112
第112話 過剰供給の劇薬
「リアム様。この山のような横領の証拠を、本当に対立しているロベルト伯爵の元へ届けるのですか?」
セレーナが、呆れたような、それでいてどこか楽しげな声を出す。彼女の目の前には、俺がギルドの裏帳簿から叩き出した、ベアトリクス皇女派閥による物資横領の記録が積み上がっていた。
「毒には毒を、強欲には強欲をぶつけるのが一番効率的だ。あいつは俺の成長を苦々しく思っているが、それ以上に、自分が甘い汁を吸えない状況を嫌う男だからな」
俺は手元の書類に目を通しながら答える。豚公爵だった俺なら、こんな面倒な真似はせず、ただ散らして終わっていただろう。今の俺には原作の知識と、この数ヶ月で叩き上げた合理的な判断力がある。最大限に活かすのがいい。俺のやり方だ。
「それにしても、アリシア様とカイン様をオトリにして王城へ向かわせるなんて。相変わらず、身内への信頼が歪んでいますわね」
「信頼ではない。適材適所だ。アリシアの激しい過激な性格と、カインの無駄に高い正義感は、王城で時間を稼ぐには最適の盾になる」
「あら、聞こえていたらアリシア様に刺されますわよ」
セレーナがクスクスと笑う。確かにな。その時、足元で丸まっていた白狼のシロが、顔を上げて短く吠えた。
「クォオオン!」
「よしよし、シロそう思うか。セレーナ、準備はいいか。第二皇女が減衰を狙って物流を止めるというなら、こちらはその逆をいく」
「逆、と言いますと?」
「ギルドが溜め込んでいる物資を、ロベルトの権限を使って市場へ一気に放出させる。それも、通常の三割という破格の値段でな」
セレーナの目が、俺の話で驚きに細められた。どうやら予想以上だったか。
「市場が混乱しますわ。皇女様が裏で確保していた利益も、すべて吹き飛びます」
「混乱こそが狙いだ。供給過多で価格を暴落させ、皇女の資金源を干上がらせる。これは慈悲ではない、ただの掃除だ」
俺は席を立ち、窓の外に広がる街並みを見下ろした。七人の大罪ベルフェゴールを倒し、マモンも倒し、領地を手に入れた時から、平穏など求めていない。
「さあ、始めよう。王国の寄生虫どもに、本物の物流の暴力というものを教えてやる」
俺の言葉に応えるように、セレーナが深々と頭を下げた。
「承知いたしました、リアム様。ふふ、やはり貴方は、最高に性格の悪い救世主ですわ」




