糸を通す針の孔
アルジーヌが出掛けたことで俺は部屋に一人になってしまった。元の世界では一人でも楽しめる、というかまあ、暇を潰せるものが沢山あったし、こちらの世界に来てからの数日はずっとアルジーヌと一緒、かつ刺激も多かったので考えもしなかったが、突然暇になってしまった。
アルジーヌが言っていたしとりあえず暇潰しにでも、と、魔法で周囲を探知してみると、魔物こそいなかったが、周囲の人々の動きから大体の村の範囲と主な道、更には自分が居るのが二階だということが推測できたので、思ったより得られる情報が多い事にと少しばかり感心した。
ちなみに村人たちに紛れて一つ、異様な気配がある。一応これはアルジーヌのものだと知ってはいるが、正直あまりにも異質すぎるし、それどころかさっきの魔物たちより余程危険そうに感じられる。下位の神だと言っていたし仕方ないのかもしれないが、今使っているこの魔法の使い手が他にいれば騒ぎになりそうなものだ。そしてどうやらそうでは無いらしい。
そんなことを思っているうちに、恐らく日が暮れたのだろう、目覚めた時には若干薄暗い程度だった部屋の中がさらに暗くなってきた。暗くなったらこっそり出かけてもいいとアルジーヌは言っていたし、窓あたりから外に出てみようかと窓の外を見てみたが、暗くて何も見えなかった。
まだ若干空が明るいうちからこうも暗いのなら夜には本当に闇に包まれてしまうだろう。辺りを照らそうとしたら絶対に目立ってしまう。目を覚ましたばかりということもあり眠気は微塵も無かったが、出かけるのは人の往来が落ち着いたらにしようと思い、とりあえず周囲を探知しながら寝転んでみたその時、驚きのあまり思わず天井に氷の矢を放ってしまった。
さっきまで探知していたのは水平方向の四方だったが、寝転がったことで探知の範囲も前後左右から上下左右に回転した。そしてその時、尋常ではない気配が探知に掛かったのだ。アルジーヌには及ばないが、確実にその半分よりは強力だろう、少なくとも今までの魔物とは比べ物にならない。
そんなものがほぼ真上にあったので、咄嗟に屋根を貫くような魔法を放ってしまったが、碌に狙いもつけていないものが当たる筈もなく、天井に小さな孔を空けただけで結局取り逃がしてしまった。それにしても何者だったのだろうか。
ゴキブリを見かけ思わず持っていた物を投げてしまったたとしても、ゴキブリには当たりっこない。
電球の普及以前は都市も闇夜に包まれていた。エジソンはすごい。




