89
第89話 王都強襲と、夢幻の騎士団
目覚めとは、時に残酷な贈り物だ。
温かな布団の中で終わらない幸福を得ていた者に、冷たい外気と、山積みの課題という現実を突きつけるのだから。
俺たち四人の精神を連結させた超広域覚醒波は、王都を覆っていた黄金の霧を一時的に散らし、人々の魂を無理やり現世へと引き戻した。
それは同時に、怠惰のベルフェゴールという眠れる獣の尾を力一杯踏みつける行為でもあった。
「りっ、リアム様! 王都のあちこちで、散らしたはずの霧が再び凝縮していますわ! 今度は、物理的な形を持って!」
共有意識の中で、アリシアの鋭い警告が響く。
俺はシロの背に跨り、下に広がる黄金の沈黙する王都を見据えた。
「シロ、全速だ。物理的な速度で怠惰の理を突き破るぞ」
「ワンッ!!」
シロが六枚の翼を爆発的に羽ばたかせた。背に乗るとする。黄金の閃光となった俺たちは、新領地シロノヴァから王都へと続く空を、文字通り切り裂いて飛行する。背後には、俺の魔力に牽引されたアリシアとセレーナ、絶叫するカインが光の尾を引いて続いていた。
王都まで来た。
王都の外壁を越えた瞬間、粘りつくような甘いベルフェゴールの障壁が俺たちを襲う。
触れる者の慣性を奪い、強制的に停止へと誘う領域だった。王都はヤバいことになったな。
「ふん、この程度の粘度で俺を止められると思ったか。アリシア、セレーナ、道を空けようか」
「承知いたしましたわ。極光の目覚ましアラーム・最大収束!」
「影の断絶、展開。微睡みの壁を切り開きます」
二人の魔力がシロの突撃点に集中し、黄金の霧に巨大な風穴を開ける。
俺たちはその穴を通り抜け、王都の中央広場へと猛スピードで急降下した。
広場に降り立った俺たちの前に現れたのは、実体化した夢の残りだった。
象牙色の鎧に身を包み、ゆっくりとした動作で剣を振るう、夢幻の騎士団。 彼らの一撃は肉体を切るのではなく、魂のやる気を直接削ぎ落とす方法だろう。
「カイン。お前の出番だな。ここで勇者として騒がしく立ち回ってくれ。静かさを許すなよ」
「わわっ、着地した瞬間にこれ!? 分かったよ、リアム! 連結してる君たちの声が頭の中でガンガン響いてるし、これなら寂しくて眠くなる暇なんてなさそうだ」
カインが聖剣ガラティーンを天に掲げる。俺は共有意識を通じて、彼の聖剣の術式を即座に書き換えておこう。
「え、なにこれ。聖剣から目覚まし時計のベルみたいな音が鳴り出したんだけど!?」
「名付けて聖剣・不協和音。斬るな、カイン。叩きつけろ。金属が擦れる嫌な音を街中に響かせるんだ」
「リアム、君の性格の悪さには本当に脱帽だよ! いくぞぉぉっ!」
カインが騎士たちの盾を強引に殴りつける。
ギィィィィィィィン!!
鼓膜を刺すような耳障りな音が響き渡り、街の民たちがひえっ!?と顔を上げた。
カインが地上で騒音を撒き散らす間、アリシアとセレーナは俺の指示で王宮周辺の制圧に動く。
「セレーナ、右翼の住宅街をお願い。わたくしは、王宮周辺の貴族たちを叩き起こして差し上げます」
「了解しました、アリシア様。影の中に潜む微睡みの魔は、私の氷結で凍りつかせます。夢を見る隙など与えません」
アリシアの放つ光が王宮のバルコニーを白々と照らし、贅沢な眠りに耽っていた貴族たちを冷酷に現実へと引き戻す。
同時に、セレーナの影が路地裏を駆け抜け、眠りから覚めぬ者たちの影を強引に引っ張り上げ、立たせることで意識を繋ぎ止めていく。
「ふふ、セレーナ。貴女、随分と手際が良くなってきましたわね。主の管理の仕方が、貴女の影に染み付いていますわ」
「光栄です、アリシア様。貴女のその、一切の容赦がない光の使い方も、ある意味で主への深い信頼を感じます」
二人の連携が、王都に不眠の結界を再構築していく。
街の騒ぎが頂点に達したその時。王城の地下、大時計塔の影から巨大なのが這い出してきた。
それは、実体を持たない巨大な羊の角を持つ人影だった。
ベルフェゴールの直属、夢幻の騎士団を束ねる将で、永劫の看守・ドロセルだな。原作知識のある俺には把握している。
「騒がしい。静かにせよ。王都は既に私の揺り籠だぞ」
ドロセルが手を挙げると、王都中の時が止まったかのように静まり返る。
俺たちが持ち込んだ活性のエネルギーが、奴の放つ絶対静止の怠惰によって吸い込まれていく。
「面白い。物理的に王都を奪いに来た俺の加速と、奴の怠惰。どちらが上か、決着をつけようじゃないか」
俺はシロの背から降り立ち、目の前の巨大な影を冷ややかに見た。
「アリシア、セレーナ、カイン。これより、王都の象徴である時計塔を奪還する。止まった世界の時間を、俺の手で再び叩き動かすぞ」




