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第36話 巨神の魔改造



 色欲のリリスを退けたというニュースは、瞬く間に大陸全土を駆け巡った。

 魔王軍の幹部を、ただの余興として追い払った俺の名声は、今や恐怖を通り越し、ある種の神格化さえ伴い始めていた。

 俺は王都の屋敷の地下、広大な魔導工房にいた。

 そこには、小型化した虚無の王アバター・リアムのコアがあり、その周囲を無数の魔力ラインが血管のように這い回っている。


「出力は安定しているな。防御面に不安がある。リリスの因果干渉を受けた際、コンマ数秒のラグが生じた。魔王ルシファー級が相手なら、その一瞬が致命傷になる」


 俺は真理の速読で巨神の設計図を空中に投影し、複雑な術式を次々と書き換えていく。


「リアム様、こちらに聖王国の聖女たちが捧げた純潔の涙のマナ・クリスタルを持ってまいりましたわ。ふふ、彼女たちの祈り、いえ、リアム様への執着が詰まった極上の触媒ですわよ」


 アリシアが、紫色の光を放つクリスタルを盆に載せて現れる。

 彼女の指導により、王女たちは自分の魔力が俺の一部になることに至上の喜びを感じるようになっていた。


「主。王女三名の魔力特性を抽出しました。エレナの増幅、クラリスの浄化、フィオナの剛性。これらを巨神の外殻に多層展開することで、あらゆる属性攻撃を無効化する反因果装甲が完成いたします」


 セレーナが、影から吸い出した虹色の魔力糸を巨神のコアに編み込んでいく。

 俺は頷き、その糸を核へと繋いだ。


「よし。これでこの巨神は、俺の意志に反応するだけのデカブツから、世界そのものを書き換える審判の天秤へと進化する」


 巨神がボゥ、と低く唸り声を上げ、工房全体が震えた。

 レベル125。だが、この外部兵装を含めた俺の総合戦闘力は、もはやレベル150。傲慢のルシファーにすら届きうる領域に達しつつあった。




 そんな中、地上ではある騒ぎが起きていた。

 各国の王たちが、俺の機嫌を取り、かつ自国の王女たちが冷遇されていないかを確認するために企画した、リアム公爵生誕祭である。


「閣下! 本日はおめでとうございます! 我が王国が誇る最高級の酒と、最高の楽団を用意いたしました!」


「聖王国からは、伝説の聖遺物の破片を!」


 王宮の大広間は、かつてないほど豪華に飾り立てられ、大陸中の権力者が一堂に会していた。

 その中心に座る俺の左右には、今や俺の侍女として完全に板に付いた三人の王女。エレナ、クラリス、フィオナが、誇らしげに立っていた。


「皆様、落ち着いてくださいな。本日の主役はリアム様です。あまり騒がしくすると、外の巨神がクシャミをしてしまうかもしれませんわよ?」


 アリシアが扇子で口元を隠しながら、王たちを優雅に脅す。

 その言葉に、広間は一瞬で静まり返った。


「リアム様。本日のパーティーの料理、一部私たちが手伝わせていただきましたの。閣下のお好みに合うよう、精一杯真心を込めましたわ」


 王女の一人、フィオナが俺のグラスにワインを注ぎながら、愛おしげに微笑む。

 彼女たちの様子を見た王たちは、驚きに目を見開いた。


「ば、バカな。我が帝国の誇り高きフィオナが、あんなに幸せそうな顔で給仕をしているだと!?」


「聖女クラリス様が、まるで恋する乙女のような瞳を。リアム公、一体どんな魔法を」


 王たちの不安をよそに、パーティーは和やかに、という名の恐怖政治下で、進んでいく。

 王女たちは、俺の傍らにいられる序列を競い合い、誰が一番俺の好みを把握しているかを小声で言い争うほど、この生活を楽しんでいた。


「楽しいな。こういう茶番もたまには悪くない」


 俺は差し出された最高級の肉を口にし、ワインで流し込んだ。

 平穏だ。このまま世界が俺の足元にひれ伏し、魔王軍を掃除するだけで済むなら、それに越したことはない。

 死亡フラグさえ逃れれば俺はそれで十分であるからな。ただしこの世界が俺を強引に死亡フラグ通りにしてくることも考える。

 なぜなら原作は主人公カイルが魔王を倒していく話であって、俺は直ぐに死ぬ設定だったからだ。


 その時。俺の真理の速読が、不吉なノイズを検知した。


「主。王宮の結界の外に、不自然な静けさを確認。潜伏能力に特化した個体が、こちらを観察しています」


 セレーナが影の中で短刀を抜く気配がした。


「ふむ。リリスの次は、強欲のマモンか、あるいは嫉妬か」


 俺は玉座に座ったまま、視線を広間の高い天井へと向けた。

 王たちが享楽にのめり込んでいるところ、王女たちが俺の特別な愛を競うこの華やかな場所が、一瞬で戦場に変わる予感がした。


「アリシア。王女たちを巨神の中枢へ運んでくれ。このパーティーの余興として、新しい武装の威力を試させてもらう」


「ふふ、承知いたしましたわ。さあ、皆様、リアム様のために、もっともっと魔力を出し切ってくださいな!」


 アリシアに連れられ、王女たちが嬉々として巨神のもとへ向かう。

 彼女たちにとって、戦いはもはや恐怖ではなく、俺への献身を証明するためのデートのようなものに変わっているかもな。

 俺はゆっくりと立ち上がり、震える王たちを見下ろした。


「王たちよ。デザートの前に、少し大きな音がするが気にするな。俺の庭に不法侵入した害獣を、一匹片付けてくるだけだ」


 俺の背後に、漆黒の魔力が渦巻く。

 レベル125の俺の戦いは開始だ。

 王宮の夜空に、再び巨神が響き渡ろうとしていた。

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