その12:翻弄
その後は、もう何も会話何て、起こらなかった。機動兵が居なくなった今、フロストティが馬車の運転を変わってくれた。いつもより、荷台が揺れる。
「フェインさん、目を覚まさないな、、」
傷は確かに癒え、命に別状などなかった。ただ、今は日々の疲労か、はたまたまだダメージが蓄積しているのか、目を覚ます事は無かった。
五引率いる本陣は、ようやく更新された魔道具によるとこちらの状況を掴み取ったのか、進軍が遅くなり猶予として4日程あるとの事だった。
前の事があるので信頼性に欠ける部分もあるが、今は信用するしかない。
「僕は、どうすれば良かったんだろう、、」
小さく独り言を呟く。
もう今の精神状態では、まともに戦えないと僕とジェイルは判断し、一度領の近くまで撤退する判断をした。これ以上、人を失ってしまう訳にもいかないからだった。
「ジェイルさん、あの、僕一つ気になってる事があって」
「ん?どうしたんだい?」
ジェイルは、馬車を止める。
僕は、あの前陣防衛から少し引っかかる事があった。
「僕、ただの思い過ごしだとは思うのですが、あまりにもこちらの行動が筒抜けだった気がするんです」
「まぁ、水浴びしに高地まで言った途端、急に前陣が進んできたもんね、でも、それは気のせいだよ」
僕達が、進路を切り替えたその時間を、狙い撃ちされてる気がしてならなかったからだ。
結果、十分な準備が出来なかったと言う原因も、少なからず関係していると思っている。
「良いんです、気のせいでも。でも、魔道具に情報が更新されなかったのが問題なんです」
情報については、監視兵が常に周辺地域を警戒している。あの軍団が近づいていると言う事を見過ごす訳がない。
「ただの憶測でしかないんですが」
「うん」
「監視兵の中に、わざと情報を中央部に流さなかった人、もしくは情報を受け取ったにも関わらず、情報をあえて僕達に流さなかった、、とか」
そうなると、領の信用問題に関わる、人を守るべき存在がその義務を果たしていない事になる。
「流石にそれは無いんじゃないかな、、だってそんな事して、その人にどう言う恩恵があるのさ」
そう、そこだった。内部反乱を起こした所で、結局は魔物に制圧され自分までもリスクを負ってしまう。
あまりにも、理由がなさすぎるのだ。僕の思い過ごしなのだろうか。
「一旦、領へ戻ろう。そして、シャンディを少し頼みたい」
あれから、シャンディは何も喋っていない下にうつむいて、床ばかり見ている。
キーアの亡骸に関しては、この世界は、亡くなった際に、その場で炎で焼き、欠片骨を一つだけ持って残りを領の外に置いていく、と言った文化らしく、それに則って骨はシャンディが膝の上に置いていた。
「とは言っても何が出来るのかな僕、、」
シャンディにかける言葉すら思いつかないのに、任されたとて何も出来ない。
「話しかけなくて良い、そばに居てあげてくれ」
そう言うと、ジェイルはまた馬車を進め出す。
領の前まで帰ってきた、足元すらおぼつかないシャンディを、ジェイルと一緒に降ろす。
「そうか、戻ってきたか」
ようやく、シャンディが口を開いてくれた。右手には、キーアの骨を包んだ布を大事に握っていた。
「今は、家へ戻りましょう。僕は、シャンディさんが心配なんです」
「すまんな、今は提案に従おうか」
フロストティとジェイルは、一緒に戻っていった。また、落ち着いた時落ち合おうと約束した。
「シャンディさん、聞いてるだけで大丈夫です」
「、、、」
「僕、シャンディさんの事を勘違いしてました。貴方は本当に人の上に立つべき人だなって」
「そうか。」
あの時、僕を信用してキーアの元に向かった事、それにどれだけ勇気付けられたか、シャンディは頷くだけだったが、とにかく述べられる感謝はシャンディに伝えた。
一方的ではあったが、僕はシャンディの家まで話しかけ続けた。
「家に着きました、とにかく今日は美味しいものでも食べましょう、話をする時は美味しいものを、ですよね」
僕は、シャンディに微笑みかける。僕の行動次第では、シャンディの身に危険があるかもしれない。
慎重に、慎重に事を進めようと心掛ける。
「そうだな、美味しいものを食べようか、確か、ここに、、」
鎧をドアのそばに置くと、食糧庫へと向かうシャンディ、帰ってくるその手にはあの日食べた時と同じ、七面鳥を抱えていた。
「今からだと、ちょっと時間がかかるが大丈夫か?」
「えぇ、お手伝い出来る事ならなんなりと」
僕達は、一緒に一匹の七面鳥を焼き上げた。あの日食べた七面鳥も、シャンディが一人で焼き上げてくれていたのだろうか。
「さ、食べようか。せっかくの食事がもったいない」
「はい、そうしましょう」
静かな部屋で二人、食卓を囲んだ。食事中、喋る事は無かった。
「美味しかったですね」
「そうか」
交わした言葉はそれだけだった、でもその時だけ、シャンディの口角は少しだけ上がってるように見えた。僕が想像した最悪のシナリオだけは、回避出来た様だ。本当に良かった。
人の死は、時に人を狂わせる。
「今は、とにかく身体を休めて下さい。洗い物は僕がやってますから」
「すまんな、ありがとう」
「謝らないでください、当たり前の事ですから」
シャンディは、身体をベッドに投げ捨てる様に飛び込み、そのまま眠りについた。
洗い物をしている最中に、家がノックされたので出てみると、そこにはジェイルが立っていた。
心配だから、と来てくれたのだと言う。
「よく、寝てますね。あれなら、今晩は大丈夫そうですね。良かったです」
「あれから、フロストティさんは、、?」
「着いた途端に、眠ってしまいました。馬車の運転もあった事ですし、お疲れだったのでしょう」
お互いに、大丈夫そうだと確認出来て一安心だ。それはそうと、僕はあの時の会話を掘り返す。
「ジェイルさん、やっぱり僕、情報の更新が無い事が気になって仕方ないんです」
「一旦その事については、明日の朝すぐ私の方でトール領の方に確認してみるね」
「ありがとうございます。もし、前陣の侵攻が来ている情報自体が来てなかったとしたら、、」
「それは、考えたくないね」
そうなると、トール領ではなく、監視兵の中に敵が居るかもしれない、と言う事を示唆している事になる。
ただ、もしそうだったとしても、確証が持てない直接その場を抑えないと、責任を問えない。
「とにかく、今日の所は私達も寝ましょう、また明日から、僕達も動きましょう」
シャンディは、良く眠っている。枕元には、キーアの包み布を置いたまま、眠っていた。
五引も4日後には、到着する。それまでには、この魔道具に情報が更新されなかった、と言う謎の糸口を見つけたい。
僕達は、見えない敵に翻弄されているのかもしれない。
今日も難しいですね。最近の深夜帯の更新には慣れてきました。




