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接続中の教室  作者: 藤苺めぇ


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第五話「話せない先生」

次の日の朝、校門の前で足が止まった。昨日よりも人が多いはずなのに、静かだった。みんなスマホを見ている。視線は下、指は同じ速さで動いている。看板のQRコードはそのまま。誰も立ち止まらない。流れ作業みたいに通り過ぎていく。


ポケットの中でスマホが震える。


——未接続状態が継続しています

——警告レベル:中


画面を見ずに、ポケットに押し込んだ。


校舎に入る。空気が重くなる。昨日よりも、はっきりとわかる。息が少しだけしづらい。廊下の奥に、見慣れたはずの教室が並んでいるのに、距離感が狂っているみたいだった。


教室の前まで来る。


扉の向こうから、声が聞こえた。


「それ、いいね」

「わかる」

「同じの見てた」


同じ調子の会話。笑い声の高さも、間も、揃っている。


ドアに手をかける。


——入るな


一瞬だけ、そう思った。


でも、その理由はやっぱりわからない。


扉を開ける。


視線が、集まる。


一拍遅れて、全員がこちらを見た。


笑っている。


「おはよう」


誰かが言う。


「おはよう」


同じ声が重なる。


席に向かう。背中に視線を感じる。座った瞬間、それが消えた。全員がまたスマホに戻る。


机の上に視線を落とす。


空席が、またひとつ増えていた。


どこが変わったのか、はっきりわからない。でも、確実に減っている。


「……昨日、いたよね」


小さく呟く。


隣の女子が、少し遅れてこちらを見る。


「何が?」


「席……」


「最初からこうだよ」


即答だった。


その言い方に、迷いがない。


心臓が、嫌な音を立てる。


——ここにいてはいけない


はっきりと、そう思った。


立ち上がる。


「どこ行くの?」


「ちょっと……保健室」


適当な理由を口にする。


「ふーん」


興味のない返事。


もう誰も見ていない。


教室を出る。扉を閉める音が、やけに大きく響いた。


廊下を歩く。保健室の前を通り過ぎる。そのまま階段へ向かう。上でも下でもいい。ただ、あの教室から離れたかった。


足は、自然と旧校舎の方へ向かっていた。


使われていないはずの棟。照明は落ちていて、窓からの光だけが頼りだった。空気が冷たい。埃の匂いがする。


奥の部屋の扉が、半開きになっていた。


そこにいると、なぜか確信していた。


ゆっくりと扉を押す。


中は簡素な部屋だった。ベッドと、机と、椅子。そして——車椅子。


窓際に、その人はいた。


元担任。


噂でしか知らなかったけど、顔は見たことがある。写真で見た通りの人。でも今は、目だけが動いていた。


こちらに気づく。


ゆっくりと、視線が合う。


その瞬間、空気が変わった。


ここだけ、学校と“繋がっていない”気がした。


「……先生」


声をかける。


反応はない。


でも、目がわずかに動いた。


机の上に、紙とペンが置かれているのに気づく。手は動かないのかもしれない。


どうすればいいのか迷った、そのとき。


先生の視線が、机の一点に固定された。


そこに、小さな紙切れがあった。


近づいて、手に取る。


震える指で、広げる。


そこには、乱れた字でこう書かれていた。


——ログインするな


喉が、ひどく乾く。


「……やっぱり、そうなんですね」


返事はない。


でも、先生の目が強く瞬いた。


肯定だった。


「何が起きてるんですか」


声が震える。


「みんな……おかしいんです。消えてる人もいるし、名前も思い出せなくて」


言葉が途切れる。


先生の視線が、ゆっくりとこちらから逸れた。


そして、自分のポケットのあたりを見た。


スマホ。


言われなくても、わかった。


取り出す。


画面を見せる。


——未接続


その表示を、先生はじっと見ていた。


次の瞬間、目が大きく見開かれる。


強く、何度も瞬きをする。


違う、違う、というように。


「……違う?」


思わず呟く。


先生の視線が、机の端に向く。


そこに、もう一枚紙があった。


急いで拾う。


さっきよりも、さらに乱れた字。


——それも もう つながってる


背筋が、凍る。


「……どういう、意味ですか」


そのときだった。


ポケットの中で、スマホが震えた。


今までで一番、強く。


ゆっくりと、取り出す。


画面には、見たことのない表示が出ていた。


——未接続状態を確認できません


一瞬、意味がわからない。


次の行が、続く。


——現在の接続状況を再評価中


その下に、小さく表示される。


——状態:不明


部屋の空気が、さっきよりも重くなる。


先生の視線が、扉の方に向いた。


ゆっくりと。


何かが来る、と伝えるように。


廊下の奥で、足音がした。


規則的な、揃った足音。


一人じゃない。


複数。


止まらない。


こちらに向かってくる。


先生の目が、必死にこちらを見る。


——隠れろ


そう言っているのが、はっきりわかった。


息を止める。


足音が、扉の前で止まった。


ノブが、ゆっくりと回る。

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