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14話

第14話 墓所の死闘と、進撃の聖女軍


 転移の衝撃で肺から空気が弾き出され、俺は冷たい石畳の上に転がった。

 視界がぐるぐると回り、不撓不屈の法衣が脈打つたびに、こめかみに鋭い痛みが走る。けっこう辛い。痛む所はゲームとは違う。


「はぁ、はぁ。ここが、西の忘却の墓所か」


 立ち上がると、そこは見渡す限りの墓標が並ぶ、音のない世界だった。

 空はどんよりとした灰色に淀み、地面からは死者の未練が具現化したような、薄気味悪い霧が立ち込めている。

 ここを選んだのには理由がある。

 この墓所の最深部にある沈黙の霊廟は、外界からの魔力的干渉を完全に遮断する特殊なフィールドに守られている。あのアリシアの異常な追跡能力も、あそこまで潜れば一旦は尾行を停止できるはずだ。たぶん。


「まずは身を隠して、この法衣のデメリットを制御する方法を練らないと」


 俺が重い足取りで墓地の中央へと進み始めた、その時だった。

 カタッ、と。

 静けさを破って、石と石が当たる音が聞こえた。

 周囲の墓が、一斉に内側から押し開けられる。

 中から這い出してきたのは、腐敗した肉をぶら下げた死体レイス・ゾンビの群れだ。ホラーで気味悪いな。だが、普通のゾンビじゃない。彼らの瞳には、邪悪な紫色の光が灯っている。


「生者の温もり。久しぶり、だねぇ」


 霧の向こうから、カサカサと乾いた声が響く。

 現れたのは、ボロボロの魔導師のローブを纏い、巨大な鎌を手にした老人。

 この墓所の隠しボス、『死霊術師ネクロマンサー・ゾルゲ』だ。


「おいおい、隠しボスが挨拶もなしにか。不運だな、俺は今、最高に機嫌が悪いんだよ」


「ほう。その法衣、身の丈に合わない魔力を合わせているねぇ。若造、その命を差し出せば、楽に死なせてあげよう」


「断る。お前を倒して、その沈黙の霊廟への鍵を奪わせてもらうぞ」


 俺は真理の速読を起動した。

 法衣の暴走はまだ治まっていないが、逆にそれを利用して、通常の数倍の密度で魔力を圧縮する。

 

「潰れろ」


 俺が右手を払うと、不可視の重力波が周囲のゾンビたちを文字通り粉砕した。

 だが、ゾルゲは不敵に笑い、鎌を振り上げる。


「無駄だよ。この墓所にある死体は数万。倒せば倒すほど、私の力となる」


「数万か。なら、一気に消し飛ばすだけだ」


 俺と死霊術師の、人が踏み入れていない未踏の墓所での死闘が幕を開けた。てっとり早く倒さないとアリシアが。俺は急いでいる。手間取っている場合じゃないのだ。







 一方、その頃。

 呪いの砂漠に面した、隣国ラズワルドの軍事砦。

 数千の精鋭兵が守るその強固な防衛拠点に、たった一人の女性が歩いて接近していた。


「止まれ! これより先は軍事境界線だ! 許可なき者は射殺する!」


 見張り台からの警告。だが、アリシアは止まらない。

 彼女の瞳には、愛しい人の逃走経路しか映っていない。


「うっとうしい。邪魔、邪魔、邪魔ですわ」


 彼女がそっと右手をかざすと、空が真っ黒に塗りつぶされた。

 それは雲ではない。あまりに膨大な、そして狂気に満ちた魔力の質量だ。


「ひ、ひぃぃっ!? なんだ、あの光はあああああ!」


「私はリアム様を探しているのです。彼を追いかけるために、この国の馬と、食料と、兵を貸してくださるかしら?」


「ふ、ふざけるな! どこの馬の骨とも知れぬ小娘に貸せるかよ」


「お黙りなさい」


 パチン、と彼女が指を鳴らす。

 次の瞬間、砦の巨大な城門が、紙細工のように内側から弾け飛んだ。

 アリシアが放つ聖女の威圧は、今や魔王の呪縛へと変わっている。

 彼女は怯える兵士たちの間を優雅に歩き、将軍が座る椅子へと腰掛けた。

 首を傾げ、狂おしいほど美しい微笑を浮かべる。


「さあ、お返事は? はい、か、それとも死か。私は急いでいるのです。リアム様が、あんな寒くて寂しいお墓に隠れて私を待っているのですから」


 兵士たちは武器を捨て、その場にひれ伏した。

 恐怖。圧倒的な暴力の前に、国家という枠組みなど無意味だった。

 

 こうして、ラズワルド王国の正規軍は、一夜にして聖女アリシアの私兵へと作り替えられた。

 彼女が率いるのは、正義のための軍隊ではない。

 一人の男を、地の果てまで追い込み、捕まえ、閉じ込めるための進撃のストーカー軍団である。


「待っていてくださいね、リアム様。今度は、その足が動かなくなるまで愛してあげますわ」


 リアムのいない地では、予想もしない展開になりつつあった。リアムはそれを知らない。







 忘却の墓所。

 俺は、心身ともに深く傷つきボロボロな全身のゾルゲの首を掴み、壁に叩きつけていた。


「が、はっバカな、これほどの魔力、耐えられる、はずが」


「言ったろ。俺は死にたくないんだよ。お前みたいな死人に、俺の未来を邪魔させるかよ」


 俺は真理の速読で解析した死霊術ネクロマンサーの核を、指先一つで破壊した。

 ゾルゲは悲鳴を上げて灰となり、その場に古びても美しい色の鍵が落ちる。

 沈黙の霊廟への鍵。これを求めて来たのであって、何とかゲットした。

 俺はそれをひったくり、最深部の扉を開いた。

 中に入ると、外の喧がしさが嘘のように消え、法衣の暴走もピタリと静まる。


「ふぅ。これで、一晩は稼げるか」


 俺は冷たい石の床に腰を下ろした。

 だが、安堵の息を吐いた直後、俺の真理の速読が、はるか東の方角から迫りくる数千の軍の足音を把握した。なんだこの感じは。恐ろしいものを感じる。

 そして、その中心にいる、誰よりも巨大で、誰よりも真っ黒な、あの愛の波動を感じる。


「マジかよ。軍を動かして追いかけてくるのかよ、あの聖女は」


 どうやって軍を集めたのか考えると末恐ろしい。俺の顔から、血の気が引いていくのがわかった。

 最強の装備を手に入れ、最強のスキルを得たはずなのに。

 どうして俺の死亡フラグは、より巨大な生存フラグ、アリシアの拘束に上書きされ続けているんだ?


「休んでる暇は、ないみたいだな」


 俺は再び立ち上がり、霊廟の奥に眠るという転移の秘宝を探し始めた。

 悪役貴族の俺は、全力を尽くした鬼ごっことなり、ついに国家規模の戦争へと発展しようとしているのか。待ってくれ、俺はこんな展開は望んでいないのだが。

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