その8:過去と決意
昨晩は、寝る事が出来なかった。果たして、自分の腕が魔物に通用するのか。
心強い味方が居るものの、足を引っ張る事は無いだろうか、本当に不安だったのだ。
フェインの仲間と門の前で合流し、出発前の挨拶をする事になった。
剣術を扱い、フェインから厚い信頼を得ているフロストティ、武術の腕も確かで、移動において欠かせない馬車の操作を行うキーア、僕と同じ魔術を操るジェイル。
「この子達は、本当に凄いのよ!あの巨大ウィップを倒した経歴もあるの!」
「ウィップ、、ですか、、?」
「見た事無い?ドラゴンよドラゴン!」
あぁ、ドラゴンの事か、それなら理解する事が出来る。
「魔獣型、人型、妖精型、色々な魔物が外にはうようよと居るの」
「うぇ、僕本当に大丈夫なんですか?」
話を聞いて、何だか少し怖気づいてきた。指輪をぎゅっと握りしめる。
「大丈夫だ、お前は私が見込んでるからな」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。
「シャンディさん!」
「と言う事で、彼女には着いてきてもらいます」
やっぱり着いてきてくれた、彼女は僕達との同行を選択してくれた。
役者は揃った、シャンディから激励され僕は前を向けた、両親の為にも、僕は引き下がれないのだ。
皆の期待に応える為にも、僕は進み続けなければならない。
「さっ、時間よ。皆いい?出発よ!シャンディもほら、士気高めないと!」
「そうだな、良いか!この陣営には、私とフェインが居る!大船に乗ったつもりで居ろ!行くぞ!」
皆で拳を突き上げ、心を揃える、即席の複合パーティーの完成だ。
(待っててください、父さん、母さん、僕はやり遂げて見せます!僕の事が分かった時、元気な姿を見せに行きます!)
そう誓い、キーアの馬車によって、僕は領を後にする。
領地の外は、思ったよりも自然豊かだった、緑で生い茂げ、動物すら居た。
「あの、魔物ってそこら中に居る訳ではないんですか?」
「はは!うようよ居るは言い過ぎたかもしれないわね」
フェインは、近くにある洞窟に指を差す。そこには、見覚えのある魔物が居た。
「あれが、グラ。ここら辺の魔物は基本あの子達しか居なくて、特に脅威も無いの」
(襲われたんだよな、あいつ等にさ)
あの時の事は、未だに覚えている、僕も母の様に人を救えるような人になりたい。
「まぁ、脅威ある場合は、すぐに私たちが向かって討伐するし、脅威と言う魔物は、もう少し先かな」
「なぁ、一度実践させてみるのはどうだ、グラなんて敵程ではないかもしれないが」
シャンディが提案をしてきた、練習こそしてきたものの、対魔物戦闘は未経験、いい機会だ。
「そうね、一度私達に魔術を見せてくれないかしら!」
「はい、やってみます!」
馬車から一度降り、近くのグラと対峙した、練習とは違う緊張感が僕を襲う。
「グルルルルル、、グガァ、、」
低く唸る、グラ。僕はゆっくりと、腕を前に突き出す。いつもの様に、練習通りに。
「音すら置き去る、操られし炎を刮目せよ!ウェーブドライb、、」
ジーアスから貰った魔本の事を思い出す、呪文を詠唱していた、その時だった。
「おい!ちゃんと、前見ろ!来てるぞ!!」
シャンディの声が聞こえた、しまった。目を開けるとすぐそこまで、グラが飛び掛かっていた。
集中する為、目を閉じて詠唱してしまっていたのだ、練習の時は、目を開けずとも何も襲ってこない。
しかし、ここは命を張る戦場、相手もこちらの命を刈り取ろうとしている。大事な事を、失念していた。
後ろへとよろめき倒れ込み、腕が上へと反れてしまう。若干途切れた炎が、グラの頭をかすめた。
「ちっ!あいつ何やってんだ!!」
シャンディが、食料として持ってきていた、リンゴを手に掴み、フルスイングでグラへ投げつける。
「ギャン!!!!」
それは見事、グラの頭部へ命中、横へ吹っ飛ぶ。すかさず、シャンディが僕に叫ぶ。
「おい!!!!!詠唱をやめるんじゃない!!!!」
立ち上がった僕は、腕を再度構え、技だけ唱える。
「、、っ!ウェーブドライブ!!!」
波打つ炎が、すばやくグラへと飛んでいく、元々は大きな波状の炎でまとめて焼き尽くす技。
「何か、私が知ってるウェーブドライブじゃないんだけど、、」
ジェイルが呟く、そう僕は、一本の炎を撃ち出していたのだ。
見事に、とはいかないが、僕はグラを討伐する事が出来た。
シャンディが、こちらに駆け寄ってくる。
「お前、、、、まぁ、良い。怪我は無いか」
シャンディの顔は、怒っていた。自分は、ここで命を落としていたかもしれなかった。
前もって戦闘していて、良かったかもしれない。
ミスをしてはいけない思いと、実践と言う事に浮ついて、気が緩んでいた。
「すみません、こけた時に少し、膝だけなので、、」
「はっ、はっ、クライネ君、無事、、?」
遅れて、フェインも駆け寄ってくる、後ろから馬車もこちらに来ていた。
「心配かけてしまいました、本当にすみませんでした」
頭を下げる、陣営の皆を心配させてしまった。やはり、僕にはまだ早かったのだろうか。
「良いの、寧ろ今まで実践をさせてこなかった、私に非があるわ。ごめんね」
「とっ、とんでもないです、、僕が気を付けていたら、、」
フェインが膝の怪我に気付いた。彼女は、すぐに僕に治癒魔法をかけてくれた。
しかし、傷痕が光り出す。
「本当に、自己治癒が出来ないのね、、しかも、治癒魔法まで発散してる、、治りが遅い、、」
馬車から降りてきたキーアが、話しかけてくる。
「でも、本当に良かったぜ、シャンディさん貴方、投擲手も出来んだろ?」
「過去に少しだけ、な。でも、まさか経験が生きる時が来るとは思わなかったよ」
そこで安心したのか、シャンディはその場に座り込んでしまった。
更に、下を向いて話し始める。
「私な、過去に剣士の知り合いを亡くしてんだ。投擲手はな、敵の気を引き付けたり、視界を奪ったりと便利な役職だけどな、直接ピンチをどうこう出来る訳じゃないんだ」
「シャンディ、、」
フェインが心配そうに、声を漏らす。
「もう、私が魔物に麻痺する球を投げる頃には、そいつは吹っ飛ばされてた。でっかいセクタートでな、多分、当たっていたとしてもその攻撃は、防げなかっただろうよ」
僕は、シャンディの顔から涙が落ちる所を見てしまった。
「吹っ飛ばされたって言うか、もう鎌で腕が切れて身体が弾き飛ばされた感じだった。その時、私が前線に立って戦っていれば、とか思っちゃってな。無理言って役職を、剣士に変えてもらったんだ」
そんな過去があっただなんて、面倒見が良いシャンディだったがそれは、過去の後悔から来ていた。
「だからよ、もうさ、私の前で誰も死なないでくれ。頼む」
馬車へと戻り、先へと進む。沈黙が馬車の中を包んだ。
初めての対魔物戦闘は、この様な結果で終わってしまったが、一緒に決意へと変わった。
僕は決めた、絶対に、もう皆を悲しませない、救ってみせると。
その8です。ついにブックマークを頂けました。本当に嬉しいありがとうございます。
相も変わらず、難しいです。初戦闘頑張れ、クライネ君。なるべく泣かせないでくれクライネ君。




