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第79話 王座の間の凱旋と、残されし四罪


 暴食のベルゼブブを討伐し、大断層の呪いから世界を救い出した数日後。俺たちは王都の中心にそびえ立つ王城、その最奥にある太陽の玉座の間に立っていた。

 重厚な扉が開かれ、深紅の絨毯の上を進む。左右には近衛騎士たちが整列し、槍を掲げて俺たちの帰還を心から祝ってくれる。玉座に座るのは、この王国の頂点に立つ国王。


「リアム・ド・グラナード公爵、並びに勇者カイン。よくぞ戻った。そなたらの武功、すでに風の噂よりも早く、この耳に届いておるぞ」


 国王の声が広間に響き渡る。俺はシロを傍らに控えさせ、優雅に礼をした。


「陛下、過分なお言葉。ベルゼブブの首といいたいところですが、奴は光の塵となって消えました。代わりに、奴が喰らい尽くそうとしていた地脈の安定と、この暴食の魔石を、勝利の証として持参いたしました」


 俺が提示したのは、ベルゼブブの核が浄化されて結晶化した、深紫色の巨大な宝石だ。その場にいた大臣たちが、息を呑む音が聞こえる。


「そして、陛下。今回の戦い、真に勝利の鍵を握っていたのは、こちらにいる勇者カインでございます。彼の放った聖剣の輝きなくして、ベルゼブブの強靭な胃袋を裂くことは叶わなかったでしょう」


 俺がそう言って一歩下がると、カインがガチガチに緊張した面持ちで前に出た。


「は、はいっ! 勇者カインです! リアムに、いえ、リアム様に導かれ、仲間たちと力を合わせ、精一杯戦いました!」


 国王の顔が、見る間に破顔していく。


「おお、カインよ! 先代勇者の再来と言われたその実力、まさに本物であったか。そなたのような若き英雄が我が国にいること、王としてこれ以上の喜びはない。近う寄れ。その聖剣、余にも見せてくれぬか」


 カインが戸惑いながらも聖剣を提示すると、王は身を乗り出してその神々しさを絶賛した。原作知識によれば、この王は勇者という存在に対して異様なまでの憧れと信頼を抱いている。俺がカインを立てることで、王家の信頼は盤石なものとなるのだ。


「リアム公爵よ。そなたはカインを正しく導き、最強の剣へと育て上げた。その功績、改めて高く評価しよう」


「さて、報酬の話であったな。リアム、そなたには事前の約束通り、以下のものを授ける」


 国王が合図を出すと、侍従たちが目録を読み上げ始めた。

* 公爵領の免税期間、さらに十年の延長。

* 王立禁書庫の『最深部』への永久立ち入り権。

* 北東部『大断層』一帯の管理権の譲渡。


 大断層の管理権か。あそこは温泉も湧いているし、地脈が安定した今は豊かな土地に変わる。俺の要塞都市シロ・フォートレスの版図を広げるには最高の報酬だな。


「ありがたき幸せ。これらは全て、王国の安定と、我が神獣シロの食費に充てさせていただきます」


「ワンッ!」


 シロがタイミングよく吠えると、場が和やかな笑いに包まれた。


 国王との話は終わり、退室を許された俺たちは、長く静かな回廊を歩いていた。カインは国王に褒めちぎられた高揚感で、まだふわふわと浮ついている。


「ねえリアム、聞いた!? 王様が僕のことを王国の希望だって! なんだか照れちゃうなぁ」


「調子に乗るなよ、カインが浮かれている間に、次の影はもう足元まで来ているかもしれないんだからな」


 俺は窓の外、赤く染まった夕暮れの街を見つめた。これで、七つの大罪のうち三人が消えた。強欲のマモン、色欲のリリス、今、最大の壁であった暴食のベルゼブブ。

 原作知識を脳内で高速回転させる。


「残りは、四人か」


 カインがふと、真剣な顔をして俺を見た。


「そうだね。あんなに強かったベルゼブブを倒したけど、まだ世界は完全には平和になってない」


「憤怒、嫉妬、怠惰に、最後に控える、最強の傲慢か。奴らはベルゼブブが消えたことで、均衡が崩れたことを知っているはずだ。特に傲慢は、俺たち人間が神の領域に土足で踏み込んだと激怒しているだろうな」


 セレーナが影の中から音もなく現れ、俺の背後に控える。


「主。王都の裏側で、不穏な魔力の揺らぎを感知しています。怠惰の眠りが、少しずつ人々を侵食し始めているようです」


「偵察ありがとう。祝杯は今夜だけだ」


 セレーナの献身な偵察にお礼をし、俺はシロの頭を撫で自身の胸に手を当てた。

 三つの大罪を葬ったことで、俺の管理者の権能はさらに一段階上のステージへと昇華されつつある。同時に、世界のことわりから、より外れた存在になることを意味していた。救いすぎたかもしれないな。これも全て俺の平穏のためだ。四つの絶望を、一つずつ確実に、俺のやり方で管理してやるか。


「行くぞ、カイン。アリシアたちが屋敷で最高の晩餐を用意して待っている。明日の朝には、また地獄のような特訓が始まるからな」


「えぇっ!? 明日から!? もうちょっと休ませてよー!」


 カインの情けない叫び声が回廊に響く中、俺は冷徹な悪役令息の笑みを浮かべる。

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