その32:また会おう
卒業課程試験を受け陣営へ戻る為、学び舎である、ミリオットへ編入する事となったクライネ。
準備を進める為にも、兵舎の自室へと戻っていく。
「クライネ、本当に行ってしまうのだな」
「シャンディさん、短い間でしたが、陣営ではお世話になりました。また、必ず戻ってきますので」
「もちろんだ。信じて、待ってるぞ」
シャンディが、僕の手を両手で握り込む。
少し痛かった。
「クライネ、、私も、、待ってる、、」
「アリスさんも、お元気で。ありがとうございました」
「フェイン陣営や、セルスファー陣営の皆とは、話さなくて良いのか?」
「いえ、これから会いに行こうと思います」
僕は、フェインらに一旦の別れを告げる為にも、シャンディに頼み、全員をシャンディの部屋へ、集めてもらう事にした。ただ、その場には、エレットの姿は、見えなかった。
「一人来ていないが、話を進めよう。皆に来てもらったのは、他でも無い。クライネ、頼む」
「僕は、手形不所持によって、陣営の脱退を命じられました。それは、皆さんご存知だと思います」
「どうだったんだ?ずっと気になってたんだ」
フロストティが、話に割って入ってくる。
「フロストティさん、そして皆さん。僕は、その命令を受け入れる事にしました」
話を聞き、呆然とする一同。暫しの間の沈黙があった。
「すまない」
口を開いたのは、セルスファーだった。
「私の方でも、裏で掛け合っていたんだ。どうか、罪を軽くする事は、出来ないかと。検討するとは言っていたが、恩を返す事が出来なかった。本当にすまない」
「いえ、本当に、ありがとうございます。僕なんかの為に、動いて下さって」
「ねぇ、どういう事」
部屋に入ってきた。エレットだった。彼女は手に持った杖を、地面へと落とす。
「クライネ、、脱退するって本当なの…?」
「エレット、、すみません、本当です」
「嫌、そんなの嫌。折角、同じ境遇の人に会えたのよ?私あの時、助けて貰って、お返しすら出来てないのよ?それで、脱退?」
うつむき涙ながらに、訴えかけてくるエレット。
僕は、その話を淡々と、聞く事しか出来なかった。
「もう、どうしようもなかったんです」
「打つ手はなかったの?」
「はい」
「本当なの?」
「すみません」
簡潔に受け答えするしか無かった。ただ、僕がこれから、陣営に戻る為に、ギリエルと、交渉した内容を伝える。
「でも、僕もただでは引き下がりません。きちんと交渉して来ました」
「交渉?」
「僕は、学び舎であるミリオットに行く事にしました。そこで、卒業課程試験を受け、精鋭として合格し、陣営に戻ってきます」
その話を聞くと、やはり、ジェイルが反応した。
フロストティも、聞き覚えのある場所だったようだ。
「ミリ、、オット…?」
「おい、それってジェイルの出た所じゃねぇかよ」
「ギリエルが、場所を指定してきやがった。ジェイルの事も、意識した内容だと思っている」
シャンディは、ギリエルの考えてる事に対して、不快感を覚えていた。クライネのみならず、他陣営にまで手をかける、その腐った性格にだ。
「でも、僕は寧ろ、チャンスだと思ってます。ジェイルさんと同じく、首席で合格してみせます」
「ねぇ、クライネ君。私、未だに気持ちの整理がついてないの。行っちゃうの?ごめんね、ちょっと、、」
フェインは椅子に座り、下を向いていた。
「まさか、陣営を去る事になるなんて思ってもなかったの。何だかんだ、セルスファー陣営を救った功績で、お咎め無しになると思っていたのよ、、」
「仕方なかったんだ。クライネは、彼なりに考えた上で、今回の決断を選んだんだ。私たちの事も考えてね」
「分かってる。分かってるの。手形不所持の魔術師が居る中央に、不安を覚える民も少なく無いはずだし、説明しても認めない人も居るに違いないわ」
シャンディが、フェインの気持ちを必死になだめようとする。
「でも、それでも今、この現実を直視出来ない。ここから、居なくなるって事が考えられないの。これからよ?彼の今からを、潰されたのよ?どう気持ちを整理しろって言うのよ」
「すみません、フェインさん。ただ、感謝したいんです」
「感謝?」
「聞き流して下さい。僕は、今からありもしない記憶の話をします」
僕は、直接では無いが、ここに来る前の事を話す事にした。
「僕は、多分前世は誰にも愛されない人でした。必死に何かを成し遂げようとも、今回の様に、どこかで必ず邪魔をされる。そんな、前世だったと思います」
「きゅ、急に、、何の話をしてるの?」
「そんな時、僕は、毎回一人でどうにかしなくちゃと、もがき続けてたと思います。でも、今回は違います。動いてくれる仲間が居ました」
多分、皆には急に変な話をしだした様に、思われるかもしれない。ただ、僕はそれでも良いと思える程に、ありがとうを伝えたかった。
「最後まで、変な人ね。クライネは」
「何だか、そう言う世界が見えたんです。一瞬だけ」
エレットが、少し笑ってくれたいた。
そう、一旦の別れの時こそ、涙はふさわしくない。
いつか必ず、戻ってくるのだから。
「ありがとうございます。それを伝えたかったんです。それでは、僕は、行ってくるとします」
決意を胸に、僕は、その場を後にしようとする。
後ろから、エレットの大きな声が聞こえた。
「私、待ってるから!あんな奴に負けないでよ!」
「任せて下さい!なんて言ったって、僕はあのシャンディさんから信用されてて、あのジェイルさんの弟子なんですから!」
手を振り、僕は、シャンディの部屋を後にした。
「こんなもんで、大丈夫かな、、」
僕は、自室で部屋を出る準備を進めていた。
ミリオットでは、寮生活になる。この部屋ともお別れだ。
「おい、入るぞ」
鍵を開けたままにした部屋に、シャンディが入ってきた。
「行ってしまうんだな。クライネ。表に迎えを手配している」
「シャンディさん、、お元気で。それと、これを」
「ん。確かに。お前こそな」
僕は、陣営一時的な最後に、シャンディの大きな手で頭を撫でてもらい、ミリオットへと、向かうのであった。
シャンディの握る手には、部屋の鍵がそっと包み込まれていた。
「また、会おう。私が信じた人」
更新更新。難しいです。学び舎へ行くぞ〜




