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第104話 聖王国の腐敗と、関税
山脈の工事を終えた俺たちは、聖王国の北端、国境の検問所にいた。
本来なら三つの大国を結ぶ物流の要となるはずの場所だが、目の前には長い列と、不当な関税を要求されて泣き崩れる行商人の姿があった。
「酷いですわ。リアム様、見てください。あの方たちの掲げている徴税額、通常の五倍はありますわよ。聖王国の清らかという言葉が聞いて呆れますわ」
アリシアが扇を握り締め、不快感を露わにする。日本でもある話で、役人の腐敗だろうな。
「ようやくまともなことが言えるようになったのですね。ですが、嘆くだけなら誰にでもできます。主がここへ来たのは、その腐った制度を根底から引き抜くため。アリシア様のような光り輝くだけの装飾品には、この泥臭い現場は不向きなのと思います」
「なんですって? セレーナこそ影の中でじっとしていなさいな。わたくしは光の魔法で、不正を行う役人たちの心ごと焼き払って差し上げたいくらいですわ」
「ふん、焼き払う? 暴力で解決するのは下策です。主はもっと美しく、残酷な方法でここを支配なさる。主、準備は整いました。例の裏帳簿、影の術式で役人の机から回収済みです」
「上出来だ、セレーナ。アリシアは黙って俺の背後にいていい。カインはあっちで暇そうにしている門番の相手でもしてこい。聖剣をチラつかせれば、少しは話が早くなる」
「ええっ、僕が!? それってただの脅しじゃない!? 勇者の僕がそんなことしていいのかな」
「勇者だからこそ、民を苦しめる悪弊を正す義務がある。行け、仕事だ」
「うう、分かったよ。あ、あの、門番さん、ちょっとお話がって、わあ! 槍を向けないでよ!」
原作主人公のカインが門番に揉まれている隙に、俺は検問所の責任者が座る豪華な執務室へと足を踏み入れた。内政の変革の開始といこう。
「何者だ、貴様。ここは聖王国の聖域だぞ」
「聖域か。その割には、裏で帝国と通じている横流しの証拠が散らばっているようだが」
俺がセレーナから受け取った帳簿を机に叩きつけると、中年の役人は一瞬で顔を蒼白にさせた。
「な、それをどこで! 警備兵! 警備兵は何をしている!」
「クォオオン!」
俺の影から巨大化したシロが姿を現し、部屋全体を威圧する。シロの放つ絶対的な強者の気配に、役人は椅子から転げ落ちた。
「無駄だ。外の兵はカインが引きつけている。さて、聖王国の役人に選択肢を与えてやろう。この場で不当な関税を撤廃し、全権を俺に譲渡するか。それとも、この帳簿を聖女クラリスに直接届けて、お前の首が飛ぶのを見るか。好きな方を選べ」
「そ、そそ、そそ、そそ、そ、そんな。だが、関税をなくせばこの街の運営が」
「運営? お前が私腹を肥やすための資金源だろう。安心しろ。俺が管理すれば、関税を下げても流通量は今の十倍になる。結果としてお前の懐に入る適正な手数料も増えるという計算だ。物流の停滞は、この世界の血液を止めるのと同義だ。俺はその詰まりを取り除くだけだ」
「リアム様。本当に、貴方の合理性は悪魔的ですわね。でも、そんな貴方に付き従うのが、わたくしはたまらなく誇らしいのですわ」
アリシアがうっとりとした表情で俺の腕に寄り添おうとする。
「主。役人の精神が崩壊しました。契約書の作成、私が代行しましょうか。アリシア様、主の腕から離れてください。主の演算に間違いが混じります」
「セレーナこそ、その殺気を引っ込めなさいな! リアム様が怖がってしまうでしょう?」
「主が私の殺気を怖がる? 笑えない冗談ですね。主は死神さえも使いこなす、この世の巡りの導き手です」
「二人とも、外でやりなさい。シロ、検問所の門を開けろ。今日から、この国境は自由通行とする」
「クォオオン!!」
シロの声が空に響き渡り、閉じられていた巨大な鉄門が音を立てて開いた。
滞っていた馬車の列が一斉に動き出す。行商人たちの歓声が、腐敗していた検問所を変えてしまった。
「原作なら、この関税問題は暴動に発展し、聖王国が分裂する原因となるシナリオもあった。俺が利権を上書きすれば、それは平和的な改革として歴史に刻まれるシナリオに書き換える」
俺は動き出した物流の波を見つめながら、次なる目的地を定めた。
「次は聖王都だ。クラリスを呼び出し、この街道の最終承認をさせる」
第105話(聖女の祈りと、リアムの甘い休息編)へ進みますか?




