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第47話 鉄槌と白銀の神獣
黄金の遺跡の最深部。マモンが狂ったように操作する神殺しの鉄槌が、耳をつんざくような駆動音を立て始めた。
それは、以前巨神アバター・リアムを一方的に破壊した、理不尽な光の暴力だ。
「ははは! 死ね、リアム! お前がどれだけ剣を極めようと、この概念ごと消し去る光の前では無力だ!」
「リアム様、危ないですわ! 私が闇を何重にも重ねて、盾になりますわ!」
アリシアが叫び、魔力を吸い取られる痛みに耐えながら前に出ようとする。
「主、私を光の盾にして、その隙に逃げてください」
セレーナもまた、無表情ながらも決死の覚悟で短刀を構えた。
盾になると言うのは嬉しいが俺は二人の肩を優しく叩き、前に出た。
「案ずるな。俺は言ったはずだ。奪えるものはすべて奪うというその略奪の理、俺が今から、書き換えてやるとな」
「書き換える? 一体何を」
マモンが困惑した瞬間、俺は真理の速読を全開にした。
視界に映るのは、鉄槌から漏れ出す膨大なエネルギーのコード。
俺は、あえてその光の中へと、自ら足を踏み入れた。
「リアム様ぁぁ!!」
アリシアの悲鳴が響くものの、俺の体は消滅しなかった。
なぜなら、俺は今、マモンの略奪の術式を、俺自身の虚無の魔力で上書きしていたからだ。
「マモン、お前は対象を消し去るためにこの力を振るう。だが俺は、この膨大なエネルギーを再定義するために使う。奪うのではなく、新しく産まれるための、うぶごえに変えるんだ」
俺は光の渦の中心で、粉々になった巨神アバター・リアムの核を掲げた。できるかわからないが、俺の考えでは、不可能ではないと思っている。さあ、やってやろうか、巨神の再起動を。
「虚無より出よ。主の平穏を守り、愛しき者たちを癒やす、真なる守護の形!」
黄金の光が、真っ白な旋風へと変わる。
鉄槌の攻撃エネルギーは、すべてその再起動のための燃料へと変換されていった。
まぶしい光が収まった後、そこにいたのは、巨大な鋼の巨人ではなかった。
「え? わんちゃん?」
アリシアがポカンと口を開けた。そこには、俺の身長よりも一回り大きい程度の、見事な白銀の毛並みを持つ狼が立っていた。
毛は雲のようにモフモフでふさふさとしており、その瞳は透き通った青色をしている。
巨神のような威圧感はない。むしろ、日向ぼっこが似合うような、愛らしい姿だった。
「クゥン?」
白銀の狼が、俺の手に鼻を擦り寄せてくる。
「主、これが虚無の王の、新しい姿なのですか?」
セレーナが、恐る恐るそのふかふかの毛に触れた。
「ああ。巨神のような重厚な盾は、今の俺には必要ない。必要なのは、俺のそばに寄り添い、どんな場所へも共に駆ける、機動力と柔軟性を持った神獣だ」
「キャー!! 何ですのこの可愛さは! リアム様、この子の毛並み、最高に気持ちいいですわ!」
アリシアが我慢できずに狼の首筋に抱きついた。
「クゥ、ワン!」
狼はしっぽをブンブンと振り、風属性の魔法をかすかにまとって、アリシアを優しく押し返した。
「ふざ、ふざけるなよ! 私の古代兵器を、そんなペットの餌にしたというのか!?」
マモンが顔を真っ赤にして叫び、予備の魔力砲を放とうとする。
「やっていいぞ。お前の新しい力を見せてやれ」
俺がそう命じると、白銀の狼の瞳が鋭く光った。
「ガゥゥワンッ!!」
狼が一声吠えると、遺跡の中に凄まじい風が巻き起こった。
それはただの風ではない。マモンの略奪結界を物理的に切り裂き、浄化していく神風だ。
「あわわ!? 結界が、私の略奪結界が、風に飛ばされていく!?」
「フェンリルは、風属性の神獣だ。お前が奪おうとする空気の流れそのものを操り、お前の能力を無効化する。さあ、マモン。お前の負けだ」
「ガゥゥワンッ!!」
マモンは慌てて予備の転送陣を起動した。
「逃がしませんわ!」
アリシアが闇のとげを放つが、マモンはひきょうにも略奪した英雄たちの影を壁にして防いだ。
「リアム・ド・グラナード! 今日は引いてやるが、忘れるな! その神獣の毛皮も、次こそは私のコレクションに加えてやるからな! あばよ!」
黄金の光と共に、マモンの気配が遺跡から消え去った。
「逃げられましたか。追いますか、主?」
セレーナが短刀を収め、俺に問いかける。
「いや、追いかけなくていい。今の俺たちには、この子、神獣の慣らし運転が必要だ。マモンを追い詰めるのは、じっくり待ってやるさ」
戦闘が終わり、遺跡の外へ出ると、待機していた三人の王女たちが駆け寄ってきた。
「リアム様! ご無事でしたのね! えって、あら? その可愛いわんちゃんは?」
エレナが目を輝かせて、白銀の狼を見つめる。
「クゥ、ワン!」
狼は王女たちの周りを嬉しそうに駆け回り、風の魔法でお花を浮かせて彼女たちにプレゼントした。
「まあ! なんてお利口さんなの! 巨神様もすごかったですけど、この子の方が、なんだかリアム様に似ていて素敵ですわ!」
フィオナが狼の頭を撫でながら、頬を赤らめる。
「閣下、この子の名前はもうお決まりですか? ふふ、私が毎日ブラッシングして差し上げますわね」
クラリスも、そのふかふかの毛のとりこになったようだ。
「名前か。そうだなシロでいいんじゃないか?」
「「「「「あんちょくすぎますわ!!」」」」」
全員からツッコミが入る。俺は肩をすくめた。
「冗談だ。この子の名前は、王都に戻ってからゆっくり考えるとしよう。今は、マモンが残していったこの遺跡の残がいから、使えるものを回収するのが先だ」
俺たちは、マモンが逃げ去った後の遺跡を調査することにした。
黄金の装飾は、はがれ落ち、不気味だった空間も、今は狼が放った風の残り香ですがすがしい。
「リアム様、見てください! マモンが置いていった宝箱の中に、こんなに綺麗な魔石が!」
アリシアが子供のように目を輝かせて、大きな赤い魔石を持ってきた。
「ふむ。これはシロのおやつにちょうどいいな。ほら、シロ」
俺が魔石を投げると、シロは空中で器用にキャッチして、バリバリと美味しそうに食べた。
「ワンッ!」
満足そうに尻尾を振るシロを見て、王女たちが一斉に歓声を上げる。
「まあ、魔石を食べるなんて! 贅沢なわんちゃんですこと」
「でも、食べている姿もとっても可愛いですわ!」
「セレーナ、この遺跡に残された古代の資料、すべて回収しておけ。マモンが何を狙っていたのか、その全ぼうを解明する必要がある」
「御意。しかし、主。巨神を失った時はどうなることかと思いましたが。この神獣のおかげで、王都の皆さんもきっと笑顔になりますね」
「ああ。恐怖で従わせるのもいいが、たまにはこういう癒やしで民衆の心を掴むのも、悪くない選択だ」
俺は、ふかふかのシロの背中にそっと手を置いた。
巨神を失い、マモンに一矢報いられた時はどうなるかと思ったが、結果として、俺たちは新しい相棒を手に入れた。
マモン。お前が俺からアバターを奪ったおかげで、俺はもっと手強い力を手に入れた。
空に沈む夕日は、もう不気味な黄金色ではない。
シロの毛並みと同じ、穏やかな光を放っている。
「リアム様、そろそろ帰りましょう? 今夜はシロちゃんの歓迎パーティーですわね!」
エレナが俺の腕を取って微笑む。
「ああ。シロ、お前の初仕事は、この女の子たちの遊び相手をすることになりそうだな」
「クゥン!」
シロは少し困ったように鳴き、俺の顔をぺろりと舐めた。
巨人から、モフモフの神獣へと形を変えて再出発だな。
より賑やかに、より予想のつかない方向へと、再び走り出した。
マモン、その時にお前のすべてを奪い返してやる。それまでは、このモフモフの時間を堪能させてもらうとしよう。




