その31:絶対の規則
「貴方のルール、受け取りました」
「クライネ、戻ってきたか。部屋を出る準備は出来たか?」
椅子に座るギリエルは、頬杖をし、クライネを出迎える。
「ちょっと、、クライネ、、やっぱり無理があるよ、、」
アリスが、僕の肩を掴み軽く揺さぶる。
だが、僕はギリエルを真っ直ぐと、見つめ続ける。
「えぇ、準備は終わりました。すぐに出れます」
「クライネ!どうして、諦めるんだ!私が今!」
「大丈夫ですよ、シャンディさん。ギリエルさん、僕と少し、取引しませんか?」
席に近付きながら、ギリエルに話を持ちかけてみる。
その話に、ギリエルは食い付いた。
「取引?何だ、お前に取引出来る材料はあるまい。だが、話は聞いてやろう。私は、公平が大好きなものでな」
「修了課程試験を、受けさせて貰えませんか?厳格なルールの元、試験があるんですよね?」
僕は、その厳格なルールと言うものを、覚えていた。
「面白い事を言うな!修了課程試験?学び舎すら出ていない奴が?修了課程試験を?笑わせるんじゃない。今、試験を合格した所で、過去の過ちが、消える訳が無いだろう?」
「そうですね。だから、これはどうでしょう」
「ほう、何だ聞かせろ」
「僕は、シャンディ陣営脱退を受け入れます」
あまりにも、素直に聞き入れたクライネに、シャンディが横から会話に入る。
「おい、何を言ってるのか分かってるのか?」
「聞いて下さい。それで、学び舎へと編入し、実力で黙らせます」
「学び舎に、、?」
僕の答えは、あまりにも馬鹿げていた。今の陣営の位を学び舎にまで下げてしまう事。でも、今の自分には、自信しか無かった。
「脱退したから、再度陣営には戻れない。そう言うルール、何処にもありませんよね?」
「クライネ、お前面白いな。陣営に戻るとは、どう言う事か分かっているのか?限り無く上澄みで、死線をくぐり抜けた、数人しか来れないのだぞ?」
「それでも、戻って来ます」
僕に残された、唯一陣営に戻る方法の始まり。それが、修了課程試験。それを受ける為、僕は、茨の道を進む事に決めた。
「今までの、陣営の経験は必ず、僕を貴方の言う上澄みに連れて行ってくれます。必ず」
「そこまで言うなら面白い。クライネ・トダン、ならばその取引受け入れよう。ただ、そうだな。取引と言うならば、私からも条件を出さねばな」
ギリエルの条件は、ただ一つだけだった。
「戻って来れなかった時の話をしよう。その時は、シャンディ、お前は、この子を認め、信じているのだろう?」
「あ、あぁ、もちろん。信じているさ」
「それなら、お前。少しこちらに来い」
シャンディに、耳打ちをするギリエル。条件を聞いたシャンディの目が、極限まで見開く。
シャンディが離れる時の笑顔が、脳裏に焼け付く。
「でも、それで、クライネは信用が戻るんだよな?罪が消えるんだよな?」
「あぁ、もちろん、ルールは守るさ。僕は、ルールが大好きだからね」
「とんだ、悪趣味め。分かった、受け入れよう」
どう言う事を条件に、シャンディは受け入れたのだろうか。でも、彼女の顔がずっと暗いままだ。恐らく良いものでは無い事は確かだった。
「それで、クライネ。編入先の学び舎には、ちゃんとどう言う経緯で編入する事になったか、伝えておくぞ。何せ、重大な不正なのだからな。周知してもらわねば」
「それは、、話が違う、、過去の過ちを、、知らせる必要、、までは無い、、」
「アリス、君は分かってないな。本来なら、極刑まで有り得る事をしたのだぞ?それを、知らせて警告する。どこが悪いのだ」
「そんな、、クライネは、、人を守る為に、、魔術使用した訳で、、」
アリスが必死に擁護してくれる、僕も反論したい気持ちがあったが、これ以上話した所で、折れる様な相手ではなかった。
「分かるか?違反をしたのだ。ルールだ。全てはルールだ、それ以上でもそれ以下でもない」
「ギリエル、、、!!!」
シャンディも、ギリギリの所で耐えていた。いつ、感情が暴れ出すか分からない。でも、必死に押さえ込んでいた。
「それで、僕は、学び舎へ向かうのですが、どこへ向かえばよろしいでしょうか?」
「ならば、直々に私が、選んであげようでは無いか!そうだな、ミリオットはどうだ」
「ミリオット、、」
ミリオット。それは、聞いた事がある場所だった。
ジェイルが居た場所。そして、首席合格した場所。
「ギリエル、、わざとだね、、ジェイルとクライネが、、師弟関係にある事を知って、、」
「なに、たまたまだ。別に、弟子が罪を犯した事を学び舎に広めて、泥を塗るなんて狙ってないさ」
「お前!!ふざけるのもいい加減にしろ!!」
シャンディは、我慢の限界だった。クライネのみならず、ジェイルにまで飛び火させようと考えるギリエル。
抑えていた感情が、溢れ出してしまった。
「だから、たまたまだと言ってるだろ?そんな言いがかりやめてくれ。たまたま、ミリオットを選びたい気分だったんだ」
「だとしても、ジェイルを持ってくるのは、話が違うだろ!やはり、私は、お前を許す事は出来ない!」
シャンディの右手が、振り上がる。二人の間に、クライネが飛び込み静止する。
「クライネ!お前の師匠が馬鹿にされてるんだぞ!?学び舎で、ありもしない悪評を広められるんだぞ!?師匠への恩はその程度なのかよ!」
「シャンディさん。貴方が、罪を被る必要は無いです。こんな奴、殴った所で何も解決しません」
「でも!!!」
「だから、実力で黙らせます。そして、シャンディさんの元に、必ず帰ってきます」
その言葉を聞いたシャンディは、右手を下げてくれた。
その手は、僕の肩へと移る。
「なぁ、私、信じていいんだよな?」
「もちろんです」
「私が、お前に言い続けてきた信じてるは、間違えてないよな」
「もちろんです」
「元気な姿で、また、帰ってきてくれるよな?」
「もちろんです」
シャンディは、泣いていた。とても静かに泣いていた。
そして、僕を抱きしめた。
「信じてるぞ」
「信じていて下さい。さぁ、ギリエルさん。これで、良いですか」
「良いだろう!では、また、卒業課程試験で。良い知らせを待っているぞ」
「ルールは絶対に、ですからね」
更新です。難しすぎます。




