表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

16話

第16話


 石碑から放たれる青白い光が、霊廟の闇を塗りつぶしていく。アリシアと接触と入ってもどの程度なのか把握させず、アリシアは行動しそうだ。

 俺の隣には、頬を染めて震えるアリシアが立っていた。彼女の細い指先が俺の右手に触れた。アリシアの方からのアクションだった。どうなるかとなった瞬間、転移門の術式が魂の合致を誤認し、すさまじい勢いで回り始めた。これは望んでいない状況になったか。


 クソッ、やっぱりこうなるか。 アリシアの魔力が強すぎて、俺の指定した座標が上書きされていく。強すぎる。

 どこへ飛ばされるか分からない恐怖。だが、この場に留まって彼女の軍勢に囲まれるよりはマシだ。

 そう覚悟を決めた、その時だった。どこかで聞いた声。まさかこの声はあいつか。だとしたらまたも邪魔だが。


「そこまでだ、悪党リアムッ!」


 霊廟の入り口から、聞き慣れた、けれど今はひどく場違いに聞こえる正義の声が響いた。

 扉の残骸を蹴散らして現れたのは、光り輝く白銀の鎧を装備した男。

 原作主人公、カイル・フォン・ベルトランだった。お前か。何しに来たのか。


「カイルか。お前、まだそんな格好で正義の味方ごっこをやってるのか?」


 俺は冷たく言い放った。

 かつての俺なら腰を抜かしていたはずの勇者の姿だが、レベルを上げ、死線を越えてきた今の俺には、彼の放つオーラがあまりに頼りなく見えた。しかしカイルは本気の顔だ。ゲーム原作にある本気の顔だ。


「黙れ! アリシア様を無理やり連れ去り、この国を混乱に陥れた罪、万死に値する! アリシア様、今助けます! その汚らわしい男から離れてください!」


 カイルが聖剣を抜き放ち、聖なる光を放つ。主人公の光だった。原作ならカイルが中心。脇役は俺の方だ。

 だが、それに対するアリシアの反応は、カイルが期待したものとは真逆だった。今はカイルの扱いは変わったのはカイルは知らない。


「あら、カイル様。ご機嫌よう」


 アリシアは俺の手を握ったまま、首だけをゆっくりとカイルの方へ向けた。

 その瞳には、氷のような冷たさと、はっきりとした殺意が宿っている。カイルに向ける目は厳しい。果たしてどうカイルは思うのか。


「助ける? 誰が、誰をですの? 私がいま、どれほど幸せな時間にいるか。それを邪魔しに来たというのですか? この、不潔な男が」


「えっ? ア、アリシア様?」


 カイルが呆然と立ち尽くす。

 彼が愛し、守ろうとしていた清らかな聖女は、もうどこにもいないのだ。

 そこにいるのは、愛する男のためなら世界を焼き尽くしかねない、闇に堕ちた執着の化身の女。気づけカイル。そういうことだと。カイルの顔は信じられない顔をしている。


「カイル様。次にお口を開いたら、その舌を引き抜いて差し上げますわ。今、リアム様が私に愛の試練を与えてくださっているのです。私たちの転移を邪魔する者は、神であっても許しません」


「狂っている。リアム、貴様! アリシア様にどんな呪いをかけた!」


 カイルが俺を睨みつける。

 冤罪もいいところだ。呪いをかけたいのは俺の方だよ。こっちのセリフだった。この状況をカイルに説明しても無駄だろう。きっと信じないからな。


「呪いじゃねぇよ、カイル。これが彼女の本性だったってだけだ。お前が信じていた正義なんて、最初から砂上の正義だったんだよ」


 俺は石碑にさらに魔力を流し込む。カイルは邪魔だ。転移しようと思う。ここにいると頭がおかしくなる。

 転移門の光が限界まで膨れ上がり、空間が歪み始めた。


「待て! 行かせるかあああああああああああああ!」


 カイルが突進してくる。聖剣の一撃が俺たちの頭上に振り下ろされる直前。

 アリシアが空いた左手で、無造作に空間を征する。お前では勝てない。今のアリシアにはな。


「消えなさい」


 ドォォォォォン!!

 紫色の魔力の爆発がカイルを吹き飛ばし、霊廟の壁を粉砕した。こうなったか。

 原作の勇者候補だったはずのカイルが、虫ケラのように地面を転がる。この光景はさすがに原作にはない。まあこれでカイルとはお別れだ。

 その光景を見届ける間もなく、俺たちの体は光の渦の中に飲み込まれていった。転移は成功だな。問題はどこに行くかだ。





 転移したか。目を開けたとき、そこは不気味な赤茶色の岩肌が続く、切り立った渓谷だった。渓谷か、そうなるとまさかだがと俺の頭を原作知識がよぎる。

 空には巨大な影が舞い、耳をつんざくような叫びが響き渡っている。あまりいい予感ではないが。


「ここは、竜の巣か」


 俺は額の汗を拭いた。

 ゲーム原作における最終盤の修行場。生息するモンスターはすべてレベル90超えというハードモード設定。凄まじい危険度は高いとされる地域。そして何より最悪なのはというと。


「ふふ、ふふふふ。ついに、二人きりになりましたわね、リアム様」


 隣で俺の腕をぎゅっと抱きしめ、うっとりと表情を浮かべる聖女アリシアだった。

 俺は悟った。

 ゲーム主人公カイルという正義さえも振り払い、彼女はついに、俺を逃がさないための究極の檻へと俺を連れてきたのだ。ここからなれ俺は逃げれないという目算だろうか。そこまでして俺と一緒にいたいと。


 レベル上げのチャンスではあるが、生存難易度が跳ね上がりすぎだろこれ。

 目の前には、こちらに気づいて急降下してくる赤い巨体でドラコン種でるサラマンダー・キング。

 そして隣には、世界最強のヤンデレ聖女という環境。こんな状況は原作にもないし、俺にはこの状況を乗り越える知識はあるのか。俺にとって最大の武器は原作知識であり、想像もできない試練となった。

 俺の悪役貴族の生き残りサバイバルは、死亡破滅フラグを捻じ曲げたのはいいが、逆に人知を超えた領域へと突入していた。俺はどうしたらいいのやら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ