-99- 本音(ほんね)
人は知らず知らずのうちに自分を飾る。いや、自分は飾ってないぞっ! と言われるお方も、どこかで自分をよく見せよう…と着飾っておられるのだ。それは目に見える外観、見えない心理面の両面を含めてである。
「ははは…何をおっしゃる。たかだか、2億程度の儲けですよ。大した額じゃない」
顔で笑いながら、その実、ホールディングス会長の平岡は、どうだっ! 大したものだろう…と内心で自慢していた。この自慢する内心が平岡の本音である。聞いているのは、これも平岡と肩を並べるほどの大物で、AT財閥の総帥、編竹だった。
「いやいやいやいや…ひと言で2億を稼げるお人は、そうざらには、おられませんよ」
にこやかな顔で返した編竹だったが、その実、私だってその程度はすぐに動かせますよっ! …と内心で見栄を張っていた。この見栄を張る内心が編竹の本音である。双方、外見も超一流ブランドの特注品の背広で着飾っていた。これは目に見え、どうだ! いい服だろう! とばかりに双方が主張する本音だ。
「どうです? 今夜あたり、一献、傾けるというのは…」
「ほう! いいですなっ! 料亭、鰻政ですか…。あそこは300年の老舗で、天然ものですからな」
「そうそう! 秘書に手配させておきます。今宵、六時あたりで、いかがですかな?」
「はあ、それで…」
この飲み食い話に関しては双方とも本音で、強ち人は飲み食いの話となると、本音で語ることが、よくある。
完




