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第128話 盤上の戦乙女
上空を覆う帝国巨大飛空艇の影が、聖王国王都の石畳を暗く塗りつぶしている。
地下神殿から地上へ出た俺たちの前で、四人の乙女が火花を散らしていた。まだやる気かな。
「話は聞かせてもらった。リアム様の専属日だと? 軟弱な交渉だが、構造を安定させるには悪くない。ただし、その最初の権利は帝国の私が接収する」
第一皇女フィオナが軍鞭を鳴らし、アリシアの鼻先を指す。
「ふざけないでください! 言っておきますけど、私とリアム様は最初からの付き合い。一番長いんですのよ。順番なら私が最初ですわ」
「滑稽ですわね、アリシア様。時間の長さなど、管理の質とは無関係。リアム様の夜の闇を最も深く知る私が、優先されるべきです」
「あら、皆様。私こそがここ聖王国王都の主。土地の利を活かした清浄な奉仕こそ、今のリアム様には必要ですわ」
聖王国クラリスが祈るように手を組むが、背後の魔力は今にも王都を消し飛ばしそうだ。
「埒が明かんな。ならば、リアム様が最も好む遊戯。盤上競技チェスで決めようではないか。勝者がリアム様を一日、好きにできる権利を得る」
帝国フィオナの提案に、乙女たちの目が一斉に変わった。チェスですか?
「望むところですわ。フィオナ様、帝国流の戦術、私の光魔法で焼き尽くして差し上げますけど」
「面白い。影の盤面、誰にも予測はさせませんわ」
「ふふ、聖女の加護があれば、運命の女神も私に微笑むはずです」
四人が即席に作られたチェス盤を囲み、地獄のような対局が始まった。何をしているのだ。俺を一日独占したいがために、勝負をするらしいが。一手一手に込められた魔圧で、周囲の建物がミシミシと悲鳴を上げている。
「あ、あの、リアム。アリシア様たちの目、もう勝負が終わるまで僕たちのことなんて眼中にないよ。これ、今のうちに逃げないと巻き込まれて消滅するよ」
原作主人公カインがガタガタと震えながら俺の袖を引く。
「カインはシロと一緒に飛空艇を隠しておくこと。俺は少し、この聖王国の王都の構造を確認してくる」
俺は専属日という自分の発言で、アリシアたちが顔を真っ赤にしてツンデレ気味に沈黙した隙を突き、音もなくその場を離脱した。
「クォオオン!」
シロの激励(?)を背に、俺は王都の迷宮のような裏路地を抜けた。目指すは、先ほど粉砕したボルジア枢機卿が隠し持っていた聖王宮の裏図面が示す場所だ。
「原作知識によれば、この聖王都の物流が一点に滞る淀みがあるはずだが」
王宮の最深部。禁忌の紋章が刻まれた鉄の扉を、古代魔術で静かに解錠する。
扉の向こうに広がっていたのは、黄金の都とは対極にある、腐敗と悪臭が漂う巨大な地下空間だった。
「これは、何?」
カインの代わりに独り言を漏らす。そこには、数千、数万という人型の魔導回路が並んでいた。
とういうか、人間だったものだろうな。
聖王国の民から吸い上げた魔力を、この巨大な施設で変換し、王族の贅沢と聖女の奇跡を維持するためのエネルギーとして供給しているってわけだな。
「なるほど。聖王国の清浄度の正体は、この地下に廃棄された民の命のしぼりカスか」
俺が物流の最適化を進めても、なぜか王都の末端に物資が行き渡らない理由が全て分かった。この地下施設そのものが、国家規模の寄生虫として物資と魔力を食いつぶしているのだから。
「趣味の悪い。俺の引いた街道を、こんなゴミ溜めに繋げるわけにはいかないな」
その時、暗闇からいくつもの赤い目が光った。
『誰だ我らの安息を乱す者は』
魔導回路に成り果てた犠牲者たちの成れの果てが、俺を包囲する。
「リアム・ド・グラナードだ。お前たちの無念を管理しに来たわけじゃないが。俺の計画の邪魔になる淀みは、すべて排除させてもらうぞ」
俺は手のひらに漆黒の古代雷を凝縮させた。
地上では乙女たちが恋のチェス対決を繰り広げ、地下では俺が国家の闇を物理的に掃除するってことだ。今頃はチェスがどうなったかは、あまり考えたくはない。カインとシロが対応しているだろう。
「まったく。あいつらに見つかる前に終わらせないと、今度は二人きりで地下デートなんて言い出しかねないからな」
俺は少しだけ顔が熱くなるのを感じながら、迫りくる亡者たちに向かって魔力を解放した。




