にとって傷などどうでもよかった。助かっただけでも僥倖なのだ。


 それから祖父と一緒に家へ帰ると怒られるどころか心配されてしまった。傷の治療もすぐに行ったが、綺麗に消えることはなく、傷痕が残った。



――――傷が完治した日から一年ほど、少女は祖父に剣術を習っていた。まだまだ、お遊戯に近いものであったが、少女にとってはそんなことは関係なかった。祖父に憧れを抱いていたためだ。


「これで一本だな。」


 木剣で軽く頭を叩かれた少女は悔しそうにしている。


「おじいちゃん強い。」


「引退したとはいえ元騎士だからな。」


 その言葉が気になったのか、少女は考えるよりも先に祖父に尋ねた。


「騎士って凄いの?」


 少女の疑問に、祖父は深く頷きながら答える。


「ああ、凄いぞ。中には英雄と呼ばれるほどの功績を残した者もいたからな。」


「英雄?凄いんだね。」


 言葉の意味をよく分かっていない少女だが、凄いことだとは分かるのか祖父を褒める。


「じいちゃんは英雄になれなかったがな。」


「おじいちゃんでも英雄になれないの?」


 その言葉に祖父は苦笑するしかなかった。己の力はその程度なのかと問われた気がしたからだ。


「じいちゃんは無理だった。だが、お前やアランなら何れじいちゃんを越えてくれるだろう?」


「お父さんじゃ駄目なの?」


 祖父は自分の息子のことを言われると苦い顔をする。


「奴も立派な騎士であろうが、英雄となると話は別だな。奴は民のことなどは考えぬ。家族のことを第一に考えるのみの一般人よ。」


「それは駄目なことなの?」


「父親としては良いことだろう。しかし、英雄は民…いや、国を救ってこその英雄なのだ。」


「国を救うってどういうこと?」


「家族という小さい単位で守るのではなく。平民、貴族、そしてこの国の領地を合わせた全てを守り抜くことだ。」


 少女は物の大きさにたじろいでしまう。幼いながらにも自分には確実に無理であろうことが分かるからだ。


「私も全部の人を守るのは無理だよ。」


「心意気の話だ。今は出来なくとも、徐々に力を付けて身近な人から守れるよう努めればいい。エリーヌも騎士を志すなら英雄の志を目指してみなさい。」


「うん。わかった!」


 簡単なやり取りだったかもしれない…。しかし、エリーヌはその瞬間に祖父の言ったに英雄を目指すと心に決めたのだ。



――彼女はそんな過去の夢を見終わると目を覚ました。

夢回、詩のような感じに仕上げたつもりでは…あります。

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