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-77- 真偽(しんぎ)

 壺川は無二の骨董こっとう好きで、収集家でもあった。過去、鑑定も何回かしてもらったことのある、古い物には目がないマニアだった。

 その壺川が、また新しい骨董を手に入れたくなっていた。とある地方へ旅行したとき、宿泊した旅館の部屋に飾られてあった掛け軸がひと目で気に入ってしまったのだ。

『素晴らしい! これは、どう見ても本物だ…』

 いくら骨董好きでも売り物でない旅館の装飾品を買うなど、常識ではとても考えられない。ところが、である。どうしても欲しくなった壺川は旅の楽しみなどそっち退けで、その掛け軸に惚れ込んだ。こうなっては、誰も手がつけられないのが壺川である。妻のかえでうに見限って、壺川の骨董話は聞かないことにしていた。そんな壺川だったが、妻と出かけた旅行先の旅館である。さて、どうしたものか…と、乗った観光船の中でも気もそぞろで景色をでるどころの話ではなかった。

「どうしたのよ、あなた?」

「んっ? いや、なんでもない…」

 一泊はするから、旅館にもどってから片をつけよう…と、壺川は意を決した。当然、楓には内緒ないしょでコトを進めよう・・の腹積もりだった。

 夕方近く旅館に戻ると、壺川はさっそく動き始めた。温泉へ入ると言って先に部屋を出た楓には、あとから行くからと誤魔化ごまかし、壺川は旅館の女将おかみと交渉にのぞんだ。

「そう言われましてもねぇ~、私の一存では…。主人と相談いたしますから、後日、お電話でご返事を…」

 言い値で買い取ると壺川に言われた旅館の女将は、壺川から電話番号のメモ書きを受け取ると、いそがしそうに立ち去った。壺川としても、唐突とうとつな申し出だったから、即決は無理だな…と思え、女将の返答に納得せざるを得なかった。

 旅から戻り、一週間ばかりが経った夕方、旅館からの電話が入った。話では、壺川が思っていた額とはひとけた小さい安値で売ってもいい・・ということだった。

「えっ! そんな値で、いいんですかっ?!」

『はあ…贋作がんさくと聞いておりますから…』

 話は即決し、後日、壺川からの振り込みが確認されると、掛け軸が壺川の家へ宅配便で送られてきた。壺川は満足だった。小遣い程度で買えた代物しろものだけに、これなら楓にも隠さずに済むぞ…と壺川は北叟笑ほくそえんだ。だが、ただ一つ、壺川には気になることがあった。その掛け軸がどう見ても贋作には思えなかったのである。壺川は専門の鑑定士に鑑定してもらうことにした。そして、ついに真偽しんぎのほどが判明した。その掛け軸は、驚くことに国宝級の本物と分かったのである。壺川は真偽の喜びより、国宝級の本物を見出した自分がうれしかった。

 世間では、本物がにせ物で、偽物が本物という真偽逆転のケースが、よくある。


                    完

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