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 王宮の夜を彩るリアム公爵生誕祭。

 豪華絢爛な王宮の大広間。その華やかな喧騒が、一瞬にして停止した。

 音楽が途切れ、酌み交わされていたグラスが床に落ちて砕ける。だが、その音すらも聞こえない。空間そのものが、何か巨大な口に吸い込まれたかのような、不自然な無音になった。俺の真理の速読が捉えたのは、空間を侵食するような、ねっとりとした欲望の気配だった。

 大広間のシャンデリアが不自然に揺れ、一瞬、王たちの会話が止まる。

 そこには、影の中から這い出したかのような、複数の腕を持つ異形の男が。こいつは、原作通りなら、強欲のマモンが立っていた。


「ほう。リリスが手こずっているというから見に来てみれば、随分と豪勢な貯蔵庫のコレクションを築いているじゃないか、リアム・ド・グラナード」


 マモンの六本の腕が、それぞれ欲望を剥き出しにするようにうごめき、さらされた。彼の周囲では、空間に存在する魔力が強引に吸い寄せられ、空気そのものが乾燥していくような錯覚を覚える。


「七人の大罪のマモン。リリスに続いて、お前までもが俺の平穏を邪魔しに来たか」


 俺は玉座に座ったまま、冷ややかな視線を向けた。

 王たちは、大罪級の魔族の登場に腰を抜かし、ガタガタと震えている。


「誤解しないでくれ。私は今日、奪いに来たわけじゃない。ただ、君が手に入れたという神の失敗作。あれの市場価値を測りに来ただけだ。おっと、お嬢さん。そんなに殺気を飛ばさないでくれ」


 マモンが指を鳴らすと、彼を背後から切り裂こうとしたセレーナの糸が、目に見えない力で奪われ虚空へと消える。

 マモンの不明の能力にセレーナは攻撃を停止させる。


「主人の前に、汚らわしい欲望を晒すな。その腕、すべて切り落として差し上げます」


「あら、セレーナ。その役目、私に譲ってくださらない? この守銭奴、リアム様の持ち物をジロジロと、万死に値しますわ」


 セレーナとアリシアが、かつてないほどの濃密な殺気を放つ。

 だが、マモンは余裕を崩さず、窓の外に鎮座する巨神を見つめていた。


「素晴らしい。神が捨てた残骸を、これほど高純度の資源として再定義するとは。君の持つ知識、そしてその王女たちの魔力。ああ、たまらない。今すぐ私のコレクションに加えたい!」


「試してみるか? かすりでもしたら、その権利をくれてやってもいいぞ」


 俺が静かに告げると、巨神が呼応するように重低音の唸り声を上げた。

 巨神の周囲に展開されたのは、王女たちの献身によって構築された多層因果装甲。マモンの略奪の能力さえも、触れる前に無価値へと変質させる絶対の防御だ。


「ふむ。あのリリスが手傷を負ったわけだ。今の私でも、強引に奪うには少々コストがかかりすぎるな」


 マモンは冷静に分析し、六本の腕を収めた。彼は強欲であるがゆえに、損得勘定には誰よりも敏感なところがあるのは原作にもあった。

 だから厄介な大罪と多くのゲームプレーヤーを悩ませた。


「今日は帰るとしよう。だが忘れるな、リアム。君が積み上げたその富が大きくなればなるほど、私の欲望は抑えきれなくなる。いずれ、君のすべてを、私のポケットに入れてあげるよ」


 マモンの姿が、黄金の砂となって消えていく。

 

「逃がしましたか、主。追跡いたしましょうか?」


「いや、いい。あいつはまだ生かしておいてやる。今は、目先のゴミ掃除が先だ」


 俺の視線の先には、窓の外の闇に紛れてこちらをうかがう、もう一つの邪悪な気配があった。

 色欲のリリス。

 彼女はマモンを盾にして、俺の隙を狙っていた。


「アリシア。王女たちを巨神の深層へ。色欲のリリスが最後の賭けに出ようとしている。彼女の色欲を絶望で上書きしてやる。準備を始めるぞ」


「「「はい、リアム様(閣下)!!」」」


 王女たちの歓喜の返声が響く。

 パーティーは再開されたが、その裏では、リリスを確実に仕留めるための、残酷で甘くて美しい包囲網が着々と基礎から作られ始めていた。

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