5 クオーツの使い道
「あなたにとっては良い思い出のない土地かもしれません。ですが、俺にとっては大事な場所なんです。父の代でダメにしたくはありません。どうか、力を貸してください」
「頭を上げて。私も彼らのことは気になっていたのよ」
じゃあ、と彼の目の前に置かれているクオーツを手に取る。
確かに貴族向けの装飾品には向かないものばかりに見える。しかし、庶民向けのアクセサリーにならば十分使える品質だろう。それに――
「そういえば、あの鉱山からは魔石も採れたわよね」
「はい」
クオーツの中には、周囲の魔素を吸い込んで魔石と化すものがある。それらは魔法を閉じ込めたり、内部を通すことで強化することができる。故に魔法具のパーツとして使用されている。魔石はかなり高額で売れるのだが、それなりの大きさがないと有用ではない上に、加工時に割れてしまうこともある繊細な石だ。この中にも、そういうものが含まれているように見えた。
「これ、預かっても良い?」
「差し上げますよ。そのような屑石、使い道がありませんから」
「あら、そうかしら? ちょっと私に考えがあるの。ところで、あなたはいつまでこっちにいるの?」
「鉱物ばかりに頼るわけにはいきませんから、別の特産品を作るために、いくつか商会を回って、ワインや細工品の売り込みをしようかと思っています。1週間やそこらはいる予定です」
彼がなにを売り込もうとしているのか聞きだした私は、マスターから紙とペンを借りていくつかの商店名を羅列する。この辺りなら、多分彼が持ち込もうとしている細工品にも興味を持ってくれるだろう。お酒ならば私も扱っているから、少しなら協力できる。サンプルを持ってきているか聞けば、当然、と彼は頷いた。
「明日の夜の予定は?」
「夜の予定はありません」
「それなら、またここで会いましょう。その時、手頃な値段のワインを何種類か持って来てもらえる?」
「ここにですか?」
「ええ」
私はマスターに目配せする。彼は既に私の思惑に気付いていたようで、小さく肩をすくめた。その夜は、翌日の約束を取り付けただけでエリオと分かれた。ちなみに、エリオが出すと言ってきかなかった支払いだが、彼に狩りを作りたくはないので自分で払った。
翌朝、預かった小粒なクオーツを持った私は、馴染みの魔導師を訪ねていた。
「ティア、こんな時間から来るなんて珍しいね」
長い黒髪に紫の瞳、妖艶な空気をまとった女性が、水晶玉の向こうから微笑みかけてくる。
「またそんな怪しげな格好をして、あなたは」
「こういう格好の方がウケるんだって」
黒いベールを降ろせば、明るい笑顔が現れる。
「でも、これ蒸れるのよねえ」
ついでにカツラも取ると、癖のある赤毛があちこち飛び跳ねる。彼女の名前はジェンマ・ヴォルペと言って、私の幼馴染だ。商家の娘であり、魔法の才能が多少あるので水晶占いをしつつ、質の良いタスマリンやアミュレットを取り扱う魔道具屋を経営している。ちなみにこの店で取り扱っている魔道具は彼女のお手製だ。複雑な術式を必要とするものは作れないが、簡単なものであればあっという間に作ってしまうほどの知識と手先の器用さを兼ね備えた人物だった。
「ちょっと相談したいことがあるのだけど」
「なに? 危険がなくて稼げそうな話なら一口乗る」
「危険は多分ないわ。稼げるかどうかはあなた次第ね」
「あらら」
立ち上がったジェンマは占い中という札を店頭に下げて他の客が入ってこないようにしてくれる。彼女は、ザラリと広げられた小さなクオーツを見て眉を上げる。
「これをどうしようっていうの?」
「ちょっと石の質を見てくれる? これ、魔石も採れる鉱山から出たものなのだけど」
「ふぅん……」
ジェンマはルーペでいくつかの石を覗いて、小さく頷く。
「どれも綺麗ね。貴族様には物足りないかもしれないけど、ちょっとした装飾には十分使える。なに? 今度は庶民向けのアクセサリーでも作るつもり?」
「ううん、そうじゃなくてね」
私は、昨晩元夫の息子に再開したことと、彼らの領地の状況があまり良くないらしいことを正直に伝える。当然、私を追いだしたような土地の手助けをする必要なんてない、と言われてしまったのだが、一度親しくなった人たちが苦しむのを見逃すのは夢見が悪いのだと言えば、渋々と言った様子で頬杖をついた。
「庶民向けのアクセサリーじゃなかったら、なんなのよ。申し訳ないけど、このサイズのクオーツじゃなにも作れないでしょ」
結婚していた時代、彼女に領地の細工師が作ったアクセサリーを贈ったことがあるのを覚えているのだろう。当然、私も同じようなことを考えたのだが、それだけでは面白くない。
「ねえ、私には知識がないから聞くのだけど、こういう、魔石が産出する山から出たクオーツは、他の土地から出たものよりも魔法を溜め込む力が強かったりはしないの?」
「……はぁ、そういうことね。それ、わたしも興味持って昔試してみたことあるよ。実際、普通の石よりもずっと魔法を込めやすくて、効果も長く続くみたい。でも、魔石が採れるところではクオーツなんてゴミ当然だからね。市場に出回らないからそれ以上の研究はしなかったんだ」
「やっぱり! 思った通りだわ!」
喜んで手を叩いた私に、面倒くさそうに頭を掻いたジェンマは「魔力込める作業、単調だから好きじゃないんだけどなぁ」とボヤく。
「例えばこれを魔力を込めたアミュレットにして、魅力をアップさせるペンダント、とか、素敵な出会いが訪れるブローチ、とか作れないかしら」
「この大きさの石じゃ、たいした効果はないわよ」
「そういうものを持っている、という気持ちが大切なのよ。ちょっとしたことでも、お守りのおかげかも、って思えるでしょ? すぐにサンプルを作りたいの。協力してくれない?」
「わたしの加工賃、安くないわよ」
「それだけの価値があるって知ってるもの。払うわ」
エリオが持ってきた石の中から、比較的大き目の石をいくつか選ぶ。魔力を込めた石を研磨するよりは、既にカットされた石の方が都合がいいというので、彼女の工房で加工をお願いする。研磨と石に魔力を込めるのに必要な時間は3日ほどだというので、その頃また訪れる約束を取り付けた。
今鉱山から採れるものの使い道に関しては、一旦目星が付いた。4日後までに手配しなければいけないものは……と考えながら歩いていると、肩を落として歩いてくる見知った顔を見つけた。




