表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
接続中の教室  作者: 藤苺めぇ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

第二話「同じ画面」

教室に入った瞬間、空気が少し変わっていた。いつもと同じはずなのに、どこか軽い。ざわめきはあるのに、音が薄いような感覚だった。席に着くと、前の列の生徒たちがスマホを囲んで笑っているのが見えた。


「これ見た?」


画面を覗き込むと、動画が再生されていた。青空と、風に揺れる草原。それだけの映像。音もほとんどない。ただ風の音のようなものが、かすかに流れている。


「……これ、何が面白いの?」


思わず聞くと、数人が一斉にこちらを見た。そのタイミングが、妙に揃いすぎていた。


「え、いいじゃん」


「落ち着くし」


「こういうの、好きじゃない?」


同じような言葉が、少しずつ重なって返ってくる。誰かの意見というより、用意された答えみたいだった。


「ほら、これも」


別の生徒が自分のスマホを差し出す。そこにも同じ動画が映っていた。再生時間まで、ほとんど同じだった。


胸の奥がざわつく。


「……さっきのと同じじゃない?」


「そう?」


首を傾げる仕草まで、どこか似ている気がした。


そのとき、担任が教室に入ってきた。いつもの笑顔。やっぱり額には汗が浮かんでいる。教壇に立つと、出席簿を開きながら穏やかな声で言った。


「おはよう。みんな、ちゃんと接続できてるね」


教室のあちこちで「はーい」と声が上がる。その返事も、どこか均一だった。


「今日はね、少し新しいことをするよ」


先生はポケットから小さなケースを取り出した。中にはコインのようなものがいくつか入っている。透明で、中心に小さな光が揺れているように見えた。


「これは校内通貨。授業に参加したり、良い行動をしたりすると貰える。将来の社会勉強にもなるからね」


そう言って、近くの生徒にひとつ渡す。受け取った生徒は、少しだけ遅れて笑った。


「ありがとうございます」


その声にも、わずかな“遅れ”があった気がした。


「これでね、校内で色々なことができるようになる。購買も、サービスも、全部」


先生は楽しそうに続ける。その間も、額の汗が一滴、頬を伝って落ちた。気づいていないのか、拭う様子はない。


「ペットも飼えるようになるよ」


教室が少しだけざわめく。でもそのざわめきも、どこか制御されたみたいに一定の大きさで止まった。


「ただし、ちゃんとルールは守ること。いいね?」


「はーい」


また同じ調子の返事。


ふと、後ろの席を見る。空席がひとつあった。昨日、ネットの話をしていたあいつの席だ。机の上は綺麗に片付いていて、まるで最初から誰もいなかったみたいに見える。


「先生」


思わず声を出した。


「……あの、今日、来てない人いますよね」


一瞬だけ、教室の空気が止まる。


先生はゆっくりとこちらを見た。笑顔はそのまま。でも、目だけが少し細くなる。


「誰のことかな?」


「えっと……昨日、話してた……」


名前が出てこない。喉まで出かかっているのに、引っかかる。思い出せない。


周りを見る。誰もこちらを見ていない。全員がスマホに視線を落としている。


「ほら、もう授業始めるよ」


先生の声が、さっきより少し低くなった気がした。


「大丈夫。ここには、ちゃんと“必要な人”しかいないから」


その言葉が、やけに静かに教室に広がった。


気づくと、自分のスマホの画面が勝手に点灯していた。触っていないのに、通知が表示されている。


――おすすめ動画


表示されたサムネイルは、さっき見た草原だった。


再生ボタンが、ゆっくりと点滅している。


押してはいけない気がした。


でも、なぜか目が離せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ