表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/62

46

第46話 遺跡と英雄



 空が黄金色に染まる中、俺たちはついに目的地である黄昏の遺跡へとたどり着いた。

 高度な魔法文明が栄えたとされるその場所は、今や巨大なクモの巣のようにマモンの黄金の糸が張り巡らされ、不気味な光を放っている。


「ここが、マモンの根城か。趣味の悪い飾り付けだな」


 俺が馬の手綱を引きながら呟くと、隣にいたアリシアが顔をしかめて同意した。


「本当ですわ、リアム様。あのような成金趣味な光、見ているだけで目が腐ってしまいそうですわ。ねえ、セレーナ。中からの気配はどう?」


 セレーナは影からスッと現れ、遺跡の入り口を見つめた。


「主。非常に強力な略奪結界が遺跡全体を覆っています。一歩中に入れば、魔力を持つ者は一瞬で枯渇するでしょう。ですが、今の主なら、その結界すら意味をなしません」


「ああ。魔力を使わずに戦うコツは、さっきのベルゼブブ戦で掴んだからな」


 俺は腰の剣の感触を確かめ、馬を降りた。

 遺跡の入り口を抜けると、そこには広大な大広間があった。

 天井からは無数の黄金の鎖が垂れ下がり、その先には人の形をした影がいくつも浮いていた。


「りっ、リアム様! あれを見てくださいまし!」


 アリシアが指差した先。影たちは、黄金の鎖に繋がれながらも、生前の武具を手にし、虚ろな瞳でこちらをにらんでいた。


「ようこそ、リアム公爵。私の自慢のコレクションルームへ」


 広間の奥から、マモンの勝ち誇ったような声が響く。


「マモン、どこに隠れている。コソコソと声だけで喋るのは、その醜い顔を見せたくないからか?」


「ははは! 言ってくれるじゃないか。彼らを紹介しよう。私が長い年月をかけて集めた、歴代の英雄たちの魂だ。彼らは死してなお、その超絶な技術を失っていない。さあ、巨神アバターを失った君が、伝説の英雄十人を相手にどこまで踊れるかな?」


 マモンが指を鳴らすと、黄金の鎖がジャラリと鳴り、三人の影が俺たちの前に降り立った。

 一人は巨大な斧を構えた大男。一人は細身の刺突剣を持つ女剣士。そしてもう一人は、漆黒の槍をたずさえた重装騎士だ。

 英雄か、また面倒なことをしてくれるな。


「主。あれは三百年前の戦斧王ガラム、百年前の神速のフェリス、そして帝国の始祖騎士アルベルトです。全員、歴史に名を残す達人たちです」


 セレーナの声がわずかに震える。彼女ほどの暗殺者でも、伝説の英雄が三人同時に相手となれば、死を覚悟するレベルだろう。


「リアム様、危ないです。ここは私が闇の檻で彼らをっ、あああ魔力が、奪われて!」


 アリシアが魔法を使おうとした瞬間、遺跡の結界が激しく反応し、彼女の体から魔力を吸い取っていく。


「アリシア、無理をするな。言っただろ、ここは俺の出番だ」


 俺は剣を抜き、前に出た。


「でも、リアム様、お一人で三人も。それも魔力なしでなんて、無茶ですわ!」


「無茶かどうかは、あいつらに聞いてみるんだな。おい、英雄ども。お前たちの動き、俺は本で何度も読んだよ。ガラム、お前は右に大きく振りかぶる癖がある。フェリス、お前の突きは三回に一度、わずかに重心が浮く。そしてアルベルト、お前の守りは左下に隙がある」


 俺が淡々と告げると、英雄たちの影が一瞬、動きを止めた。


「なぜ、それを知っている?」


 影の一人が、かすれた声で呟いた。


「管理者だからな。お前たちの栄光の記録は、すべて俺の頭の中に収まっているんだよ」


 戦闘が始まった。

 戦斧王ガラムが地響きを立てて突進し、巨大な斧を振り下ろす。

 俺は魔力を使わず、相手の斧が地面に当たる瞬間の衝撃波を足の裏で受け流し、その勢いを利用して空中に跳ねた。


「えっ、避けた!? あの重圧を、魔法なしで!?」


 アリシアが驚きの声を上げる。空中で俺を狙ったのは、フェリスの神速の突きだ。


 来る。原作の描写では、彼女の突きは空気の振動で狙いを変える。なら、呼吸を止めて、心臓の鼓動を制御すればいい。

 俺は空中で不自然なほど静かに体をひねり、突きを紙一重でかわした。

 そのまま、着地と同時に剣を振るう。


「真空刃」


 シュンッ、という鋭い音が響き、フェリスの影の首が飛んだ。


「まず、一人だ」


「バカな! 物理攻撃だけで、影の体を切り裂くというのか!?」


 マモンの狼狽した声が響く。


「主、今の動き。重力と慣性を完璧に制御しています。まるで、世界の法則そのものを味方につけているようです」


 セレーナがほれぼれとしたように見つめる中、俺は残る二人の英雄を同時に相手取った。

 アルベルトの槍が、重厚な守りと共に迫る。そこにガラムの斧が合わさり、俺の逃げ場を奪おうとする。


「リアム様、後ろですわ!!」


「わかっている」


 俺はあえて剣をさやに収めた。


「えっ!? リアム様、何を!?」


 絶体絶命の瞬間、俺は懐から小さな水晶の破片を取り出した。それは王都に残してきた王女たち、エレナ、クラリス、フィオナが、自分たちの魔力を込めた通信石だった。


「王女たち、聞こえるか。今すぐ、遺跡の外から遠隔支援を開始しろ。結界を貫く必要はない。外側から、この遺跡の重力バランスを少しだけ揺らせばいい」


 真理の速読で、王女たちへの指示を飛ばす。


「はい、リアム閣下! お待ちしておりましたわ!」


「私たちの祈り、貴方様へ届けます!」


 遺跡の外、待機していた王女たちが、一斉に魔力を放った。

 遺跡全体が確実に揺れる。


「やっ!? 槍が、それた!?」


 アルベルトの必殺の突きが、足元のわずかな揺れによって数センチ外れた。

 俺はその瞬間を逃さず、ガラムの斧のえを足場にして高く舞い上がった。


「これが、俺と仲間の連携だ」


 俺は空中で剣を引き抜き、二人を同時に一文字に切り裂いた。


「合体奥義、虚無の鉄槌」


 ドォォォォォン!!

 魔力を使わない真空の衝撃波が、二人の英雄の影を消えさせた。

 広間に静けさが戻った。

 マモンは言葉を失い、黄金の鎖が力なく揺れている。


「あ、あありえない。私の最高級のコレクションが、たった一人の、しかも魔力なしの男に」


「マモン。英雄たちは、自分の力だけで戦っていた。俺には、俺の帰りを待つ王女で大切な女性たちがいる。その差がお前にはわからないのか?」


 俺がわざとらしく芝居じみたセリフを吐くと、アリシアが顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。


「リアム様!! 今、今、私のことを大切な女性って! ああ、もう死んでも構いませんわ!」


「主、流石です。その言葉一つで、王女たちのやる気は上限を超えました。マモンの結界に亀裂が入っています」


 セレーナの言う通り、王女たちの熱狂的な魔力が、遺跡の略奪結界を外側から押し潰し始めていた。


「ちっ、調子に乗るなよ、リアム! まだだ! まだ私には、この古代兵器がある!!」


 広間の奥の壁が開き、黄金に輝く巨大な鉄槌が姿を現した。

 それは、巨神アバター・リアムを破壊したあの一撃を放つ、神殺しの道具。


「さあ、今度こそ、こっぱみじんにしてやる。王都も、お前も、その女たちもな!!」


「ふん、やれるものならやってみろ。マモン、お前は一つ、大きな間違いを犯した」


「間違い?」


「俺の巨神を壊したことで、俺の本当の怖さを引きずり出したことだよ。セレーナ、アリシア。仕上げの時間だ」


「「はい、リアム様(主)!!」」


 俺たちは、マモンが構える巨大な鉄槌に向かって、同時に走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ