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-76- 煩悩(ぼんのう)

 大晦日おおみそかけ、年が変わる少し前ともなるとも、どこからともなくグォ~~~ンという除夜じょやかねの響きがやってくる。よく聴いていると、ゴォォォ~~~ンもありゃ、ドゥォ~~~ンというのもあり、まちまちだ。仏教では、108ある煩悩の一つ一つを忘れて取りのぞく音らしい・・とは池畑にも分かっていた。ただ、聴きのがせば、えらいことだな…とは全然、思っていなかった。

 池畑は年越し蕎麦そばをズルズル…っとすすりながら、除夜の音を聞いていた。聴く気はないのだが、自然と耳に入ってくるのだから聞かざるを得ない。

「あれは、相場そうばの音だな…」

 池畑に言わせれば、まあフツゥ~の…という音になる。

「あっちは確か、商業寺か…。かなり金回りがいい音だ。響きに勢いが感じられる…」

 池畑はいつの間にか、かれて響く鐘の審査員にでもなった気分で聴いていた。そんな池畑だったが、食べ終えて軽く一杯やっていると少し眠くなり、ウトウト…と半時間ほど眠ってしまった。あわててテレビをけると、すでに年が変わっていた。除夜の鐘もいつの間にか搗き終わったのか、聴こえない。しまった! 聴き逃したかっ! と池畑はくややんだ。今年は録音してやるっ! 新年早々、池畑に新たな煩悩が湧いた。

 おおよそ世間では、煩悩が湧くことが、よくある。


                    完 

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