44話 意宇川の戦い1 【地図2】
永禄2年(1559年)1月 出雲 大原郡 屋裏郷 高麻城 近郊 仁和寺村
「大西高範、切腹した由にて」
「高麻城の敵兵も降伏しました!」
100対2千では高橋紹運クラスの武将が城に籠もってませんと、あっけなく落城するのは無理もないことなのかも知れませんね。
「多胡爺、こっちの損害はどれぐらい出たの?」
「死者は12名で、負傷者が30人程ですかな」
「そう…… 戦死した者には弔慰金を払うから名前と出身の村を後で教えてちょうだい。負傷した者も、その傷の程度によって見舞金を払うから申告させて」
「御意にござりまする」
ふぅー、いくら父上の弔い合戦という正当な大義名分があるにしても、私の都合で死なせたのだから後味は悪いわね。こういう事は、これからも起こるわけなのだから、ある程度は人の死に無頓着というか鈍感にならないと心が持たないでしょうね。
まだ戦国の世に染まり切れないでいる私は、所詮は甘ちゃんということなのかも知れませんね。早く麻痺して欲しい問題ではありますよね。非情にならなければ、いつかは私が墓穴を掘ることにもなりかねないのが、この時代なのですから。
しかし、弔慰金か…… 一時的な見舞金として払うのではなくて、遺族年金や戦傷者年金として最後まで面倒を看てあげた方が、その後に遺族や本人が路頭に迷うことも無くなりそうですよね。
その分、足軽兵卒は後顧の憂いが少なくなって戦に集中できるし、年金を支払ってくれる尼子への忠誠で士気も上がりそうだから、一考の余地はありそうですね。
なにはともあれ、
「明日は大谷を通って、湯殿の玉造まで陣を進めるわよ」
とりあえずは玉造温泉で一泊して、ゆっくりと休みたいですしね。
「おひいさま、三沢はどうするのですか?」
「仁多郡とか奥出雲に入ると雪が深くなるから、とりあえず三沢は放置かな?」
「なるほど。蓑虫みたいな恰好をしないで、冬の奥出雲に行くのは無謀でしたね」
三沢氏の本拠地は、現在でいうところの出雲横田とかの周辺が根城なのです。つまり、出雲でも一二を争う豪雪地帯なのであります。ですので、三沢は雪解けまで放置決定であります。向こうも十中八九は攻めてこれないしね。
「某には、使者の一つ寄越さないでいる三笠城の牛尾の動きが気になりますな」
「とりあえずは牛尾も放置よ。敵に回るのならば叩き潰すまでだから」
「よろしいので?」
「だって、牛尾も兵を集められても150人から200人が精々でしょ? 大東の更に山奥で大人しくしている分には害は無いはずだよ」
「それもそうでしたな」
中立は敵と見做すなんて言葉もあるにはあるのだけれどもね。それよりも、そろそろ義久にも動きがあるだろうし、いまは早めに玉造まで出る方が優先なのですから。
翌日 出雲 意宇郡 拝志郷 玉造村
「玉姫様におかれましては此度の一件は、さぞご無念のことやと、お悔やみ申し上げます」
「痛み入ります。湯殿が合力してくれるのは心強いですね」
「はっ!」
いま挨拶をしている湯殿は、湯惟宗といって多胡爺の娘婿である湯永綱のお父さんに当たる人になります。
「それで、兄である義久の軍勢がどうなっているのか分かるかしら?」
「昨日の報告では、まだ富田で兵を集めている段階でしたので、こちらに来るのは明日か明後日になるかと思われます」
えらく初動が遅いわね。恐らくは、家中の動揺を抑える為に地盤固めでもしていたのかも知れませんね。
「兄の兵力は?」
「義久様が御屋形様を弑逆した噂が広まっておりますれば、兵の集まりが悪いので精々が千五百から二千程度かと存じます」
なるほど、私の手駒である方の鉢屋衆の報告と、ほぼ同じな訳か。これで確実な裏が取れたという事になりますね。
「分かったわ。想定される戦場は意宇川を挟んでの戦になりそうだね」
「左様にございまするな」
「多胡爺、半分城で待機している連中も呼び寄せてちょうだい」
「御意。早馬を出します」
とりあえずは、玉造より西側の安全は確保されたとみても良いでしょうから、半分城の連中は遊兵になったも同然でしたし、こっちに持って来て戦力強化の一役を買ってもらいましょうか。
「明日は、敵が揖屋から来ても岩坂から来ても対処できるように、茶臼山の麓にある真名井神社の辺りに本陣を構えるわよ!」
「「「ははっ!」」」
さて、決戦は明後日以降になりそうですね。
翌々日 出雲 意宇郡 大草郷 大庭村 竹矢村 茶臼山 近郊
「敵の先陣が意宇川を渡り始めました!」
「敵が川の中ほどまで入ってきたら撃ち始めて!」
「御意!」
「なるべく身分の高そうな武将を優先的に狙ってちょうだい!」
「ははっ!」
それにしても、敵の数が思っていたよりも少ない気がしますね。野鳥の会の人みたいに正確に数えれるわけではありませんけど、1500人以下なのは確実な感じですね。
この場面にて、戦場での敵兵力を把握する方法は大雑把ではあるけれども、目算でマスを作るのです。例えば20m×20mみたいな感じですね。その中に何人の兵が入れるのかを初めから決めておけば、おのずとマスを数えたら答えが出るという訳なのです。
まあ、大雑把すぎてプラマイ20~30%の誤差はざらにあるんですけどね。他に良い方法も知りませんし仕方がないのです。
それはそうとして、敵の先陣の旗印が先日に降伏させたばかりの旗印に見えるのは、なぜでしょうかね?
「丸に梶の葉……? 梶の葉って三刀屋じゃないの! 多胡爺、どういうことなの!?」
「三刀屋は三刀屋でも、三沢の一族から三刀屋に入った分家ですな。丸に梶の葉は備中勢の三刀屋宗忠の旗印になります」
そういえば、三刀屋本家は丸は無しで素の梶の葉が家紋だったよね。なるほど、私の旗印である二重亀甲に隅立て四つ目みたいに、本家の家紋を多少アレンジしたモノでしたか。
「なるほど。しかし、よくもまあ、出雲に本貫地が無いのに100人近くの兵を集めれたわね」
「兵の大部分は義久様から借りた兵でしょうな。義久様も一人でも味方の将が欲しかったということですかな?」
「あー、そっか、そうでもしないと三刀屋宗忠は備中の自分の領地に帰っちゃうもんね」
つまり、『兵を貸してやるから手柄立てろよ! (勝手に備中に帰って変な動きするんじゃねえぞごらぁ!)』こんな感じでしょうかね? ここまで親切の押し売りをされたら断りづらいですよね。
でも、例えそんな事情があったとしても、私が斟酌してあげる謂れはないのであります。
「撃てぇーーーっ!!」
ダダーーーンッ!!
うん、相変わらず鉄砲は敵からしたら卑怯な道具なのかも知れませんね。まだ竹の束を盾にする対策もまともに出来てないから、敵の損害が加速度的に増えそうですね。ビビってさっさと逃げてくれれば死なずに済むのにね……
「玉姫様! 敵の先陣は約半数が討たれて壊滅しました! 敵将であった三刀屋宗忠の討ち死にも確認しました!」
「ご苦労さま。敵の第二陣は渡河してきそう?」
籠城して敵を見下ろしている時とは違って、平地での野戦はあまり遠くまでを見通せないのが難点ですよね。あー、そうか、団扇があるんだから梯子があってもいいよね。消防出初式みたいに梯子に登れば平地でも遠くまで見渡せますしね!
火事と喧嘩は江戸の華なんて言葉もありますし、戦も火事と喧嘩の拡大版みたいなモノですしね。うむうむ、私ってば天才かも知れませんね! いやー、自分の才能に思わず惚れ惚れしちゃいそうになりますよね!
「そ、それが、先陣が崩壊したのを見て川を渡るのを躊躇しているようです」
「それって、つまり……?」
どういうことですかね?
「やれやれ、これは攻守逆転ですかな? 今度は、こちらから攻めないと戦になりませぬな」
それって、鉄砲がたいして役に立たないってことじゃないの!
どうしてこうなった?
ビビってないで、攻めてこいよぉぉぉ!




