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第99話 決戦、ベルフェゴール!


 地下迷宮の最深部。そこには、王都の地下とは思えないほど広大で、淀んだ空気が満ちる大空洞が広がっていた。

 中央いるのは、巨大な揺り籠のような形状をした魔力の塊。

 怠惰のベルフェゴール。その本体が、数百年におよぶ眠りから目覚めようとしていた。


「ようやく着きましたわね。この、肌にまとわりつくような、不愉快な眠気の根源に」


 アリシアが杖を構え、周囲の闇を払うように光を灯す。


「ええ。ですが不用意に光を広げないでください。主の構築した隠密の術式が乱れます。死にたいのであれば、一人でやってください」


「なんですって? わたくしはリアム様の道を照らしているのですわ。貴女こそ、その薄暗い影に引きこもって、リアム様のお背中を汚さないでいただけますかしら」


「影は、主を害するあらゆる事象を飲み込むためのもの。光を放つだけの貴女とは、役割の次元が違います」


 二人の言い合いが響く中、俺は冷静に眼の前の魔力変動を解析していた。

 原作でのベルフェゴールは、戦闘開始から十分経過するごとに、プレイヤーの最大魔力量を永続的に一割ずつ削ってくる凶悪な時間制限ボスだ。長期戦は、即ち死を意味する。


「不毛な口論はやめろ。来るぞ。シロ、位置につけ」


「クォオン!」


 シロが鋭く短く答え、銀色の疾風となって空洞の隅へと跳んだ。あそこが、この空間における魔力の排出口だ。


「カインの役目は、勇者としての騒がしい生命力を全開にし、ベルフェゴールの夢を内側からかき乱すことだ。魔力糸を接続するぞ。五分で決めること、いいな」


「五分!? 無茶だよリアム! この魔力の圧力、さっきまでとは比べものにならないよ!」


「黙って動け。俺が操作する。ただ、心臓を動かし続けるんだ」


 俺が指先を振ると、カインの身体が不自然なほど鋭い動きで前方に突き出された。

 それと同時に、揺り籠の中から、巨大な山羊の角を持つ影の巨人が立ち上がる。


「あぁ。眠い。なぜ、私の安らぎを、邪魔する」


 ついに出たな。ボスの登場だな。ベルフェゴールの声が、重低音となって空間を揺らす。それだけで、アリシアとカインの膝がガクガクと震え始めた。


「ううっ、この重圧。これが、魔王の」


「アリシア、怯むな。奴の言葉を聞くな。それはただの、思考を放棄させるための波動だ。セレーナは予定通り、影のクサビを打ち込むこと。アリシアは奴の頭上に重力魔法を展開。光ではなく、重さで奴の覚醒を物理的に阻害する」


「承知いたしましたわ、リアム様。重力のケージ!」


「了解。闇の底へ、沈みなさい」


 アリシアの魔力によって巨人の頭上が押し潰され、セレーナの影がその足元を縫い止める。

 ベルフェゴールは面倒そうに腕を払い、二人の魔法を紙細工のように引き裂いた。そう来るか。まあ、これくらいは想定していた。


「無駄だ。すべての運動は、最後には止まる」


「その言葉、そのまま返してやる。運動を止めるのはお前ではない。この俺の、精密な計算だ」


 俺はシロに合図を送った。シロが魔力の排出口で、溜まりに溜まった怠惰の残りを一気に吸い込み始める。

 空間内の魔力循環が逆流し、ベルフェゴールの揺り籠に亀裂が入った。


「カイン、今だ! 光輝の絶技・一閃!」


「うわあああ! 勝手に身体が動く!? いっけぇぇぇ!!」


 俺の魔力糸に操られたカインが、光の塊となってベルフェゴールの胸部へ突っ込む。

 そこは、原作知識で知っている、奴の唯一の覚醒ポイント。つまり急所だ。急所へカインを突っ込ませたわけだ。


「あ、が。熱い。不快な、熱量だ」


「セレーナ、影を爆発させる。アリシア、最大出力で光を一点に収束させよう。奴に二度寝の時間は与えないように」


「死になさいな、この怠け者!!」


「影に、喰われて消えろ」

 白銀の光と漆黒の影が、カインの一撃を核にして膨張し、大空洞を埋め尽くした。

 俺は爆風の中、冷静ににベルフェゴールの消滅を確認していた。


「九分四十二秒。計算より遅れたが、許容範囲だ」


 巨人の姿が霧となって消失していく。後に残ったのは、静けさと、肩で息をする仲間たちの姿だけだった。


「やった。やったんだよね、リアム?」


 カインがその場にへたり込み、ボロボロになったマントを投げ出す。


「当然ですわ。リアム様が、あの方を導く主が、負けるはずがありませんもの」


 アリシアが杖を支えに立ち上がり、誇らしげに俺を見る。


「主。ベルフェゴールの核、回収しました。これで王都の停滞は、完全に消滅します」


 セレーナが影から戻り、小さな黒い結晶を俺に差し出した。原作知識があって助かったところは大いにあったな。知識チートなしには俺の方が殺されていても不思議はなかった。


「ああ。ご苦労だった、みんな。今日の戦い、貢献度は全員それなりだ。特にシロの吸引がなければ、さらに三分割り増しの時間がかかっていた」 

「クォオン!」


 シロが自慢げに胸を張り、俺の足元で円を描くように走り回る。


「さて。ベルフェゴールを排除したことで、王都の物流は完全に正常化する。これからは、シロ・ノヴァを基点とした、真の兵の管理が始まるぞ」


「リアム様、戦いが終わった直後に、もう次の仕事の話ですの?」


「主らしい。ですが、私はどこまでも、その合理的な背中に従います」


 俺たちは、もはや眠気など微少しも感じさせない足取りで、光が差し込み始めた地上へと向かった。

 迷宮から出ると、王都は俺とシロとみんなの手によって、最も熱い朝を迎えようとしていた。

 この世界は俺のリアムは生きていているシナリオは存在しない。それを俺が無理矢理にシナリオを捻じ曲げている。世界は俺を消しに来ているのは実感できる。本来存在していないリアムは消すということなのだろう。

 それでも俺は生き残る。みんなと一緒に。

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