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45話 意宇川の戦い2 【地図2】


 永禄2年(1559年)1月 安芸 吉田郡山城 毛利元就



「……それでは父上、某はこれで日野山へ戻りまする」


「うむ、徳殿によろしく言っておいてくれ」


「はい。暖かくなれば宮松丸を連れて遊びに来させましょう」


「宮松丸も大きくなったであろうの。爺である儂の顔を覚えておるかのぉ」



 今度会うのが楽しみじゃわい! 早く春にならんかのぉ。



「さぁ? それはなんとも言えませぬな。某も宮松丸の年頃の記憶はございませぬよって」


「はははっ、それもそうじゃな。孫というものは、倅と違ってどうにも甘く接したくなるのじゃよ」


「躾けをするのは某と妻の徳ですからの。父上には孫に責任が無いゆえに、孫が可愛いのではないですかな?」


「なるほどのぉ、元春の言う通りやも知れんのぉ」



 孫の躾けに無責任でいられるから、孫は目に入れても痛くないほど可愛がれるということじゃな。責任が生じると、どうしても大らかな心を置き去りにしがちになるのじゃからな。



 ドタドタドタッ!



「なんじゃい、やかましいの」


「大殿! 一大事にございまする!」


「政時、そんなに慌てふためいてお主らしくもないの。何事ぞ?」


「月山富田城で尼子晴久が嫡男である義久に弑逆されました!」



 ガタッ!



「なにっ!? それは真か!」


「真にござりまする! 繋ぎの知らせでは、義久と玉姫の間で戦になるとの由にて!」



 晴久がのぉ…… 戦場で雌雄を決したかったのじゃがな…… ふっ、既に考えても詮無きことよの。儂も、もうすぐ逝くであろうから暫しの間地獄で待っておれ。義弟よ、さらばじゃ!


 それよりも、



「義久が姫巫女に嫉妬して血気に逸ったか……」


「父上、ちと風説を流布させすぎましたかな?」



 そうじゃの、ちと薬が効き過ぎてしまったようじゃな。薬は毒にもなるということか…… さじ加減が難しいということじゃな。



「なに、結果は儂の考えていた絵図と少しばかし違ったが、尼子が分裂したのは好機ぞ!」


「それは、確かに父上の言う通りですな。世鬼、出雲の内情もう少し詳しく分かるか?」


「はっ! 玉姫が既に三刀屋城を落とした模様との事です!」


「なに! 三刀屋は義久に組して、その三刀屋城が既に落城しただと!?」


「はっ! 繋ぎが安芸に戻る途中で、三刀屋付近を通り掛かった際に見たと申しておりますれば、十中八九は事実かと」


「早すぎるの……」



 義久謀反の知らせを繋ぎが察知して三刀屋を通り掛かるまでの数日の間に、既に姫巫女は三刀屋城を落としていただと? 一体全体どんなカラクリなのじゃ? 姫巫女は事前に義久の謀反を知っていたとでもいうのか?

 いや、それはありえんか。尼子を分裂させてまで、父親である晴久を見殺しにする理由が姫巫女には見当たらんのじゃからの。だとすれば、偶然にも兵が臨戦態勢であったのか? しかし、その兵はどこを攻める予定だったのじゃ?


 いや、これもまたありえんのか? いまは、まだ松の内じゃからの。正月に兵を新たに動かすことなど、下の者が納得せぬであろうよ。ましてや、あの小娘自身が杵築大社に仕える巫女なのじゃからの。

 うーむ…… 謎が増えるばかりではないか! だがしかし、我が毛利のやることは決まっておるのじゃ!



「元春、直ぐにでも兵を纏めて出兵するぞ」


「父上、石見ですか? 出雲にですか?」


「生田の智教寺を通って出羽に出て小笠原じゃ!」


「しかし、智教寺はまだ雪が深うございますぞ! あと一月、いや、半月お待ち下され」



 むぅ、時が惜しいのじゃがな。ここは折衷案を出して妥協しておいてやろうかの。無理矢理に急いで出兵しても兵站が追い付かないやも知れんしの。



「兵を集めていれば、7日か8日は経つであろうから待つのはそれで十分じゃろうて」


「分かり申した。では、某も日野山の兵を纏める為に戻らせて頂きます」


「うむ、気を付けて帰るのじゃぞ。政時は、引き続き出雲の情勢を探っておいてくれ」


「ははっ!」



 やれやれ、今年は松の内からいきなり慌ただしくなるとはのぉ。じゃが、尼子が兄と妹で争っている間に、我が毛利は漁夫の利で佐摩の銀山を頂くとしようかの! そう考えると、馬鹿の暴走に感謝せねばならんのぉ。






 永禄2年(1559年)1月 出雲 意宇郡 大草郷 大庭村 竹矢村 茶臼山 近郊



「多胡爺、相手の鉄砲の数は分かる?」


「商人から仕入れた、2匁半の種子島が20挺から30挺ばかりだと思われますな」


「遥堪村で作った4匁の鉄砲は相手には無いね?」


「4匁は国造衆以外ですと、石見にしか配備されてませんな」



 そうだったんだ。いままで軍事編成には、ほとんどノータッチでしたので知らなかったよ。でも、4匁の鉄砲が敵に無いのは僥倖ですよね。あー、でも、この戦が終わったら竹束の盾をちゃんと作って配備しないといけませんね。

 2匁半の鉄砲でも、近づけば死にますしね。防御する装備は大事ですよね! いのちだいじに。これとっても重要です。


 それはそうと、



「陣形は鋒矢と偃月のどっちが良いかな?」


「鋒矢ですと鉄砲隊が使い難そうですので、偃月がよろしいかと存じます」



 なるほど、確かに鋒矢だと傘のように広がるから、鉄砲隊の射角が確保出来そうにありませんでしたね。



「ん、分かったよ。陣形は偃月で! その外側の左右に鉄砲隊を配置する陣形で行くよ!」


「「「「「ははっ!」」」」」



 敵の先陣が国造衆の鉄砲隊の統制射撃によって、壊滅したのを見て取った敵はビビって意宇川を渡河するのを躊躇ってしまいましたので、今度は我が方から戦を仕掛けなければならなくなったのであります。

 それで、意宇川を渡河する為の軍議を急遽開催している最中なのであります。鉄砲隊が銃口を敵に向けて脅しているので、合戦の最中だというのに呑気に軍議など開けているのです。本当に鉄砲様様ですよね。


 この生温い戦の仕方は、なんなのでしょうかね? 忍原では短時間ではあったけど、もっと殺伐とした雰囲気で空気もビリビリしていた気がしましたよね。けして、弛んでいる訳ではないのですが、うーん…… 相手が攻めてこないからですかね?


 本当は、こんな泥縄式では、いつか足元を掬われそうで怖いんですけどね。でも、経験を積んでそれを消化して昇華させれる余裕が、いまこの時にはあるのですから活用しない手はないですよね。消化して昇華なんて駄洒落でしょうか?

 うん、我ながら南極か北極のブリザードの中にいるぐらい寒かったわ……


 それはさておき、



「くれぐれも、逃げる足軽雑兵を追いかけて首は取らないでよね! 同じ出雲の民なんだし、この騒動が終わればまた味方に戻るんだから!」


「「「「「はっ!」」」」」



 孫子も逃げる敵は追うなとか、帰る敵は止めるなとかなんとか言っていたもんね。あと、敵の軍を保全したまま勝つのが最上の策とかもありましたね。

 しかし、これには…… 故に百戦百勝は、善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。なんて、おまけが付随しているのですがね。つまり、戦は下策ということなのであります。


 でも、仕方ないよね。相手が刃物を持ったキチになっちゃってますし、私も幽閉されたり殺されたくなんてありませんから。うん、これは仕方がない戦なのです。よって、これにて自己弁護もとい自己の正当化は完了。


 まあ、実際に戦闘が始まってしまえば、興奮して我を忘れる輩も大勢出て命令違反も続出しそうなのが玉に瑕ですがね。こればかりは、致し方ないのかも知れませんね。

 誰も彼も、戦場で敵に情けを掛けてまでして、自分が殺されても良いだなんて馬鹿なことは考えませんからね。みんな死にたくなんかないもんね。でも、こういうのは後々のことも考えて、あえて言ったことに意味があるのです。


 っと、話が逸れましたね。



「ただし、兜首は優先的に狙ってちょうだい! 将が討たれれば、足軽雑兵なんて烏合の衆で逃げ出すのが常でしょ」


「左様にござりまするな」


「それじゃあ、先陣を決めるわよ!」


「玉姫様、某にお任せ下さい!」



 おろ? 意外な人物から声が掛かりましたね。



「諏訪部殿、いいの?」


「敵であった我らの村を焼かなかった玉姫様の温情を、玉姫様への恩を返しとうございます」


「分かったわ。その心意気や良し! 先陣は諏訪部上野介殿!」


「ははっ!」



 情けは人の為ならずでしたね。うむうむ、よきかなよきかな。



「次! 二陣は、」


「某にお任せあれ!」


「うむ、第二陣は秋上三郎左衛門殿!」


「承った!」


 

 見せてもらおうか、大庭大宮もとい神魂神社の神兵の実力とやらを。かもすぞー!






 ……これで、八段構えの布陣が出来るということですね。ちなみに、私はといいますと最後方の本陣に居ます。まあ、実際の戦闘ではチンチクリンな小娘の私自身は足手まといなのですから、当たり前の話でしたね。


 さて、最後に鉄砲隊への命令が残ってましたか。



「使い番、国造衆へ伝令! 国造衆の鉄砲隊は左右二手に分かれて、膝まで浸かる場所まで川に入って撃ち方は立ち身で! やや斜め真ん中よりに援護射撃をしてちょうだい!」


「御意!」


「あくまでも、牽制の為の援護射撃なんだから、敵への狙いは適当で良いから味方に当てないようにと、ちゃんと伝えなさい!」


「ははっ!」


「大筒も河原まで進出して、味方が突撃する前に敵陣に向けて撃ってちょうだい!」


「はっ!」


「さあ! 今度は、こっちから攻める番よ! 父殺しの義久に味方する連中を蹂躙せよ!」


「「「「「おーーーっ!!」」」」」



 兵の数では倍近くの差があるのですから、まず負けることはないはずですけれども、ちゃんとした野戦で攻撃側を主導するのは実質的に、これが初めてみたいなモノですので少し緊張しますね。

 まあ、鉄砲と大筒があるから、この程度の緊張で済んでいるのだと思いますがね。鉄砲の集中運用はマジチートですし。






「撃てぇーーーっ!!」



 ドーン! ドドーンッ!


 ダダーーーンッ!!



「狙うは御屋形様殺しの逆賊である義久の首ぞ! 突撃ぃーーーっ!!」


「「「「「おーーーっ!!」」」」」



 ターンッ! ダーンッ! ダダーーーンッ!!


 ワーーーッ! ギャーーーッ!! ワーーーッ! ワーワーッ!






「姫様に報告します! お味方の優勢であります! 諏訪部殿、秋上殿が敵の先陣を喰い破りつつあります!」



 敵味方が入り乱れた戦闘になってしまえば、もう鉄砲隊は使えませんよね。やはり、どんなに優れている武器であったとしても欠点はあるということですか。万能な武器というモノは存在しないみたいですね。

 案外とシャベルが一番潰しが利く武器なのかも知れませんね。シャベルは土木工事の道具にも使えますし、底の浅い鍋の代わりにもなるのであります。もしかして、シャベルって最強の気がしてきましたね!


 そうじゃなくて、



「ご苦労さま! 多胡爺、そろそろ頃合いでしょ?」


「左様でございますな」


「赤色の狼煙を上げてちょうだい!」


「はっ!」


「これで、決まりですな」






 ワーーーッ! ギャーーーッ!!  ガンガン! ぐおぉぉぉーーーーっ!! ワーーーッ! ガキンカキン! ワーワーッ! 死に去らせぇーーーっ!! ギンギン! でりゃーーーっ!!

 キンキン! わーーーっ!! カンカン! でりゃーーーっ!! ガンガン! うおーーーっ!! ギンギン! ぎゃあーーーっ!! ガキンカキン! 死ねやーーーっ!! カンカン! に、逃げるなっ! オラもう嫌だっ! たたかえっ!





「御注進! 御注進! 敵が裏崩れを起こしました! お味方の勝ちです! お味方は既に追撃戦に移っております!」


「ふぃー、勝ったわね」


「おめでとうございまする。で、よろしいですかな? 姫様」


「まあ、一応はね…… 伝令! 逃げ惑う敵の足軽雑兵は無視するように、再度通達してちょうだい!」


「御意!」



 正確に言うならば、裏崩れとは少し違うのですよね。別動隊を編成して敵から見えない場所で、戦が始まる前から待機してもらっていたのです。その別動隊が、東岩坂村の雨乞山と宝満山の間を通って古城山の麓に抜けたのです。

 それで、別動隊が敵の斜め後ろから横槍を入れたので、その結果で裏崩れみたいになったのです。その別動隊を率いているのは、亀井安綱と息子の二代目秀綱です。その亀井親子に半分城で遊んでいた鉄砲隊を貸与させていたのであります。



挿絵(By みてみん)



 おまけで、亀井秀綱の養子である亀井甚次郎ですか。彼は天文14年の生れみたいですから、数えで15歳。前世的に言いますと実際には、まだ13歳の中学一年生ですよね。13歳で初陣だなんて、さすがは戦国時代です。そこにしびれないし、あこがれない。


 まあ、私の初陣は9歳でしたがね! なにもしてませんでしたが…… 参加はしていたのであります!


 それにしても、亀井で思い出せたのは春姉の従姉弟で、亀井茲矩になる予定の十郎くんしか知らないはずなんだけどさ。でも、


 なぜか、亀井甚次郎って名前が引っ掛かるんだよなぁ……




戦闘シーンを書く才能が欲しい(´;ω;`)

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[一言] 信長の野望ぽくしてみてみては?(つまり、戦闘シーン放棄笑)
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