その25:過去と助けを求める魔道具
目が覚めると、ベッドにはシャンディ以外居なくなっていた。
身体を起こし、辺りを見渡すと、フェインが自分のベッドを整理していた。
「おはようございます。フェインさん」
「あっ、起きた?クライネ君。おはよ」
ニコニコしながら、挨拶を返してくれる。まだ、シャンディは起きる気配すらない。
病み上がりで、相当体力を消耗していたのだろう。このまま、寝かしておこう。
「他の皆さんは?」
「みーんな、仕事熱心だから戻っちゃった。もっとゆっくりしてても良いのに、、」
「そう言えばなんですけど、シャンディさんの陣営の方どうしたんですか?」
よくよく考えると、シャンディとずっと一緒に居たものの、陣営の人と会った事すらない。
五引を倒す為に、即席でフェイン陣営と一緒に組んだが、どう言う事だろうか。
「あ、聞いちゃう?それ」
「いや、見舞いも来ないなんて、何をしてるんだろうかなって思っちゃいまして、、」
「彼女、元は投擲手って言ってたでしょ?それで仲間を失ったって」
「聞いた事あります、それで剣士に無理言って変えてもらったんですよね」
「そ、それで陣営長になって、上からは仲間を取れって時期が来る度に、陣営に人が振り分けられるけど、シャンディはずっと断ってるのよ」
と言う事は、シャンディ陣営はずっと一人で運営していた事になる、確かに面倒を見るのは苦手と言っていたが、でも、少し違和感があった。
「あれ?でも以前、他の陣営の人は休暇だーとかなんとか言ってませんでした?」
「そんな事言ってたかしら?すっかり忘れていたわ。あー、、いや、正確に言えば一人だけ所属って良いのかしら…」
「仮の人でも、居るんですか?」
「うーん、、これ言っても良いのかしら、、説明が難しいのよ…」
口ごもって、フェインは何も言わなくなってしまった。そんな深い事情があるのだろうか。
「そんな、無理に言わなくて良いですよ。そういう人が居るって事なんですよね」
「所属してたが正しい、、かな、、貴方の父親よ」
「は?」
一瞬、何を言ったか理解出来ずにいたが、確かに自分の父親の名前を言っていた。
「いや、そうなるのも分かる。分かるわ。確か中央領に来た時、シャンディの事を、兵長だとかなんとか言ってなかった?」
「そう言えば、、言ってました…」
「頑なに、名前言ってなかったでしょ」
「確かに、、」
中央領に付き添いでジーアスが来てくれた時、やけに、シャンディの事を不愉快そうに見ていたかもしれない。
「ジーアスは、とっても仲が悪かったのよ、シャンディと。それで、彼の子って聞いて、センスはあるけど引き抜くだけで、所属させるつもりはなかったの。彼女」
「なんで、もっと早く言ってくれなかったんですか、、」
「え、だって、そんなの聞いたらクライネ君、絶対に気を遣うでしょ。ジーアスが原因で、陣営に人を入れなくなっただなんて」
一応、シャンディが陣営の解消届をジーアスに送っていないが為に、所属は継続している、と言う事らしい。何かそれを聞くと、あの時の付き添いも、自分から立候補したのも頷ける。
「でも、それならなんで父さんは、僕を陣営に送ったんでしょうか?わざわざ嫌いな人が居る場所へ、自分の子供を送るだなんて、、」
「どうやって、こっちに来るって言ったの?」
「自分の事を、もっと知る為って言って来ましたよ?」
「それじゃない?自分の事情より、我が子の成長を、止める様な親は居ないわ。知りたいなら、背中を押す、そういう人だからね、ジーアスは」
とんでもない事を聞いてしまったが、これはシャンディの為にも、フェインとの内緒にしておこう。
多分、これならジーアスの名前を出すだけで、ややこしくなってしまうだろう。
「それだから、シャンディの事、大事にしてね?」
「いや、言い方どうにかならなかったんですか」
「ふふ、期待してるんだから、彼女、クライネ君の事」
笑うフェイン、僕もそれにつられて笑っていると、息が切れたジェイルが、医療室に飛び込んできた。
「はぁ、、っ、、はぁ、、っ、、皆は、、?」
「どうしたのよ、ジェイル、服がよれよれになってるわ。他の子達は、仕事をする為に元の持ち場へ戻ったわ」
「そうか、、!じゃぁ、今ここに居る方達だけ聞いて下さい、、!」
それからジェイルが言った事は、僕の思考を更に止めてしまった。
「セルスファー陣営が敵の襲撃を受けて、半壊状態、撤退中だって、、」
「え、、」
セルスファー陣営と言ったら、エレットが所属している所では無かっただろうか。
その話を聞いた時、信じたくなかった。でも、現実は無常だった。
「それで、救難信号をトール領で受信。緊急事態を発令したの」
「ジェイル、それは、いつの話?」
「私の耳に入ったのは、十四分前です。だから、中央部は彼女達の救援及び、救出作戦を私達に出してる」
「敵の規模は?種族は?」
「今回は、人型じゃないみたい。五引も居ないけど、何より数と耐久力が高い報告を受けてる」
エレットが、押されていると言う事は、相当数いる事になる。僕と同等なら、かなりの範囲を吹き飛ばせるはずだ。
「考えてる暇は無いわ。私達は、これよりセルスファー陣営の救出に向かいます!」
「クライネ君、貴方はシャンディの事を任せました。今回の任務は、私、フェイン陣営で遂行する事にします」
正直、行きたい。エレットが、セルスファー陣営が助けを求めているのだ。僕は、これ以上仲間を失いたくない。その為にも、戦力として一人でも多くいた方が良いだろう。
「だから、アリスさん達と領内防衛、頼みましたよ、、?」
「分かりました。命令なら仕方ないです、、」
「大丈夫、今度はへましないわ。皆をクライネ君の分も、守ってくるから!」
細い腕を出して、力こぶを見せつけるフェイン。僕を心配させない為に、全力で空気を崩すまいとしている。
「こんな事してる場合じゃない。行くわよ!ジェイル皆を集めて、準備を!」
「はい!」
そうして、二人は部屋を飛び出して行った。取り残された僕と、シャンディ。
静かな部屋だ。そう思い、ふと、シャンディの寝ていたベッドに目を向ける。すると、そこには、起きて上半身を起こすシャンディが居た。
「シャンディさん!ダメですよ無理しちゃ!」
「大丈夫だ、それよりも何で行かなかったんだ。お前は、人を守りたいんだろ?何より、お前の身体の謎を解明出来るかもしれない、大切な人を失うかもしれないんだ。私達も、行くぞ、、」
脚をベッドから降ろすと、立ち上がろうとするシャンディ。しかし、まだ、力を入れる事が出来ないのだろうか。シャンディは、崩れ落ちてしまう。
「シャンディさん!だから言ってるでしょう、、!シャンディさんは、今、自己治癒の途中なんです、、!」
手を差し伸べようと、シャンディの前に手を差し出すと、その手をシャンディは払いのける。
「馬鹿か!!!!今すぐ!!!あいつらを追いかけろ!!!!セルスファー陣営は、半壊でもう既に戦力にならないと考えて良い!!そこに、フェイン達が入った所で、治療する為に人が割かれて、肝心な窮地を脱する事が出来ない!!」
シャンディは、直感で戦力が不足している事を、見抜いていた。自己治癒が追い付かない、瀕死に近い負傷者を、見ながらの撤退はとても難易度が高い。そこを危険視していた。
「私も、後で行く。もうそろそろ動けそうなんだ、だから、頼むクライネ。どうか、彼女達を救ってくれ、、!!行ってこい!!!私の方から、機動兵の方に、連絡を入れておくから脚の心配はするな、大丈夫だ」
シャンディは、涙ぐんでいた。僕は、彼女の期待に応えなくてはいけない。いや、自分もそう思っていた。助けなくては、と。
「分かりました、、!シャンディさんどうか、ご無理はしない様に」
僕は、フェイン達の後を追いかける様に、治療室から飛び出して行った。準備を終えて、領外の門に着くと、シャンディが派遣していた機動兵が待機していた。だがもう既に、フェイン達が出発してから一時間は経過していた。
「すみません、出来るだけ、可能な限り飛ばして下さい!お願いします!」
僕は、そうしてフェインの背中を追いかけた。
更新です。難しい難しい。本当に難しい。




