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なろう!! 小説家に!! ~探索者にはなれないコンサル会社員、現役探索者を監修にして投稿サイトを攻略したら本当に受賞しました~  作者: 小狐


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6/9

第六話 ランキングに入ってからが本番である

 『会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった』


 投稿初日。


 19時ちょうどに第一話を公開。

 19時10分に第二話。

 19時20分に第三話。


 投稿条件は、これまでの作品とそろえた。


 同じ曜日、同じ時間帯、同じ三話投稿。


 一話あたりの文字数も、大きくは変わらない。

 違うのは、作品の入口と中身だけだ。


 「そろえたって言い方、本当に実験みたいで嫌なんすけど」


 水城ミナは、俺の隣で管理画面をのぞき込んでいた。


 「比較するなら、条件を変えすぎない方がいい」


 「小説って、ビーカーに入れて混ぜるものじゃないっすよ?」


 「しかし、結果を検証することはできる」


 「そのうち読者をA群とB群に分けそうっすね」


 「できるなら試したい」


 「やめろっす!」


 第一話の公開から、1分が経った。

 アクセス数は4。


 2分後に7。

 5分後には12。


 過去作と比べれば、最初から動きが速い。


 「来てる」


 「まだ12人っすよ」


 「過去作の同時刻は3人だった」


 「うち2人、私と橘さんだったんすよね?」


 「今回は違う」


 「なんで分かるんすか?」


 「君はまだ作品ページを開いていない」


 「怖いっす! そこまで把握されてるんすか!?」


 19時10分。

 第二話を公開した。


 第一話のアクセスは、この時点で24。

 第二話もすぐに読まれ始める。


 19時20分。

 第三話が公開された。


 第一話、41。

 第二話、32。

 第三話、17。


 数字は小さい。

 それでも、これまでとは動き方が明らかに違った。


 第一話を開いた読者が、そのまま第二話へ進んでいる。

 第三話も、公開直後から動いている。

 タイトルだけを見て入ってきた人間が、あらすじを読み、第一話を読み、その先まで進んでいる。


 「ブックマークが付いた」


 「一件っすね」


 「もう一件増えた」


 「二件っす」


 「評価も入った」


 「落ち着いてくださいよ」


 「…俺は落ち着いている」


 「更新ボタンを押す指が残像になってるっす!」


 管理画面を更新。

 ブックマーク、三件。


 もう一度更新。

 変化なし。


 さらに更新。

 ブックマーク、四件。


 「増えた」


 「30秒くらい前にも聞いたっす」


 「読者が継続して動いている」


 「橘さんも継続して更新ボタン押してるっすね」


 「定点観測だ」


 「それは監視っす!」


 一時間後。

 過去作の初日アクセスを超えた。

 三時間後には、ブックマークが二桁へ届いた。

 日付が変わる頃には、感想も一件付いていた。


 『ゴミを拾って価値を見抜くという発想が面白いです。続きが楽しみです』


 俺はその文章を三回読んだ。


 「そんなに読むところあるっすか?」


 「読者が、作品の狙いを正確に理解している」


 「普通に喜べばいいでしょうが」


 「喜んでいる」


 「顔が怖いっす」


 感想には、強い魔物を倒したことも、派手な戦闘も書かれていない。

 評価されたのは、ゴミ拾いと【鑑定】だった。

 主人公が誰にも見向きされない物を拾い、その中に隠れた価値を発見する。

 社会的に低い位置にいた人間が、誰も気づかなかった物を見る。

 俺がタイトルで約束した快感が、本文でも読者へ届いていた。


 翌朝。

 累計アクセスは、俺の予想を超えていた。


 「昨日投稿したばっかなのに、朝も読まれてるっすね」


 ミナが、自分のスマートフォンで作品ページを開いた。


 「投稿直後だけではない。深夜から朝にかけても流入している」


 「誰かが紹介してくれたとか?」


 「可能性はある」


 「ランキングに載ったんじゃないっすか?」


 「まだ早いだろう」


 「ランキング履歴、見てみればいいじゃないっすか」


 確認すると、作品名があった。


 低い順位だった。


 それでも、間違いなくランキングの中に存在している。


 「入ってるっす!」


 「…入ったな」


 「もっと喜んでいいんじゃないっすか!?」


 「ふふん、この程度は喜ぶうちに入らない」


 「またそういう言い方!」


 投稿サイトの新着欄に載る時間は短い。

 そこから外れれば、新人の作品が読者の目に触れる機会は一気に減る。


 しかしランキングへ入れば、話は変わる。

 作品を知らない読者が、順位表から入ってくる。

 その読者が続きを読み、ブックマークや評価を付ければ、順位が上がる。

 順位が上がれば、さらに多くの読者の目に入る。


 正の循環。


 ランキングは、人気を生み出す魔法ではない。

 最初の読者が支持した作品を、より多くの読者へ運ぶ増幅装置だ。


 「つまり、ここから勝手に伸びるんすか?」


 「勝手には伸びない」


 「そうなんすか?」


 「ランキングから人が来ても、読んだ先が面白くなければ帰る。続きを更新しなければ、既存読者も戻らない」


 「じゃあ、どうするんす?」


 「書く」


 「案外、普通の結論が出たっすね」


 「毎日、更新を続ける」


 俺はすでに第四話以降の原稿を用意していた。


 主人公が、初めて鑑定した廃品の価値を証明する。

 そして配信を始める。

 誰にも見られない配信で、コメントをくれる視聴者と出会う。


 毎話、鑑定によって新しい価値が見つかる。

 同時に、主人公を見る周囲の目も少しずつ変わる。


 「更新はできるだけ同じ時間にする」


 「読者が待ちやすいからっすか?」


 「そうだ」


 「投稿時間より中身が大事って言ってませんでした?」


 「中身の方が重要だ。だが、読みやすくする工夫を捨てる理由にはならない」


 「まともなこと言ってるっすね」


 「以前からまともだ」


 「それは違うっす」


 19時。

 第四話を投稿した。


 前日とは違い、投稿直後からアクセスが跳ねる。

 ブックマークしていた読者が戻ってきた。

 さらにランキングから、新しい読者が第一話へ入ってくる。


 最新話が読まれる。

 第一話も読まれる。

 過去の話も同時に動く。


 「これが連載か」


 「今までのは何だったんすか?」


 「公開された文章だ」


 「小説って呼んであげてくださいよ!」


 日間ランキングの順位は、更新するたびに上がっていった。

 もちろん下がる日もあった。

 評価がほとんど増えない時間帯もある。

 俺はそのたびにタイトルを変えようとした。


 「待てっす!」


 ミナが俺の手を止めた。


 「何だ」


 「昨日ちょっと順位が下がっただけで、タイトルを変える気っすか?」


 「改善案を思いついた」


 「今のタイトルで読者が来てるんすよね?」


 「来ている」


 「本文も読まれてる?」


 「読まれている」


 「なら、むやみに入口を改装しない方がよくないっすか?」


 「しかし、より強い可能性が――」


 「営業中の店の看板を毎日掛け替えるなっす!」


 言われて、手を止めた。


 改善は必要だ。

 だが、変えれば必ず良くなるわけではない。


 数字が少し下がっただけで動けば、どの要素が効いていたのか分からなくなる。

 何より、すでに作品を覚えてくれた読者がいる。


 「変更ではなく、更新を優先する」


 「そうしてください」


 「タイトルの検討案は保存しておく」


 「捨てないんすね」


 「データは残す」


 「そこだけは一貫してるっすね、この人」


 一週間後。

 作品は日間ランキングの上位へ入った。

 最新話の閲覧数は、投稿を始めた日の累計アクセスを大きく超えた。

 すべての評価値が、過去作とは比較にならない速度で増えていく。


 「……当たったっすね」


 ミナが言った。


 「そう見える」


 「そこは認めるんすね」


 「現時点では、成功側の数字だ」


 「じゃあ、目標達成っすか?」


 「まだだ」


 「ランキング上位まで来たんすよ?」


 「一時的に読まれることと、作品として残ることは違う」


 読者は、更新を待っている。

 毎日、作品ページを開く人がいる。

 感想欄には、登場人物の名前が書かれるようになった。

 『主人公が強いから好き』だけではない。


 『シオがかわいい』

 『主人公と探索者たちのやり取りが好き』

 『戦闘ばかりではなく、ゴミ拾いで人を助けるところがいい』


 物語の中の人物が、読者の中で生き始めている。


 「書籍化できそうな数字になったら、更新を減らす作家もいるらしいっすよ」


 「なぜだ?」


 「書籍作業が始まるとか、もう結果が出たからとか」


 「逆だろう」


 「逆?」


 「読者が集まった今からが勝負だ」


 ①入口を作る

 ②読者が来る

 ③物語を気に入る

 ④続きを待つ


 その熱を、⑤更新によって保つ。

 作品が商業化する可能性が見えた瞬間、Web版の役割が終わるわけではない。


 むしろ、本が発売される日まで読者の熱をつなぎ、作者の名前を覚えてもらう必要がある。


 「ランキングに入ることがゴールではない」


 「じゃあ、何がゴールなんす?」


 「まだ決めていない」


 「一山当てるって言ってたでしょうが!」


 「一山が想定より大きい可能性がある」


 「欲が出てきたっすね、この人!」


 作品の更新を続けながら、俺は賞の応募要項も調べた。

 小説投稿サイトと複数の出版社が共同開催する、Web小説大賞。


 受賞作は書籍化。

 部門によってはコミカライズの可能性もある。


 応募締切は――二日後だった。


 「二日後!?」


 ミナの声が部屋に響いた。


 「問題ない。応募ボタンを押すだけだ」


 「賞を取るつもりで小説家になったんじゃないんすか!?」


 「賞を取るとは言ったが、賞に応募することを忘れていた」


 「そこ忘れる人いるんすか!?」


 「読者を増やすことを優先していた」


 「賞は応募しないと取れないっすよ!」


 「それは確かに盲点だった」


 「盲点じゃなくて入口っす! 賞レースの入口で止まってるっす!」


 俺は締切の二日前に、作品を『地星ノベル大賞』へ応募した。

 部門は、現代ファンタジー。

 作品情報と連絡先を確認し、応募を確定する。


 「これでいい」


 「軽いっすね……」


 「ここから先は審査員が決める」


 「急に他人任せっすか?」


 「読者へ届く確率を上げるところまでは俺にできる。受賞者を決める権限はない」


 「でも、気になるでしょう?」


 「……別に」


 「本当に?」


 「まったく」


 俺は応募完了画面を閉じた。

 その直後、結果発表予定日を予定表へ登録した。


 「気にしまくってるじゃないっすか!」


 「日程管理だ」


 「素直じゃないっすね!」


 賞への応募を終えても、更新は続けた。


 作品は日間から週間へ。

 週間から月間へ。

 ランキングの集計期間が変わっても、少しずつ上へ進んでいった。


 だが、同じものを永遠に書き続けるつもりはない。


 「次の作品を考える」


 「今の作品が伸びてる最中でしょう?」


 「だからこそだ」


 「普通、当たった作品と似たものを書くんじゃないんすか?」


 「再現と模倣は違う」


 「また作家っぽいこと言ってるっすね」


 俺が再利用すべきなのは、会社をクビにすることでも、ゴミを拾わせることでもない。


 タイトルで面白さを伝える。

 第一話でその約束を始める。

 主人公を応援したくなる理由を作る。

 毎話、読者が戻るだけの変化を置く。


 それらの原則だ。


 舞台も。

 主人公も。

 読者が味わう快感も。


 次は変える必要がある。


 「ミナ」


 「何すか?」


 「探索者が、ダンジョンで一番欲しいものは何だ」


 「強い装備じゃないっすか?」


 「作品にすると既視感が強い」


 「レアスキル?」


 「前作と近い」


 「お金?」


 「成功未来としては使えるが、作品の核には弱い」


 「じゃあ、自分で考えてくださいよ!」


 「現場の意見を聞いている」


 ミナはしばらく考えた。


 「……帰る場所っすかね」


 「帰る場所?」


 「探索って、毎回うまくいくわけじゃないっす。仲間が怪我する日もあるし、何も取れない日もある。魔物から逃げるだけで終わる日もあるっす」


 「ああ」


 「そういうとき、豪華な装備が欲しいとか、最強になりたいとか、考えないんすよ」


 「では何を考える」


 「座りたい」


 「座る?」


 「安全なところで装備を外して、水飲んで、温かいもの食べて……今日も生きて帰れたって思いたいっす」


 ミナは、少し照れたように笑った。


 「探索者って、戦う場所はいくらでもあるんすけど、休める場所は少ないんすよ」


 休める場所……。

 それは即ち、安全な場所。

 探索者が、また帰ってきたくなる場所。


 前作のような即物的な成り上がりとは違う。

 それでも、毎話読者が戻る理由を作れる。


 一人の探索者が訪れる。

 食事をする。

 傷を癒やす。

 別の探索者を連れてくる。


 小さな施設が、少しずつ帰る場所へ変わっていく。


 「ダンジョンの中に、休憩地を作る」


 「休憩地?」


 「湖のほとりがいい」


 「急に景色まで決まったっすね」


 「限定スキルで、小さな宿泊施設を出す」


 「またスキルっすか」


 「カテゴリとしてだが、分かりやすくするためだ」


 「中身は?」


 「探索者たちが帰ってくる話にする」


 俺は新しい企画書を開いた。

 タイトル欄へ入力する。


 『ダンジョン湖畔の休憩地 ~限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる~』


 ミナが画面をのぞき込んだ。


 「今度は、トップにならないんすね」


 「ああ」


 「独占もしない」


 「しない」


 「誰かを見返す話でもない」


 「そうだ」


 「売れるんすか?」


 「…分からない」


 「橘さんが分からないって言った!?」


 「違う快感を検証する」


 「結局、検証するんすね」


 俺は第一話を書き始めた。


 主人公が、ひょんなことからオリジンスキルを習得する。

 そして小さな休憩地を出す。

 最初の客がやってくる。

 水を飲み、食事をし、少しだけ眠る。

 帰り際、その探索者が尋ねる。


 『また来てもいいですか?』


 その一言を読んだミナが、黙った。


 「どうだ」


 「……いいと思うっす」


 「具体的に言え」


 「なんていうか、帰ってきたくなる感じがするっす」


 「それが、この作品の約束だ」


 前作とは違う。

 ランキングで爆発するかも分からない。

 だが、タイトルと第一話と物語の核は、一本につながっている。


 数日後。


 俺は『ダンジョン湖畔の休憩地』の投稿を始めた。

 会社クビの作品ほど、初日から爆発したわけではない。


 それでも、読者は残った。

 感想が付いた。


 『こんな場所があったら、自分も帰りたいです』

 『戦うだけではないダンジョンものが新鮮です』

 『また来てもいいですか、の一言でブックマークしました』


 「読まれてるっすね」


 「前作とは数字の動き方が違う」


 「失敗っすか?」


 「いや」


 入口の広さは、会社クビの方が上だ。

 だが、湖畔の作品は、一度入った読者の反応が深い。


 作品によって、強さの形は違う。

 入口の爆発力。

 読後の満足。

 毎話戻りたくなる居心地。


 同じ数字だけで、すべてを判断してはいけない。


 「一つ当たっただけなら、偶然かもしれない」


 「はい」


 「違う作品でも読者が残れば、再現性がある」


 「まぁ、そうっすね」


 「つまり俺は、やはり天才かもしれない」


 「そこで全部台無しにするなっす!」


 湖畔の作品を投稿して、しばらく経った頃。

 仕事を終えて帰宅すると、メールが一通届いていた。


 件名は、


 『作品の書籍化に関するご相談』


 差出人は、出版社の編集者だった。


 俺は画面を見つめた。


 「ミナ」

 

 「今度は何すか?」


 「湖畔の作品に、書籍化の相談が来た」


 「……は?」


 「まだ連載を始めたばかりだが」


 「ちょ、ちょっと待ってください! 本物っすか!?」


 「会社のドメインから送られている」


 「そうじゃなくて!」


 ミナは俺からスマートフォンを奪い、メールを最初から最後まで読んだ。


 「本当に書いてあるっす……」


 「書いてあるだろ?」


 「まさか、この作品が書籍になるんすか!?」


 「相談段階だ」


 「でも、出版社が読みたいって言ってるんすよね?」

 

 「ああ」


 「すごいじゃないっすか!」


 「まだ決まっていない」


 「もっと喜べっす!」


 ミナが俺の背中を何度も叩いた。


 くそ痛い。

 中級探索者の力で叩かないでほしい。

 そのとき、机の上の予定表が目に入った。


 明日。


 『地星ノベル大賞』結果発表。


 「そういえば、賞の発表も明日だ」


 俺が言うと、ミナの動きが止まった。


 「……忘れてたんすか?」


 「忘れてはいない」


 「今思い出した顔だったっすよ!?」


 「書籍化の相談が来た以上、賞の結果に過度な期待をする必要はない」


 「絶対気にしてるっす」

 

 「…気にしていない」


 「じゃあ、その震えてる手は何すか?」


 「ミナに叩かれたせいだ」


 「そこは否定できないっすけど!」


 明日。

 賞の結果が発表される。

 そして俺の手元には、別作品の書籍化相談が届いている。


 小説家を完全に舐めた状態から始めた、三ヶ月の試行錯誤。


 >タイトル

 >あらすじ

 >第一話

 >物語

 >毎日更新

 >読者との約束


 学んだことが正しかったのか。

 偶然、一度だけ数字が出ただけなのか。


 その答えが出るまで、あと一日だった。

「賞に応募することを忘れていた」

恐ろしいことに、ここだけ実話なんだぜっ!

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