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11話

第11話 英雄の成れの果て


 神殿の通路を埋め尽くしていたドレイン・スケルトンの群れが、俺の放った黒い稲妻に焼かれて一瞬で塵へと変わる。

 本来なら、魔力を吸い取られてじり貧になるはずのこのダンジョンで、俺は逆に罠から流れる魔力を奪い取り、自らの糧へと変えていた。


「真理の速読、魔力回路、反転固定。吸収効率、最大」


 呼吸をするたびに、神殿に蓄積された数百年分の魔力が俺の中に流れ込んでくる。

 体が熱い。全能感という言葉では足りないほどの力が、指先から溢れ出している。


「はぁ、はぁっ。ああ、リアム様! なんて、なんて素晴らしい光景かしら!」


 隣で、アリシアがうっとりと頬を染め、膝を震わせていた。

 彼女の瞳には、倒されたモンスターのことなど微塵も映っていない。ただ、魔力の流れを自在に操る俺の姿だけを、目に焼き付けている。


「その冷酷で無慈悲な魔法。学園にいた頃の、あの惨めなふりをしていたあなた様も愛おしかったですが、今の真なる姿は、もう私の魂を焼き尽くしてしまいそう!」


「アリシア、静かにしてろ。奥に大物がいるぞ」


 俺は彼女の熱っぽい視線を無視し、神殿最深部の巨大な円形広場へと踏み込んだ。

 そこには、かつての栄光を物語るような白銀の鎧の一体の騎士がいた。

 だが、その鎧の中身は、とうの昔に朽ち果てている。

 青白い魂の炎が、空っぽの兜の中で揺れている。


「我は、この神殿を護りし不撓不屈の盾。生ける者よ、その意志の重さを証明せよ」


 『亡霊英雄・ガラハド』。

 レベルは82。

 ゲームでは魔力吸収と物理反射を同時に使いこなす、序盤のプレイヤーを絶望に突き落とす門番だ。


「証明だと? 悪いが、俺は程度は高くないし学もないと言っておく。俺にあるのは、死にたくないっていう執着と、お前が守ってる装備を奪うっていう目的だけだ」


 俺は不敵に笑い、地面を蹴った。

 真理の速読による超速の魔力構築。

 ガラハドが反射の構えを取るよりも早く、俺は彼の背後に転移し、至近距離から魔力を叩きつける。


「無駄だ! 我が盾はあらゆる事象を」


「反射の法則は知ってる。お前の盾は魔力のベクトルが一点に集中した時だけ発動するんだ。なら、こうすればどうだ?」


 俺は魔法の形を、一点集中から霧状の全方位散布へと変換した。

 物理的な重圧を伴う魔力の霧が、広場全体を押し潰す。

 反射すべき対象を絞れないガラハドの鎧が、凄まじいプレッシャーでみしみしと音を立てた。


「な、な、な、な、なんだ、このデタラメな魔力量は! 貴様、本当に人間か!?」


「さあな。悪役ってのは、人間を辞めた奴がなるもんだろ」


 俺が追い打ちの雷撃を放とうとした、その時だった。


「リアム様の手に面倒、苦労をさせるなんて、万死に値しますわ」


 背後から、凍りつくような冷気が流れ込んできた。

 アリシアだ。

 彼女はゆらりとガラハドの前へ歩み出ると、その美しい指先をゆったりと向けた。


「リアム様は、私を救い、この世界の王となるお方。そんな方に、死人の分際で意見するなんて敬意を欠いた言動です。あまりにも失礼な態度ですわ」


 アリシアの背後に、巨大な、強い嫌悪感や恐怖感を抱かせる、ぞっとするほど不快な紫色の陣が展開される。

 それは聖女の使う回復魔法の陣とは似ても似つかない、命を吸い尽くし、魂を拘束するための呪印だった。


「ひ、せ、せ、せ、聖女だと!? その汚れた魔力で、何を」


「消えなさい。リアム様の行く末を邪魔をする、ただの障害物」


 アリシアが指を振り下ろした瞬間。

 ガラハドの白銀の鎧が、内側から爆発するような負の魔力によって粉々に砕け散った。

 英雄の魂は悲鳴を上げる暇もなく、闇堕ちした聖女の魔力によって砕かれ消滅していく。


「あはっ、あはははは! 見てください、リアム様! 邪魔者は消しましたわ! これで、祭壇にある宝物はあなたのものです!」


 彼女は返り血のような魔力の残りを顔に浴びながら、俺を振り返って満面の笑みを浮かべた。

 レベル82のボスを、一撃。

 俺がハメ技で倒そうとしていた苦労を、彼女は愛情という名の暴力でねじ伏せてしまった。

 俺は、祭壇に安置されている不撓不屈ふとうふくつの法衣を見つめながら、こっそり冷や汗を拭いた。


 強すぎる。こいつ、俺がレベルを上げるスピードより速く闇堕ちして強くなってねぇか。

 法衣を手に入れれば、俺の防御は完璧になるのだが。


 それにしても、この法衣以上に、隣で「次は何を殺せば喜んでくれますか?」と目を輝かせている聖女から身を守る術が、俺には必要になったのは誤算と言える。

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