その24:来たる時
「やっぱり、、ここに、、居ましたか、、」
アリスが治療室へ入ってくる。そのまま、僕の席の隣に椅子を持ってきて座ったかと思うと、椅子を引きずって近付いてきた。
「アリスさん、どうかしたんですか?」
「いや、、何か、、なんとなくはダメ、、?」
「そんなダメとか、無いですけど、特に、面白い事なんてないですよ?」
「ん、、良いの、、」
何となくで、この治療室へ来たのだろうか。会話も無いまま、時間だけが流れていく。
窓から入ってくる、風が気持ちいい。その時だった。
「今、、指、、動いた、、!」
「え!?」
「見間違いじゃない、、!絶対、、動いた、、!」
「シャンディさん!シャンディさん!!聞こえますか!?すみませんアリスさん!皆さんを連れて来て下さい!!」
「任された、、待ってて、、」
確かに、呼びかけに反応する様に、指が動いている。僕は、必死にシャンディの名前を繰り返し呼ぶ。
半時間程だろうか、明らかに、動く感覚も短くなっていた。
「クライネ、、!ごめん、、時間かかった、、皆呼んできた、、」
「ありがとうございます!皆さん!シャンディさんが、声に反応してくれるようになったんです!」
シャンディの目が、ゆっくりと開く。まだ、焦点が定まらないのだろうか、何回も瞬きをしている。
「シャンディ!!!」
フロストティが、横になっているシャンディを、抱きしめる。
フェイン陣営の皆も、心配そうにベッドを囲む。
「あ、、、こ、、、」
遂にその時が来た、シャンディが声を発したのだ。久しく聞いていなかったシャンディの声、長く横になっていた為、弱弱しくなっていたが、確かに、彼女の声だった。
「シャンディさん!僕です!!クライネです!」
「あぁ、、分かる、、、」
言葉を返してくれたシャンディに、僕は思わず泣いてしまう。
「そうです、、僕です、、クライネです、、貴方を待っていました、、おかえりなさい、、」
「私も居るぞ、シャンディ。お帰り」
ジェイルは、泣かない様に言葉を短く区切り、身体を震わせていた。
彼女なりの、思いやりだと思う。
「そうか、、皆、、居てくれたのか、、」
まだ、言い切るまで時間を要するものの、少しずつ会話も出来る様になってきた。
こうなると、自己治癒も無事に発動して、快復まで時間の問題だろう。
「シャンディ、何をしているんですか。本当に、本当に心配したんですから、、」
あのフェインまで、声を震わせ、頬に涙を伝わせる。
「一旦、シャンディさんがこのまま快復するまで、見守るだけにしましょう」
「そうだね、、シャンディ、、気を遣わず、、自分の事を、、今は考えて、、」
そのまま僕達は、三時間程部屋の中で、彼女の快復を待ち望んだ。
「クライネ、、いや、今は、誰でも良い。私の身体を起こしてくれないだろうか、、」
シャンディが遂に、細い声だったが話す事が出来るようになった。
「私が!クライネ君、ちょっと手伝って!」
「は、はい!!僕がこっち持つので!」
フェインと僕で、シャンディの上半身を起こしてあげた。体重も軽くなっていて、すんなりと起こす事が出来た。身体を起こすと、シャンディは深呼吸をしていた。
「ありがとう。私も良く覚えていないが、ここに居ると言う事は、何かあったのだろう、、すまない」
「領外に続く道で、麻痺状態のシャンディさんが居たんですよ。それで、それが呪いレベルで体内を犯していて、今まで眠り続けていたんですよ」
「ほら、シャンディ。君は今、自己治癒能力が著しく欠乏している、ヘレイ草を溶いたお茶だ」
「あぁ、すまない。ありがとう」
「謝るんじゃないよ。当たり前の事さ」
ジェイルから、茶を受け取ると、ゆっくりと飲み干していく。これで、基礎値が上がっていくだろう。
それにしても、麻痺状態になる前の記憶が曖昧なのだろうか。その点もゆっくりと戻っていく事を期待しよう。
「そうだ、シャンディごめんね。折角皆が居る事だし、私ちょっと情報を掴んできたの共有していい?」
「分かった、、シャンディは、、そのまま茶を飲んで、、自己回復に努めて、、」
「それで、情報と言うのは何なんですか?フロストティさん」
フロストティは、ドラグから教えてもらった情報、フィレアス領掲示板の張り紙の件、グェーニェがその日は巡回担当じゃなかった事を、皆に伝える。
「そんな事があったんですね、、でも、そのドラグって人が言うには、その日グェーニェと呑んでいて、、それが正しければ、リストから除外しても良さそうですね」
フェインは、そう言うと監視リストから、グェーニェの名前を外した。その他にも、その日のアリバイがあった二人を外し、リストに残されたのは二人のみとなった。
「ちょっと安心しました。グェーニェさんを疑い続けるのも、少し疲れていたんです。昔から、見ていてくれていた人がもしかしたら、領を陥れようとしていると考えるって言うのは」
「キーアも、安心しているだろうね」
ジェイルが、キーアの名前を出すと、皆話さなくなってしまった。
「あ、あれ、、?そんなつもり無かったけどな、、」
「いえ、確かに、確かにそうですね。私も、そう思いますよ」
フェインも、その気持ちに応える。確かに、キーアも自分の友人が、そう思われ続けるのも望んでいないだろう。
「なら、これからは、この二人を皆さんで監視していきましょう。絶対に、これ以上領内で悪事は許しません!」
「はは、、フェイン、私が眠っていた間も解決に奔走してくれていたのか、ありがとうな」
「シャンディ!当り前よ!本当に貴方が居ない間、領内大変だったんですからね!」
「もう、今の私は感謝する事しか出来ないな。皆、本当にありがとう。そして、クライネ私を救ってくれた。君は、知らないうちに私の英雄になってしまったな」
微笑みかけるシャンディは、どこか悲しさまでも感じた。
「ジェイル達が持ってきてくれた茶のお陰で、もうずいぶん動ける様になってきた。ほら、見てくれ」
シャンディが腕を上下に振ったり、上半身を横に揺らしたりしていた。確かに、これなら快復までもそうかからないだろう。
「シャンディさん、少しだけ立ってみますか?」
「そうだな、すまないがちょっと手伝ってくれないか?」
「はい、立つ時は、気を付けて下さいね、、?」
「分かってるさ。さ、よろしく頼む」
僕と身長の近い、アリスがシャンディの両脇を担いで立たせるように、手を貸した。
シャンディは、ゆっくりと立ち上がる。
「二人とも、一回手を放してくれないか?私自身で歩いてみる」
「分かった、、でも、、もしもの時の為に、、横にだけ立たせて、、」
シャンディは、直立した状態で二人の手を離すと、歩みを進めようとする。
しかし、一歩踏み込んだ時点で膝から、崩れ落ちてしまう。ギリギリの所で、二人で再び抱え直す。
「もう少し、、歩くまでは、、三日くらいかかりそうかな、、」
「みたいだな、自分でも歩ける練習をしておくとしよう」
「その時は、呼んでください!いつでもお供しますからね!」
「お、クライネが付いてくれるなら安心だな」
少しずつ、シャンディに笑顔が戻ってきた。本当に嬉しかった、もしかしたら、目を覚まさない世界線があったかもしれない。想像するだけで恐ろしかった。
気付けば、外は暗くなっていた。目を覚ましたのは、まだ日が照っていたのと言うのに、時間と言う物は、私達に許可も無く進んでいく。
「なら、今日は皆さんでここで寝るとしましょう。多分まだ、業務が残ってる方も居ると思います。でも、今日の所は何も考えなくて大丈夫です。明日は、私が各方面に話をしておきますから」
「じゃぁ、、私、、このベッドが良い、、」
各々、寝る場所を決める。ベッドを寄せて横一列で寝る事にした。僕の横には、シャンディとフェインが寝る事になった。
「ふふ、人と寝るなんていつぶりかしらね。もっと詰めて、クライン君!」
「ちょ、ちょっと!フェインさん!」
「確かにな、皆、寄ってくれて構わないぞ。こういう日も良い。いや、今日はこうしていたい」
僕達、六人一室で、眠る日が来るなんて。でもどこか、温かい空間。明日は、目覚めが良さそうだ。
更新です。難しい。難しいです。20話くらい書けました。普段から見て頂ける方本当にありがとうございます。




