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-98- 適度

 あわてれば、ろくなことがない・・と、よく言われる。そうかといって、落ちついていればいいのか? と考えると、そうでもない。要は、適度・・ということに他ならない。このファジーな感覚は人それぞれで異なるが、達人ともなると、この適度な感覚が絶妙で、寸分の狂いも生じない。この感覚を得る方法だが、こうすればよい・・という定まった答えはない。鉄板焼ソバの独特の香ばしい風味とかうなぎ蒲焼かばやきの絶妙タレ味などがそれだ。あの風味やタレ味は、幾度も幾度も積み重ねられ、初めてあの適度な味となる訳で、短期間で賞味できる味ではない。適度な行動感覚があたかもその絶妙味や風味の感覚に似通っている。

 日曜の朝、新発売される玩具おもちゃ屋の店頭である。早朝の4時だというのに、すでに数人が並ぶ列ができていた。検察事務官の岡田は、その列の先頭で寝袋シュラフくるまれ、身体を半折り状態にして地面に座っていた。そこへバタバタ…と小走りでやってきたのは、検事の霜川である。

「岡田君、よく来れたね? 私なんか、土曜の夜からホテルに泊まりこみだよ」

「長年、集めてるマニアですからね。列ができる時間とか込み具合は、おおよそ頭に入ってるんですよ」

「ほう! 大したもんじゃないかっ! 私も長年のマニアだが、来年は退官だからな。もう君のような元気はないよ」

「ははは…ご冗談をっ!」

 霜川と岡田はタッグを組んでいて、検察庁内ではフィギュアコンビと呼ばれ名をせる、マニアックな変人だった。

「いつも君は先頭だが、何かコツがあるのかい?」

「ははは…そんなもんありませんよ。今朝の場合、発売が過去シリーズのビンテージの復刻版ですから、そう大した人込みは…と見込んで、適度な時間に家を出ただけのことです」

「それで先頭か…。私なんか、安全策を取った挙句が、このざまだ」

「ただ、2時に家を出ただけなんですけどねぇ~。新シリーズのレアものなら、帰らず外食して直行です」

「普通のフィギュアは?」

「ははは…モノによりますよ。適度に…」

「適度か。適度ねえ…」

 多くても少なくても・・大きくても小さくても・・太すぎても細すぎても…適度を失すれば、物ごとがダメになることは、確かに、よくある。


                    完

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