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人の姿の魔族

「アンヌって人が魔物を知っていたのは、古い本の挿絵で見たことがあったかららしくてね」

 屋根を伝って村を出てから移動中にアルジーヌは、学者だと村長が言っていたアンヌという人と話したという内容を教えてくれた。ちなみに、人間の足では遅いということで俺はアルジーヌに背負われ、アンテナ役にさせられている。目立つからと明かりなしでよく畑に落ちず移動できるものだ。

「何世代も前の事について書かれた本の写しで、各地に残る伝承との比較を通して、元になった出来事や神話を推定していたらしいんだ。まあ、痕跡もない魔物が本当に実在するとは思ってなかったみたいだけどね。本の通り魔王も実在するのかと疑い始めた段階だったし」

 アンヌさんは考古学者や歴史学者あたりだったのだろう。魔王は神話で神と対立する悪の象徴か、或いはフン族のような謎の襲撃者や異民族あたりだと想定していたのだろうか。

「前の魔王が倒されてから随分経ってたんですね」

「いつの間にか半分神話の時代になってたぐらいにはね。だから、魔物を見たり襲われただけでそれ以外は知らないことにするのが自然かな」


 暗い森の中で、あの気配の主は寝転んでいた。夜目が利くのか明かりを点けていないので見て探すのは難しかっただろう。

「こんばんは」

 アルジーヌはそんな相手の頭の上側から顔を覗き込んで声を掛けた。

「きゃあああ?!」

 悲鳴とともに勢いよく飛びのいた相手を横目にアルジーヌはマッチを擦ると、懐から取り出したカンテラに火をつけ、

「ちょっと油断しすぎじゃないかな」

と言った。

 そうして照らし出された相手は少女のような見た目をしている。ただし見た目だけならアルジーヌより年上だ。そして黒っぽい服を着ているが、肩が出ているのを始めとして全体的に露出というか、体のラインが出ている。

「なんで、というかなんなんだお前ら!」

 というか、なんか全体的にかなりかわいい。この子を倒さなきゃいけないのだろうか。見た目が人間だと罪悪感が出てくる。

 そんな俺を尻目にアルジーヌは、

「そんなこと言われても、アルジーヌと名乗る、ごく普通の女の子って事になってるんだけどなー。ところで君は、名前があったりするような高位の魔族なのかな。まあ名前がないならその程度ってことで」

と返した。若干挑発的な感じがするのはなぜなのか。

「こいつ……。いいか、聞いて驚け、私は魔王の娘、ナイドレアだ!」

 対して相手はそう名乗った。

「やっぱりね。さてナイドレアちゃん」

 そう切り出したアルジーヌは、「ちゃん付けで呼ぶな」というナイドレアの抗議をそのままに、驚くべき提案をした。

「ここで事を構えてもいいんだけど、丁度明日は新月、つまり魔族の力が一段と強くなる日だ。どうせなら戦うのは明日にしないかい」

 この提案に、ナイドレアは少し考えた後、

「明日の夜、えっと、あっちのほうにある洞窟の先で待つ」

そう言ってその方向へ去っていった。

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