表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
接続中の教室  作者: 藤苺めぇ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

第三話「消えている席」

昼休みの教室は、静かだった。騒いでいないわけじゃない。笑い声もあるし、話し声もある。でも、どこか音が均一で、広がらない。全員が同じ距離で、同じ温度で存在しているような違和感があった。


視線を上げると、また同じ動画が流れているのが見えた。青空と草原。風の音。誰かが再生したのをきっかけに、周りの数人も同じものを開く。まるで合図でもあったみたいに。


「……またそれ?」


隣の席の女子に声をかけると、少し遅れてこちらを見た。


「うん。落ち着くから」


「他の動画は?」


「あるよ」


そう言いながら、彼女は画面をスクロールする。確かに別の動画も並んでいる。でもどれも似ていた。静かな風景。ゆっくりした動き。説明のない映像。


「ねえ、ニュースとか見てる?」


その言葉に、彼女の指が止まった。


「ニュース?」


聞き返し方が、少しおかしかった。


「うん、普通に。外のこととか」


「……見てないかも」


「おすすめに出てこない?」


「出てこないと思う」


その返答は、あまりにもあっさりしていた。疑問を持つ様子もない。


胸の奥がざわつく。


「昨日さ、来てなかったやついたよね」


思い出すように言うと、彼女は一瞬だけ目を細めた。


「誰?」


「いや、えっと……」


まただ。名前が出てこない。顔は思い浮かぶのに、肝心な部分が抜け落ちている。


「気のせいじゃない?」


軽く流される。その言い方が、どこか決まっているみたいに聞こえた。


そのとき、教室の後ろの方で椅子が引かれる音がした。クラスの中心にいる男子——みんなが自然と従うような存在のやつが立ち上がっていた。


「なあ、トイレ行こうぜ」


数人がついていく。そのまま教室を出ていった。


特に気にすることもなく、また視線がスマホに戻っていく。


——数分後。


焦げたような匂いが、かすかに漂ってきた。


「……なんか、臭くない?」


誰かが言う。でもその声もすぐにかき消される。誰も立ち上がらない。気にする様子もない。


しばらくして、さっき出ていったやつらが戻ってきた。笑っている。何事もなかったみたいに。


ただ一人、あの中心にいた男子だけがいない。


「……あれ?」


思わず声が漏れる。


戻ってきた一人に聞く。


「さっきの……一緒に行ったよね?」


「誰?」


「え、いや……」


また、言葉が詰まる。


「一人足りなくない?」


そう言った瞬間、周囲の数人がゆっくりとこちらを見た。


その動きが、揃いすぎていた。


「足りてるよ」


誰かが言う。


「最初から、この人数だよ」


別の誰かが続ける。


「勘違いじゃない?」


同じ調子の声が重なる。


心臓が、強く鳴った。


視線が教室を一周する。席の数。机の並び。どれも違和感がない。最初からそうだったように見える。


でも、確かにいたはずだ。


名前は思い出せない。顔もぼやけていく。でも、“いた”という感覚だけが残っている。


そのとき、教室のスピーカーから音が流れた。


『本日の校内通貨の配布を行います』


突然のアナウンス。担任がいないのに、機械的な声が続く。


『適切な行動を取った生徒に対し、報酬が与えられます』


同時に、数人のスマホが震えた。


隣の女子も画面を見る。通知が表示されている。


「……もらえた」


嬉しそうに小さく笑う。


「ねえ、何したの?」


「え?」


「何したらもらえるの?」


その質問に、彼女は少しだけ考える素振りを見せたあと、首を傾げた。


「わかんない。でも、いいことじゃない?」


いいこと。


その言葉が、妙に重く感じた。


ふと、自分のスマホを見る。画面が点いていた。通知が一件。


——未接続の状態が確認されています


——速やかにログインしてください


その下に、小さく表示されていた。


——安全のため


指先が冷たくなる。


顔を上げると、クラスのほとんどがこちらを見ていた。


笑っている。


さっきと同じ、揃った笑い方で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ