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24話

第24話 大陸会議


 大陸全土を揺るがした神の使徒の瞬殺劇から数日がたった。

 アイゼンガルド帝国の国境に近い、中立都市ヴィーゼ。そこにある巨大な円卓の間には、かつてないほど沈痛な面持ちをした各国の王たちが集結していた。

 議題はただ一つ。リアム・ド・グラナードへの対処である。


「報告にあった通り、帝国の英雄召喚は、戦いと呼べるものにすらならなかった」


 アイゼンガルド帝国の皇帝が、数日で十歳は老けたような顔で口を開く。


「神の使徒は、リアムの魔圧に当てられただけで戦意を喪失。さらに、彼に従う元・聖女アリシアによって、召喚の理そのものを破壊された。もはや我々人間に、彼を止める術はない」


 その言葉に、円卓を囲む王たちの間に絶望が伝わる。衝撃であった。

 一人の王が震える手で資料をめくり、声を荒らげた。


「そもそも、始まりは学園での婚約破棄ではないか。 グラナード公爵家との縁を切り、彼を追放したことが、この怪物を生む引き金となった。王家は何をしていた!」


 リアムを処刑しそこねたことに疑問と責任がいく。確かにリアムは処刑の破滅フラグがあった。その日に異世界転生してきて、原作知識でフラグを逃れた。それが今の怪物になったのは当たっている。


「言葉を慎め。当時の調査では、彼は確かに無能な豚公爵であったのだ」


 王国側の使者が苦渋に満ちた表情で反論するが、その声に力はない。

 婚約を破棄され、国を追われ、泥を啜るはずだった男。それが今や、神の使いをゴミのように追い返す、神殺しの公爵と成長させてしまった。あまりに皮肉な現実に、誰もが口を閉ざした。


「それに、あのアリシア・フォン・ローゼンブルクだ。彼女を闇に突き落とし、あのような狂信の魔女に変えてしまったのは誰だ? 我々が彼女に過度な期待を押し付け、リアムを断罪したせいではないのか?」


 会議は、互いの責任転嫁へと流れようとしていた。だが、その喧騒を、一人の老賢者が静かに制した。


「王たちよ。議論を戻そう。リアムに降伏するのは、もはや時間の問題だ。だが、問題はそこではない。本物の魔王が、北の果てで完全に覚醒した」


 賢者が提示した水晶に映し出されたのは、空を覆い尽くさんばかりの、漆黒の死の気。世界を破滅させる魔力だった。人類が最も恐れていた魔王の存在の知らせだった。

 リアムが放つ傲慢な闇とは質の違う、純粋な絶滅の闇。


「このままでは世界は滅びる。だが神のお告げはこうだ。リアム・ド・グラナードは、世界を救う救世主ではない。彼は世界を終わらせる特異点であると」


 その言葉が、王たちの心に決定的なクサビを打ち込んだ。

 魔王から世界を救うのをリアムに助けを求めることはできない。彼は正義ではなく生存のために動く怪物だから。彼に頼れば、魔王が倒された後に残るのは、リアムという絶対者に支配された地獄かもしれない。

 それは魔王よりも危険だと話す。


「ならば、我々はリアムに降伏し、彼に貢ぎ物、いけにえを捧げることで、この嵐をやり過ごすしかないのか」


 会議の結論は、誇り高き王たちの全面降伏という無惨な形で幕を閉じた。むろんリアム自身は世界を破滅させようとか考えはないのに、リアム本人は生き残るために原作知識チートで強くなっている。

 それがかえって各国の王からはしたら恐怖でしかなかったわけだ。

 その頃そんな王たちの苦悩など露ほども知らないリアムは新たな目的地に向かう。




 俺は王都を離れ、大陸最大の未踏領域と呼ばれる、終焉の迷宮の入り口に立っていた。理由は簡単だ。もっと強くなる必要があるからだ。


「レベルアップが、遅すぎる」


 俺はステータス画面を睨みつけ、苛立ちを隠さなかった。現在レベル105。神の使徒を退けたことで一気に上がったが、俺の真理の速読が導き出した魔王との推定戦闘力差は、依然として絶望的な開きがある。つまりは世界は破滅するルートの可能性があるわけで、立ち止まってはいられない。

 世界を救う? 笑わせるな。俺は、俺が心地よく生きられる世界を守りたいだけだ。

 もし魔王がこの世界を壊すというのなら、それは俺の資産を傷つける行為に他ならない。だから、俺は魔王を殺す。ただ、それだけだ。だからレベルアップが絶対に必須となる。そこで俺は迷宮へと来た。


「リアム様。この迷宮の底には、世界の核となる魔力が眠っていると聞きます。貴方様の糧にするには、これ以上ない舞台ですわ」


 アリシアが、俺の影から這い出すように寄り添ってくる。彼女の闇の魔力は、この深淵の入り口に満ちる死気と共鳴し、より一層増していた。


「主。迷宮内部の隠密偵察、完了いたしました。下層にはレベル120を超える守護者がひしめいておりますが。主人の踏み台になるべく相手です」


 セレーナが、血に濡れた暗殺糸を巻き取りながら背後へと。恐ろしいほどに気配がないのは暗殺術のなせるわざか。

 どうやら、俺が許可を出す前に、入り口付近の魔物は一掃されていたらしい。


「行くぞ。神が俺を救世主じゃないと定義した? 結構なことだ。俺は俺のやり方で、この世界の魔王を倒してやるよ」


 俺は不撓不屈の法衣を着て、暗黒が渦巻く迷宮の中へと一歩を踏み出した。

 それと帝国の王はどうしているか。今頃は俺が危険な人物だと話しているかも知れないと考える。

 悪役貴族の俺は、さらなる最強を求め、神すらも見捨てた深淵へと潜っていく。

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