その21:進展
服を捲ると、エレットの背中には、僕とは比にならない、広い傷痕があった。
彼女は、何も話さず、ただただ背中を丸める姿勢を取る。
「噂には、、聞いてたけど、、ここまでの傷痕、、」
「そろそろ、良いですか?服、降ろして下さい」
「あっ、あぁ、すまない」
ジェイルが、少し慌てたように手を放す。
「で、貴方の傷はどこにあるの?」
「僕は、お腹に傷痕があります。直接見せた方が、早いですよね」
僕は服を捲り、腹部の傷痕を見せる。
異性に、服を捲った姿を見せるのは、水浴びの件もあったし、もう慣れたものではあったが、これまた違う緊張感がある。
すると、エレットが歩み寄ってきた。
「ふーん、、触っても良い?」
「さっっ、触るんですか!?」
見せるだけだと思っていた。まさかの提案で、僕も動揺してしまう。
「ダメだった?傷痕持ちなんて、初めて出会ったもの。気にならない方が、損よ」
「わ、、分かりました。少しだけなら、、」
彼女の圧に押されてしまった。彼女は、手を伸ばすと僕の腹部に触れる。冷たい。
「ひょっ、、」
「声出さないでよ。やっぱり、傷痕は何かを修復した痕で間違いなさそうね」
「でも、エレットさんは、生まれた時から傷痕があったんですよね?」
「生まれた時から、そうね。傷痕を抱えて、生まれてきたみたい。良い思いはしなかったわ」
彼女は、傷痕を触り終えると、溜息をついて僕から離れる。
「はぁ。貴方さ、同い年よ。言葉遣いどうにかしませんか?」
「え?」
「だから、その、さん呼び。何か変な感じなの。エレットって呼んで。私も、クライネって言うから」
「わ、分かりました、、エレット、、」
名前を呼ばれると、少し笑ってくれたような気がした。傷痕に関して、聞きたい事は沢山ある。
だが、急ぎ過ぎても良い事は無い。僕は、ゆっくりと彼女と関わろうと決めた。
「私は、物資補給の手伝いをしに行かなきゃ。また、どこかで会いましょう。エレット」
「はい、またどこかで」
手を振り、見送る。彼女は、戸を開け戻って行ったのだった。
彼女は、前世の記憶は持っていない。それならば、同じ世界から来た可能性は、消えたのだろうか。
(いや、まだ決まったわけじゃない。エレットが思い出せないだけの事もある)
もし、前世の記憶があればお互いに、どうしてこの傷痕を持っているのか、何の為の傷痕なのかが分かるかもしれない。僕は、前世で後悔ばかりしてきた。この傷痕で、何かが変わるのであれば。
「行ってしまいましたね、エレット」
「エレット、、同い年だったんだね、、確かに、、保護した時から遡ったら、、同じかも、、」
「でも、今回の出会いは、良いものになったかもしれません。帰ってきたら、ゆっくりお話ししたいです」
僕は、背伸びをするとシャンディの傍に戻り、麻痺の治療を再開した。
「それにしても、麻痺状態はどうだい?まだ、出し切ってない感覚はあるかい?」
「まだ、吸い出せそうですね。でも、感覚なので何とも言えませんが、治っていく感覚はあります」
「頼んだよ、、クライネ、、頑張ってね、、」
アリスが、腕を上げて僕を応援してくれる。相変わらず、細い腕で本当にこの腕で、武術で戦ってるのかと疑ってしまう。
「私達は行くからさ、また、何か進展があったら呼んで欲しい」
「分かりました。こっちは任せて下さい」
ジェイルとアリスも、治療室を後にする。部屋には、僕とシャンディだけが残された。
「シャンディさん、いつになったら目を覚ましてくれるんですか?」
聞こえないのは分かってはいるが、僕は、いつも話しかけていた。いつか、急に返してくれる気がしたから。
「みーんな、シャンディさんの快復を祈ってるんですよ。待ってくれているんですよ。いつでも、戻ってきてくださいね」
治療室に、僕の話し声が響く。開けた窓からの風が涼しい。
今日の夜も、過ごしやすい日になりそうだ。
次の日、僕は、いつもの様に治療室へ向かっていた。その途中、気付けば目の前にフェインが立ち塞がっていた。
「クライネ君、貴方にお話があるの。キーアの件についてです」
あの日、何があったのか進展があったと言い、僕は、フェインの部屋へと向かう。
フェインの歩く速さが、いつもより早い。早く何か伝えたいようだ。
「さ、クライネ君入って入って」
「失礼します、、」
扉を僕が閉めると、彼女は椅子を引いて僕を待っていた。
会釈しながら座る。僕を座らせると、自分も椅子へと座った。
「それで、クライネ君。あの日の監視兵のリスト、フロストティと私で監視しててね」
「何か、ありましたか?」
「決定的な物は無かったけど、一つだけ気になる事があったの」
一枚の紙をフェインは取り出す。そこには、リストに書いてあった人の、行動を細かく書き記したものだった。
「これを見て、監視兵の立ち位置」
紙には、通常時と監視した時の立ち位置を比較した物が書いてあった。
「これって、、」
「あの日から、監視兵の立ち位置が、奥になってるの」
「奥になると、何かあるんですか?」
「監視する範囲が、一人当たりで広くなるでしょ?そうなると、見落としが出やすい」
あの日の事故は、監視兵の見落としの可能性が出て来た。
フェインが立ち上がると、僕に近寄ってくる。
「そしてね、お互いの監視が薄くなるから、ここからは、憶測でしかないけど、、」
「単独で動きやすくなるって事ですね」
「そう、そうなると、外部に繋がってる人が居たっておかしくない」
フェインの表情は、曇っていた。監視兵の中で、自分たちの領を売ってる人が居る。
その可能性があるだけで、安心して暮らせなくなる。
もしかしたら、僕達の一番の敵は身内なのかもしれない。
更新です。難しいです。
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