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第126話 聖域の修羅場
地下神殿の静けさは、飛空艇の突入という物理的な暴力によって完全にぶっ壊れた。そこまでするかよ。
がれきの煙が舞う中、アリシアが杖を構えて優雅に殺気全開で降り立つ。隣には、影から染み出してきた暗殺セレーナが立っていた。
「あら。聖女様、ずいぶんと熱心なご祈祷の最中でしたのね。リアム様の首筋に噛み付くのが、この国の新しい儀式かしら」
アリシアの言葉は、氷点下の冷たさを帯びていた。クラリスに対して厳しいな。
「ふふ、アリシア様。相変わらず騒々しい登場ですわね。せっかくリアム様と物流の奥について語り合っていたというのに。これでは清浄度が保てませんわ」
クラリスは俺の胸から手を離すと、祈るように指を組み、聖女の微笑みを浮かべた。背後に浮かび上がる魔力は、もはや神聖という言葉から程遠い。
「物流の奥ですって? 笑わせないで。クラリスがやっているのは、リアム様の首に自分専用の荷札を貼るような、卑しい独占欲の表れですわ。セレーナ、貴女もそう思いませんこと?」
「ええ。同感です。影の住人である私ですら、これほど陰湿な囲い込みはいたしません。クラリス様、その印今すぐ私が影のクサビで、痕跡ごと消し去って差し上げましょうか」
「あら。お二人とも、お可哀想に。リアム様が選んだのは、この私との潜入ですわ。それはつまり、私こそが彼にふさわしいパートナーであるという証明。正妻の余裕、とでも言いましょうか」
クラリスの言葉に、神殿内の空気が凍りついた。アリシアとセレーナの額に青筋が浮かぶ。あらら、なんでこんな風になるかな。俺もどうしていいやら。
「正妻!? 寝ぼけているならそのまま永眠させてあげましょうか!」
「決まりましたわね。この不浄な地下神殿ごと、闇に葬ります」
「待て待て待て。今は仲間割れしている場合じゃないだろう」
俺が割って入ろうとした瞬間、神殿の奥の隠し扉が開き、黄金の法衣を着た老人がいた。
「ずいぶん騒がしいですが」
「ボルジア枢機卿」
クラリスが言った。黒幕のボルジア枢機卿が、私兵を引き連れて姿を現したようだな。
「ククク。愚かな乙女どもめ。聖域を汚した罪、その命で購うがいい! リアム・ド・グラナード、貴公の命と、その白銀の獣は我ら教団がもらう」
ボルジアが勝ち誇ったように叫ぶ。彼には見えていなかった。
今、この場にいる乙女たちが、史上最強に機嫌が悪いという事実に。ある意味で俺、シロよりも怖い存在なんだよな。
「うるさいですわよ、そこの金ピカ。今、大事な話をしていますの」
「不快。その汚い口を閉じなさい、豚の餌にもならない老害が」
アリシアとセレーナの冷たい一言。ボルジアがたじろぐ。
「な、なんだと、捕らえろ、この不届き者たちを!」
「あーーーー、もういい。カイン、シロ。こいつらは俺がやる。アリシアたちの暴走を止めてくれ。これ以上、構造を壊されたら俺の計画が狂う」
「えっ、僕が!? 無理だよリアム、あのアリシア様たちの間に入ったら、僕の体が物理的に消滅しちゃうよ!」
「クォオオン!!」
俺も嫌だ! あの女たちの目は本気だという声で吠える。
カインとシロが全力で後ずさる中、俺はボルジア枢機卿の前へと歩み出た。問題があり過ぎるな。とりあえず俺は枢機卿だな。
「ボルジア枢機卿。あんたの汚職や、帝国過激派との裏取引はどうでもいい。俺の物流網を私物化しようとし、挙句の果てにこの修羅場の原因を作った罪は重いな」
「な、何をするつもりだ! 私は教団の!」
「古代重力魔術・剛性崩壊。あんたの贅沢な骨組み、少しばかり最適化してやるよ」
俺が指先を鳴らした瞬間、ボルジアの周囲の重力が数万倍に膨れ上がった。重力魔術の一つだ。
「ぎ、ぎゃあああああああッ!!?」
物理的な圧力により、黄金の法衣が弾け飛び、枢機卿の体が床にめり込んでいく。彼は叫ぶ暇もなく、ただの丸まった肉の塊へと変わり果てた。俺の古代魔術の前では、聖職者の加護など紙屑にも等しい。
「さて。邪魔者は消えたぞ。いい加減にしようか」
俺が振り返ると、そこには火花を散らす三人の乙女の姿があった。こっちが厄介だよな。
「リアム様、よくやってくださいましたわ。ですが、この聖女との決着は別問題です」
「そうですわ。この紅い痕跡が消えるまで、私の夜は終わりません」
「ふふいいですわ。聖王国の王都を舞台に、誰が真にリアム様の隣に立つべきか。徹底的に、教育して差し上げます」
クラリスが聖なる光を束ね、アリシアが極大の光魔法を編み上げ、セレーナの影が神殿全体を侵食し始める。
「おい、カイン。逃げるぞ」
「うん、僕もそう思ってたところだよ、リアム」
「クォオオン」
神獣のシロですら怖がる始末だった。
崩壊を始める地下神殿。ボルジア枢機卿の粉砕はした。この後どうなるのだ俺は。




