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第46話 遺跡と英雄
空が黄金色に染まる中、俺たちはついに目的地である黄昏の遺跡へとたどり着いた。
高度な魔法文明が栄えたとされるその場所は、今や巨大なクモの巣のようにマモンの黄金の糸が張り巡らされ、不気味な光を放っている。
「ここが、マモンの根城か。趣味の悪い飾り付けだな」
俺が馬の手綱を引きながら呟くと、隣にいたアリシアが顔をしかめて同意した。
「本当ですわ、リアム様。あのような成金趣味な光、見ているだけで目が腐ってしまいそうですわ。ねえ、セレーナ。中からの気配はどう?」
セレーナは影からスッと現れ、遺跡の入り口を見つめた。
「主。非常に強力な略奪結界が遺跡全体を覆っています。一歩中に入れば、魔力を持つ者は一瞬で枯渇するでしょう。ですが、今の主なら、その結界すら意味をなしません」
「ああ。魔力を使わずに戦うコツは、さっきのベルゼブブ戦で掴んだからな」
俺は腰の剣の感触を確かめ、馬を降りた。
遺跡の入り口を抜けると、そこには広大な大広間があった。
天井からは無数の黄金の鎖が垂れ下がり、その先には人の形をした影がいくつも浮いていた。
「りっ、リアム様! あれを見てくださいまし!」
アリシアが指差した先。影たちは、黄金の鎖に繋がれながらも、生前の武具を手にし、虚ろな瞳でこちらをにらんでいた。
「ようこそ、リアム公爵。私の自慢のコレクションルームへ」
広間の奥から、マモンの勝ち誇ったような声が響く。
「マモン、どこに隠れている。コソコソと声だけで喋るのは、その醜い顔を見せたくないからか?」
「ははは! 言ってくれるじゃないか。彼らを紹介しよう。私が長い年月をかけて集めた、歴代の英雄たちの魂だ。彼らは死してなお、その超絶な技術を失っていない。さあ、巨神アバターを失った君が、伝説の英雄十人を相手にどこまで踊れるかな?」
マモンが指を鳴らすと、黄金の鎖がジャラリと鳴り、三人の影が俺たちの前に降り立った。
一人は巨大な斧を構えた大男。一人は細身の刺突剣を持つ女剣士。そしてもう一人は、漆黒の槍をたずさえた重装騎士だ。
英雄か、また面倒なことをしてくれるな。
「主。あれは三百年前の戦斧王ガラム、百年前の神速のフェリス、そして帝国の始祖騎士アルベルトです。全員、歴史に名を残す達人たちです」
セレーナの声がわずかに震える。彼女ほどの暗殺者でも、伝説の英雄が三人同時に相手となれば、死を覚悟するレベルだろう。
「リアム様、危ないです。ここは私が闇の檻で彼らをっ、あああ魔力が、奪われて!」
アリシアが魔法を使おうとした瞬間、遺跡の結界が激しく反応し、彼女の体から魔力を吸い取っていく。
「アリシア、無理をするな。言っただろ、ここは俺の出番だ」
俺は剣を抜き、前に出た。
「でも、リアム様、お一人で三人も。それも魔力なしでなんて、無茶ですわ!」
「無茶かどうかは、あいつらに聞いてみるんだな。おい、英雄ども。お前たちの動き、俺は本で何度も読んだよ。ガラム、お前は右に大きく振りかぶる癖がある。フェリス、お前の突きは三回に一度、わずかに重心が浮く。そしてアルベルト、お前の守りは左下に隙がある」
俺が淡々と告げると、英雄たちの影が一瞬、動きを止めた。
「なぜ、それを知っている?」
影の一人が、かすれた声で呟いた。
「管理者だからな。お前たちの栄光の記録は、すべて俺の頭の中に収まっているんだよ」
戦闘が始まった。
戦斧王ガラムが地響きを立てて突進し、巨大な斧を振り下ろす。
俺は魔力を使わず、相手の斧が地面に当たる瞬間の衝撃波を足の裏で受け流し、その勢いを利用して空中に跳ねた。
「えっ、避けた!? あの重圧を、魔法なしで!?」
アリシアが驚きの声を上げる。空中で俺を狙ったのは、フェリスの神速の突きだ。
来る。原作の描写では、彼女の突きは空気の振動で狙いを変える。なら、呼吸を止めて、心臓の鼓動を制御すればいい。
俺は空中で不自然なほど静かに体をひねり、突きを紙一重でかわした。
そのまま、着地と同時に剣を振るう。
「真空刃」
シュンッ、という鋭い音が響き、フェリスの影の首が飛んだ。
「まず、一人だ」
「バカな! 物理攻撃だけで、影の体を切り裂くというのか!?」
マモンの狼狽した声が響く。
「主、今の動き。重力と慣性を完璧に制御しています。まるで、世界の法則そのものを味方につけているようです」
セレーナがほれぼれとしたように見つめる中、俺は残る二人の英雄を同時に相手取った。
アルベルトの槍が、重厚な守りと共に迫る。そこにガラムの斧が合わさり、俺の逃げ場を奪おうとする。
「リアム様、後ろですわ!!」
「わかっている」
俺はあえて剣をさやに収めた。
「えっ!? リアム様、何を!?」
絶体絶命の瞬間、俺は懐から小さな水晶の破片を取り出した。それは王都に残してきた王女たち、エレナ、クラリス、フィオナが、自分たちの魔力を込めた通信石だった。
「王女たち、聞こえるか。今すぐ、遺跡の外から遠隔支援を開始しろ。結界を貫く必要はない。外側から、この遺跡の重力バランスを少しだけ揺らせばいい」
真理の速読で、王女たちへの指示を飛ばす。
「はい、リアム閣下! お待ちしておりましたわ!」
「私たちの祈り、貴方様へ届けます!」
遺跡の外、待機していた王女たちが、一斉に魔力を放った。
遺跡全体が確実に揺れる。
「やっ!? 槍が、それた!?」
アルベルトの必殺の突きが、足元のわずかな揺れによって数センチ外れた。
俺はその瞬間を逃さず、ガラムの斧のえを足場にして高く舞い上がった。
「これが、俺と仲間の連携だ」
俺は空中で剣を引き抜き、二人を同時に一文字に切り裂いた。
「合体奥義、虚無の鉄槌」
ドォォォォォン!!
魔力を使わない真空の衝撃波が、二人の英雄の影を消えさせた。
広間に静けさが戻った。
マモンは言葉を失い、黄金の鎖が力なく揺れている。
「あ、あありえない。私の最高級のコレクションが、たった一人の、しかも魔力なしの男に」
「マモン。英雄たちは、自分の力だけで戦っていた。俺には、俺の帰りを待つ王女で大切な女性たちがいる。その差がお前にはわからないのか?」
俺がわざとらしく芝居じみたセリフを吐くと、アリシアが顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。
「リアム様!! 今、今、私のことを大切な女性って! ああ、もう死んでも構いませんわ!」
「主、流石です。その言葉一つで、王女たちのやる気は上限を超えました。マモンの結界に亀裂が入っています」
セレーナの言う通り、王女たちの熱狂的な魔力が、遺跡の略奪結界を外側から押し潰し始めていた。
「ちっ、調子に乗るなよ、リアム! まだだ! まだ私には、この古代兵器がある!!」
広間の奥の壁が開き、黄金に輝く巨大な鉄槌が姿を現した。
それは、巨神アバター・リアムを破壊したあの一撃を放つ、神殺しの道具。
「さあ、今度こそ、こっぱみじんにしてやる。王都も、お前も、その女たちもな!!」
「ふん、やれるものならやってみろ。マモン、お前は一つ、大きな間違いを犯した」
「間違い?」
「俺の巨神を壊したことで、俺の本当の怖さを引きずり出したことだよ。セレーナ、アリシア。仕上げの時間だ」
「「はい、リアム様(主)!!」」
俺たちは、マモンが構える巨大な鉄槌に向かって、同時に走り出した。




