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忘却の壺を砕き、眠っていた王都の記憶を取り戻した俺たちは、ついに黄金の塔の最上階へと足を踏み入れた。そこには、マモンが奪い去ってきた強大な魔力や武具、命の輝きが結晶となって無数の黄金の鎖にぶら下がっている。ドーム状の天井から垂れ下がるその鎖は、まるでこの場所が魔力の墓場であることを示しているかのようだった。実際に目の当たりにすると、その光景の異様さは想像以上で、マモンの冷酷で貪欲な本性がよく表れていた。
「ヒヒヒヒヒ、よく来たな、リアム! 遅かったぞ! ついにこれに手を出してしまったのだ!」
玉座に居座るマモンの胸元には、脈打つ漆黒の結晶が埋め込まれていた。その不気味な輝きを見た瞬間、原作にあった話を思い出した。あれは世界を滅ぼしかけた古の魔王の心臓の欠片だということを。まさか奴がこんな禁忌の品を取り出すとは思わなかったが、同時にそれはマモン自身にとっても大きなリスクを孕んでいるはずだった。
「マモンは禁忌を越えたな。あの心臓は所有者の意識を食い尽くす呪物だ。お前自身の存在も、もうすぐ消え去る運命にある。」
俺がそう告げると、マモンは興奮気味に叫んだ。
「うるさい! すべては私のものだ! 命も魂も、この世界の理すらも! この心臓の力があれば、私は神にだってなれるのだ!」
その言葉通り、マモンの体は異様に膨れ上がり、黄金の触手と漆黒の羽が背中から突き出していく。もはや人の姿とは言えない怪物へと変わってゆく様子を目の前に、俺は腰の剣に手をかけた。神になれるだなんて、そんなのはただの過剰なうぬぼれに過ぎない。
「リアム様、危険です! あの心臓が周囲の空間を腐食し始めています!」
アリシアが闇の障壁を展開しながら叫ぶのが聞こえた。シロも青い炎を燃やし、低いうなり声をあげて威かくするように身構えている。
「主よ、正面は私に任せてください。しかしあの再生力は尋常ではありません。どれだけ斬っても追いつけない!」
セレーナは短刀で触手を切り裂いたが、傷口からは黄金の液体がにじみ出し、まるで生きているかのように瞬時に再生していく。それを見て、まずいと感じた。原作ではここで主人公が聖剣の真の力に目覚め、心臓を一突きにするはずだった。しかし、今、その役割を果たすべき男は、俺の屋敷でシロのブラッシング係に甘んじていたのだ。
その瞬間だった。
「待たせたな、リアム!」
背後の扉が豪快に開けられ、ボロボロの服をまとった一人の男が飛び込んできた。その瞳は鋭く、強い光を宿していた。間違いない、主人公のカイルだ。
「カイル? どうしてここに?」
「シロちゃんに言われたんだ。いつまで寝ているんだ、このダメ勇者ってね。シロちゃんの風が心に届いたんだよ。」
カイルの手には折れたはずの聖剣が握られていたが、それは折れたままではなかった。白い毛が抜けたシロの風と、アリシアの闇の結晶、セレーナの影の魔力が、折れた剣を補強するように新たな刃を形作っていた。
「絆の聖剣か。原作にはない、とんでもないことになったな。」
俺は呆れつつも、口の端が自然と上がってしまうのを止められなかった。
「リアム、君が悪役として汚れ仕事を引き受けてくれたおかげで、僕はもう甘さを捨てられたんだ。僕はただの正義の味方じゃない。君たちと共に、この世界の守護者として歩んでいくんだ!」
カイルの叫びと共に、聖剣が聖なる白銀の光を放ち始めた。
「勇者様、前よりずっと凛々しく見えますね。シロちゃんの世話が良い修行になったのかもしれません。」
「クゥ、ワン!」
シロがカイルの隣に並び、彼の聖剣に青い炎の力を分け与えた。
「ふん、カイル。おしゃべりはそのくらいにしろ。アリシア、セレーナ、カイル、お前たちの合体攻撃であの心臓の防壁を壊してくれ。シロと俺はマモンの注意を引く。」
「「はい、リアム様(主)!」」
「行くぞ、みんな! 聖剣よ、再び輝け!」
マモンが興奮しながら無数の黄金の鎖を振り回し、俺たちに襲いかかる。
「シロ、空中機動だ! その鎖を足場にして動くんだ!」
俺はシロの背に飛び乗り、自由自在に空間を駆け巡る。シロの放つ風の刃が鎖を一本ずつ断ち切り、マモンの視線を俺たちに強く向けさせる。
「うるさい獣め、消え失せろ!」
俺が叫ぶと、
「今だ! アリシア、セレーナ!!」
合図と共に彼女たちが跳躍し、闇と影が一つに重なり合い、双影・極夜の葬送を放った。アリシアの深い闇とセレーナの冷徹な影が混じり合い、マモンの心臓を守る黄金の装甲を狭い一点に凝縮、叩き潰した。
「ギ、ギィヤァァァァ! 私の防御が!」
「終わりだ、マモン! 聖なる風の裁きを受けよ!」
カイルがシロの風を受けて、光輝く聖剣を迷わず心臓へ突き立てた。白銀の閃光が黄金の天蓋を貫き、魔王の心臓は激しく火花を散らして砕け散る。轟音と共にマモンの巨体が膝をついた。塔全体が激しく揺れ、封じられていた魔力は黄金の鎖から一斉に解き放たれ、やがて空へと還っていった。
「はぁ、はぁこれは、やったのか?」
カイルは聖剣を杖代わりにしながら立ち尽くしたが、俺は速読を止めなかった。
「まだ終わっていないぞ。マモン、お前の強欲はこれだけで済むのか?」
爆煙の中から、さらに恐ろしい声が響いてきた。
「許さんぞ、リアム。私のコレクションも神殿も奪ったな!? ならば、この塔ごとお前たちの墓標にしてやる!」
マモンの肉体は塔の床と一体化し、巨大な怪物へと徐々に変貌し始めた。
「リアム様、建物そのものが襲いかかってきます。これでは逃げ場がありません」
「落ち着け。これが最終段階だ。カイル、聖剣の力はまだ残っているか?」
「ああ、もちろんだ。でもどうすれば」
「シロ、俺が核になる。アリシア、セレーナ、カイル。みんな、俺の背に全ての魔力を預けろ。マモンの強欲ごと、この塔を虚無に還すんだ!」
「ワンッ!!」
シロの青き炎は一層巨大になり、俺たちの絆を繋ぐ光の柱となった。悪役の俺、聖女、暗殺メイド、勇者、そして神獣。もともと交わるはずのなかった五つの力が、今やマモンの歪んだ欲望を打ち砕くために一つにまとまろうとしていた。
「さあ、マモン。これが、お前の最期を飾る最高のフィナーレになるだろう。」
崩れ始めた塔の最上階で、俺たちは最後の一撃を放つための構えを取った。運命の決戦が、今まさに幕を開けようとしていた。




