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第121話 喧騒と祝杯、乙女たちの集い
サタンの残党が跡形もなく消え去り、ロベルト伯爵が負債者として連行された後、俺たちはギルド本部へと足を向けた。 石造りの重厚な扉を押し開けると、すぐに酒の匂いと熱気が鼻をついた。
「やあ、公爵様。地獄の番人を退けた英雄の帰還だな!」
王国のギルドマスターのカランドラが満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。彼女は机の上に腰を下ろし、大きなジョッキを高く掲げている。
「カランドラ、報告する。憤怒のサタンはもう消し去った。王都の物流、いや正確には食糧のルートの安全は確保したぞ」
「情報は商人のマルコからも聞いている。あのしつこい女商人が、あんなに上機嫌で計算しているのは初めて見るよ。おい、お前たち! 今日はリアム公爵のおごりだ! 思いっきり飲みな!」
「お、おい、勝手におごりにするんじゃない。相変わらずだな」
俺が呆れ混じりにため息をつくと、背後から華やかで圧のある気配が近寄ってきた。
「あら、カランドラ様。そんなにリアム様を困らせるのはやめてください。それに、公爵家の名誉を考えれば、こんな下品な場所で祝杯を挙げるのも問題ですよ」
アリシアが杖をぎゅっと握り直しながらカランドラに目線を送った。しかし、その隣にいるセレーナは冷ややかに鼻で笑う。
「名誉、ですって? アリシア様、あなたがサタンの炎に追い詰められたとき、あんな風にリアム様、助けてください!って情けない声をあげていたのはどなたですか」
「なっ! 誰がそんな声をあげたっていうの。私はあくまでも戦術的な撤退を提案しただけ。貴女こそ影に隠れて震えていたじゃありませんか」
「ふふ、それは武者震いというものですわ。鳥頭の貴女には理解できないでしょうけれど」
二人の緊迫した視線が火花を散らす中、ギルドの奥から三人の女性が歩みを進めてきた。
「リアム様! 無事で何よりですわ!」
王国の末姫、エレナが駆け寄ってきた。彼女の純粋な瞳が輝き、俺の手を両手で包み込む。
「エレナ、心配をかけたな。でももう危険は去った」
「はい、リアム様なら絶対に勝てると信じていました。でもあまり無理はしないでくださいね? もし何かあったら、私」
「まあまあ、エレナ様。近すぎますわよ。リアム様は清浄な空気が必要です。貴女の甘い香りは少し強すぎます」
アリシアが間に入ると、今度は穏やかながら神聖な圧を帯びた声が響いた。
「そうですね。リアム様の心身を癒すのは、私の聖なる祈りが最適です。お久しぶりですね、リアム様。北の街道以来ですか」
聖王国の聖女、クラリスが慈愛の微笑みを浮かべつつも、その瞳に笑みはなかった。
「クラリス。おかげで王都の結界も持ちこたえた感謝する」
「感謝なんて。新街道で示した自由に比べれば、私の祈りなど小さなものです。ですが、セレーナさんは相変わらずリアム様にべったりですね。影は光あってこそ存在します。調子に乗ると、私の光で吹き飛ばしてさしあげますわよ」
「ふふ、聖女様の光が? 私には眩しすぎて邪魔なだけ。リアム様の深い心の闇を理解できるのは、同じ深さを知る私だけです。貴女には似合いませんわ」
セレーナと聖女クラリスが静かに睨み合う光景を見て、カインが俺の隣で小さく呟いた。
「なあ、リアム。サタンと戦っている時より、今のほうが空気が重くないか?」
「カイン、黙って剣でも磨いていなさい。男の出る幕じゃないわ」
「へいへい、悪かったな、アリシア様」
肩をすくめるカインのすぐ後ろ、議場の奥の壁が、きしみそうなほどの強い足音が響いた。
「賑やかだな。弱者たちの宴に、真の強者がいないとは」
帝国の第一皇女、フィオナが軍鞭を鳴らしながら堂々と俺の前に立つ。
「フィオナまで来ているとは。帝国の国境警備はどうした?」
「サタンのような雑魚に苦戦していると聞いた。この顔を見る限り杞憂だったみたいだな。おい、その銀色の獣をこっちに出せ。戦功を称えてやらねば」
フィオナの視線が俺の足元にいるシロに向けられる。頬を少し赤らめているのを俺は見逃さなかった。
「クォオオン!」
シロがフィオナの足元に擦り寄ると、彼女は必死に表情を崩さないよう唇をかんで、その白い毛並みに手を伸ばした。
「毛並みだけは合格点のようだ。リアム様は相変わらず良い駒を揃えているな。物流の確立、街道の整備、そしてサタン討伐。帝国の皇帝も動きを無視できなくなっている」
「それは光栄だが、俺は俺のやりたいようにやるだけだ。カランドラ、酒を持ってこい。今日は俺の奢りだと言っただろう?」
「はは! 気前がいいねぇ、公爵様! それじゃ、みんなジョッキを持て!」
カランドラの号令とともに、ギルドの中は一気に歓声に包まれた。
「リアム様、私がお酒を注ぎますわ!」
「いえ、私の清めた聖なる酒をどうぞ」
「リアム様、毒見は私に任せてください。口移しでも構いませんよ?」
「皆さん、いい加減にしてください! リアム様の隣に座るのは私ですわ!」
アリシア、セレーナ、クラリス、エレナ、そしてシロを撫でながら顔を赤らめるフィオナ。五人の乙女たちの視線がまるで圧力となって俺を押し潰そうとしていた。
サタンを倒したあとのご褒美がこれか。原作の知識にもこんな修羅場の抜け方は載ってなかったぞ。
俺は額の汗をぬぐいながら、乾杯の合図を待った。王都の夜はまだ、やっと始まったばかりだった。




