その29:手形
目を見開くシャンディの手には、クライネのバッグが握られていた。
「お前、、手形は…?」
あの時、シャンディから貰った手形、所持しないままの魔術師用は、重い罪に問われる。
「そんなはずは!僕はここを出る前に、確かにバッグの中に!」
慌てて、シャンディの元へ駆け寄り、バッグの中を見るが、そこにはセリアスから貰ったお守りしか入っていなかった。
「クライネ、、本当に、、申し訳ないけど、、ルールは、、ルール、、私に着いてきて、、」
「おい!クライネは、セルスファーを助けたんだぞ!?もし、居なかったら壊滅状態も有り得た!命の前でそんな手形のルールもあるか!」
「私も、、見逃したい、、でも、、」
鎖の音をたて、アリスが取り出したのは、クライネの手形だった。
シャンディが治療室に居た頃、ベッドの脇に置かれたままだったらしい。
「もう、、中央部に、、バレてる、、ここだけの秘密には、、出来ない、、」
「そんな、、っ」
いくら、陣営長が固まった所で中央部には、強く言う事など出来ない。アリスの行動も、仕方ない事だったのだ。
「だから、、ごめん、、クライネ、、守ってあげれなくて、、」
「でもよ!!」
引き留めようと、クライネの腕を掴むシャンディを、払い除けるアリス。
「規則なの!!!!!」
身体を震わせ、声を荒らげるアリス。今まで聞いた事のない声量。シャンディは、その声に唇を噛み締める思いで、下を向いた。
「行こう、、クライネ、、多少なら、、守るよ、、」
「分かりました。でも、少し良いですか?」
僕は、見届ける皆の方へ身体を向き直し、深々を頭を下げる。
「ありがとうございました」
それだけを言い残し、アリスへと着いていくのであった。
アリスへ中央部まで着いていくと、部屋には一人の男性が椅子に座っていた。
「あぁ、アリス来てくれたか。で、その子か?」
「はい、、ギリエルさん、、連れてきました、、」
「さて、クライネ、と言う名前だよな。君は手形の所持を怠った。それは確かか?」
「僕は、入れたはずなんです!確かに、、!このバッグの中へ…!」
「でも、それは憶測だろう?それとも何だ、誰かがバッグから抜き取ったとでも言うのか」
「それは、、」
入れた気はする、確かに治療室から飛び出る時、確かにこの手で掴んで、バッグへ入れたはずだった。
僕が、バッグから手形を出していたのには、訳があった。
「見て下さい、あの時の頂いた手形も味が出てきました」
「そうだな、訓練を重ねていく内に、多少の汚れも着くものだ。だが、それは今までの経験の形にもなるさ」
そう、僕はシャンディが目を覚まし、過去話を懐かしんでいたのだ。その時、僕は脇に置いたままだった。
セルスファーの知らせを受け、置き忘れたのかもしれない。
「申し遅れた。私は、ギリエル・アンダスシュタイン。中央部から、領内の秩序を守る、言わば閻魔といった所か。それで、もう言い分は無いか?」
言い返そうにも、確たる自信はなかった。もしかしたら、置き忘れたかもしれないし、ちゃんと入れていたかもしれない。ただ、現に手形は、バッグの外にある。
「ない、、です、、」
「それなら、もう分かっているな?手形を貰った時に、教えてもらったはずだ。未所持のままの魔術使用は、極刑になる場合もあると」
「はい。聞いています」
手形と受け取った時、シャンディからその話は聞いている。
「でも、、!ギリエルさん、、クライネは、、緊急を要する命を救いに、、一刻を争う中、、飛び出して行った、、だから、、」
「関係ない。緊急ならば何をしても良いのか?緊急ならば、秩序を乱しても良いと言うのか?」
「今回の話は、、秩序とか、、そういう話では無いと、、思ってます、、命です、、」
アリスも、僕を必死にかばおうと説得してくれたが、予め決められた事を、破ったのは事実。そこは、変えることは出来ない。
「ダメだ。諦めろ。クライネ、君には、不法使用の罪がある。処分については、また後日、順を追って伝える。だが、今回の件は、重大な不正だ。覚悟して貰おう」
「はい、、」
従うしか無かった。反論の余地が無い。僕とアリスは、部屋を後にし、この事をフェイン陣営、セルスファー陣営に伝えた。
「そんなのおかしいだろ!クライネは、命を賭けてセルスファー陣営を救ったんだぜ?それで、処刑も視野だぁ!?ちょっと中央部に抗議してくる!」
「待って!貴方だけで、何が変わるってのよ!」
「やらないよりはマシだろ!?こんなにも領に貢献してるってのによ!」
取り乱すフロストティを、フェインが全力で止める。
押さえ付けても暴れてしまう為、シャンディも止めに入る。
「私も後で、直々に意見を伝える。その時にでも、着いてきてくれ。だから、今は変に騒ぎを立てない方がいい」
「ちっ、分かったよ!でもよ!シャンディもちゃんと言えよ?もちろん、他も来るよな?そうだよな?」
出揃った答えは、皆、一致していた。
『もちろん』
だが、どう足掻いても、忘れた事実が付きまとう。
処罰が軽くなったとしても、魔術の使用を停められてしまうかもしれない。
「クライネ、私も力になる」
「エレット、、すみません、陣営の事情も辛いと言うのに、巻き込んでしまって…」
「いえ、絶対に私と皆で、貴方を助けます。絶対に」
下を向く僕の手を両手で掴み、顔に近付ける。
その手は、エレットの額に当たる。
「皆さんも、力を貸して下さい。お願いします」
皆の前で、エレットは頭を下げる。そんなエレットの頭を、ジェイルが撫でる。
「当たり前じゃないか。私は力になるよ」
彼女らは、僕の為に、行動を開始してくれた。
シャンディは、フロストティとフェインを連れて、中央部へと向かう。
「私は、被害の報告をして、彼らが来なかったら壊滅していたかもしれないと言う事を、伝えてくる。クライネ君、あの時言った恩を絶対に返すからね。少しの辛抱だ」
「セルスファーさん、、ありがとうございます…」
「良いんだ。そもそも私の指揮が良ければ、こんな事にはならなかったんだ。私にも、重い責任がある」
そう言い残すと、彼もまた、中央部へと向かっていった。僕は、時間が過ぎるのを待つしか無かった。
「兵舎、、戻るか…」
外も暗くなる頃、シャンディが僕の部屋へと、フロストティと共に歩いて来た。
「お二人とも、帰ってきたんですね。おかえりなさい。すみません、僕の為に、、」
「すまん、、クライネ、、私も、中央部に直々に話をしたが、状況をひっくり返す事は、出来なかった。すまない、、本当に、、すまない…」
シャンディが、涙を流しながら僕に、謝罪してきた。
「それがよ、極刑は無いみたいでよ。ただ、魔術剥奪が一番ありえるだとさ。有り得ないよな本当に。ごめん」
フロストティまでも、謝罪の言葉をかける。
「良いんです。死なないだけマシです」
言葉を絞り出して出てきたのは、これだけだった。これが限界だった。
「明日、処分を伝えるみたいだ。私達は、同行出来ない」
「分かりました、少し一人になりたいです」
「そ、 そうか、、どうか、思い詰めないでくれ」
シャンディは、僕の言葉に素直に応じ、部屋を出ていった。明日。明日に、僕の未来がかかっている。
「この時間のまま、止まらないかな」
見つめ続ける僕の視界は、ゆっくりと歪んでいく、そんな夜を過ごした。
更新しました。難しいですが何とか書き進めています。難しいです。




